なぜDSPを使用して三相永久磁石同期モータ(PMSM)を制御するのでしょうか?

三相永久磁石同期モータ(PMSM)の制御のためにデジタルシグナルプロセッサ(DSP)(MicrochipdsPIC33FJ32MC204 など)を使用する主な利点は、ハードウェアとアルゴリズムの緊密な統合にあり、リアルタイム性能、精度、信頼性といったPMSMの要件を正確に満たすことができます。

デジタルシグナルプロセッサ制御による三相PMSMのシステムブロック図


(出典:Microchip)

具体的な構成要素は以下のとおりです。

1. モータ制御用にカスタマイズされたハードウェアペリフェラル

dsPIC33 シリーズデジタルシグナルコントローラ(DSC)は、PMSM制御に必要な主要ペリフェラルを内蔵しているため、多くの外部回路を必要とせずに完全な制御システムを構築できます。

  • マルチチャンネルPWMモジュール: 図に示すように、dsPIC33FJ32MC204 は6つのPWMチャンネル(PWM1H/L~PWM3H/L)を備えており、三相インバータの6つのパワートランジスタを直接駆動して、正確な電圧ベクトル(例えば、空間スベクトルPWM、SVPWM)を生成できます。
  • 高速ADCと電流検出: 電流フィードバック(Ia、Ib)はAN0、AN1インターフェース経由で接続されます。12ビットADC(サンプリングレート最大1Msps)と組み合わせることで、リアルタイムの電流サンプリングが可能となり、「単一のシャント抵抗を使用した三相電流再構成」などの低コスト検出ソリューションをサポートします。
  • 故障保護とインターフェース拡張性: RB8ピンを 「過電流 」信号に接続し、ハードウェアレベルの保護を実装することができます。また、AN8やRA8などのインターフェースを拡張し、ユーザー操作(可変抵抗器による速度制御、スタート/ストップボタンなど)に対応することができます。

下図は、三相永久磁石同期モータ(PMSM)を駆動する dsPIC33FJ32MC204 デジタルシグナルコントローラの中核の電力段回路を示しており、1つのシャント抵抗を使用して三相電流を検出する最小限の回路構成を採用しています。

三相インバータ回路方式(3相トポロジ)

(出典:Microchip)

電力段:三相フルブリッジインバータ

  • 6個の電力スイッチ(上部ブリッジアームに3個、下部ブリッジアームに3個)で構成され、一般的な3相フルブリッジを形成します。その出力端子は、PMSMの三相のステータ巻線(U、V、W)に直接接続されています。

  • 各電力スイッチは dsPIC33 のPWMモジュール(PWM1H/L~PWM3H/Lの計6つのPWM信号)により駆動され、SVPWM(Space Vector PWM)または矩形波の制御信号を生成し、モータの電圧/電流を制御することができます。

電流検出:単一シャント抵抗器方式

  • インバータの下部ブリッジアームの共通端子にサンプリング抵抗(図では接地抵抗)を直列に接続します。キルヒホッフの電流則(Ia+Ib+Ic=0) を用いて、この抵抗の両端電圧を検出することにより、三相電流を再構成することができます。

  • 動作原理:PWMサイクル中、時分割サンプリング(パワートランジスタのスイッチング状態との組み合わせ)により、 Ia、IbおよびIcのうち任意の2相を1つのサンプリング抵抗の電圧から計算することができます。3相目は、3つの電流の和がゼロであるという関係から導出されます。

制御と保護機能の統合

  • dsPIC33 のADCモジュール(チャンネルAN0、AN1など)は、サンプリング抵抗の電圧信号を収集し、電流 フィードバックに変換し、クローズドループ制御(FOC:Field-Oriented Controlなど)に使用します。

  • ハードウェア保護(過電流保護など)が必要な場合は、dsPIC33 のデジタルI/O(RB8など)を介して故障信号を接続することで、迅速なシャットダウンを実現できます。

2. 複雑な制御アルゴリズムをサポートするリアルタイム計算能力

PMSMは、安定したトルク出力を行うためにフィールドオリエンテッド制御(FOC) などのベクトルアルゴリズムを採用しており、dsPICのDSPアーキテクチャは、このような高度で、複雑な計算を効率的に実行することができます。

  • DSPの1命令サイクル: 積和演算(MAC:Multiply-Accumulate)と浮動小数点演算をサポートします。FOCのコア演算(クラーク変換、パーク変換およびPI制御など)を1命令サイクル内で完了でき、アルゴリズムのリアルタイム性能(制御周波数10kHz以上など)を確保できます。
  • センサレスアルゴリズムの互換性: エンコーダを省略する必要がある場合、dsPICは高周波注入法または逆起電力方式でローター位置を推定することができ、システム全体のコストをさらに削減できます。

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