APDahlen Applications Engineer
はじめに
MOSFETのゲートには電流は流れない、と一般に言われています。
確かに、そのとおりです。
いったん、MOSFETがオンになると、MOSFETの絶縁ゲートには実質的に電流は流れません。しかし、ターンオン時の動作はそれほど単純ではありません。実際、高周波回路で使用される大電力MOSFETでは、数アンペアものゲート電流が必要になる場合があります。
「電流は最も抵抗の小さい経路を流れる」という思い込みと同様に、「MOSFETのゲートには電流が流れない」という思い込みにより、経験の浅い設計者は思わぬ落とし穴にはまってしまう可能性があります。実際には、2つの落とし穴があります。1つ目は、こちらで説明した静的なゲート駆動電圧の不足であり、2つ目は動的なゲート電流の不足です。
MOSFETのゲートモデル
第一近似として、MOSFETのゲート回路は、ゲート端子とソース端子の間に配置された内部コンデンサとしてモデル化できます。例えば、 VishayのMOSFET IRF510PBFの入力容量は180pFです。さらに複雑なモデルでは、ゲートとドレイン間の寄生容量も考慮します。このミラー容量(本記事の範囲外)は、MOSFETをさらに駆動しにくくします。
この状況は、図1に示すMultisim Liveの回路を考えることで、より理解しやすくなります。この典型的な回路では、理想的な300kHz、15V DCの方形波を22Ωの抵抗を介して印加し、MOSFETをオンします。ターンオフを高速化するため、MOSFETはショットキーダイオードMSS2P3を介してオフされます。
図1: MOSFETのゲート電流を測定するためのシミュレーション
技術的なヒント: MOSFETの遷移速度を遅くしたい場合があるかもしれません。例えば、高エネルギーのドレイン過渡波形を緩やかにすることで、EMI要件を満たしやすくなる場合があります。ただし、MOSFETが線形領域を「通過する」時間が長くなるため、効率に影響する可能性があります。
PCB製造後に部品を選定できるようにしておくことで、設計の最適化を図ることができます。図には示していませんが、ダイオードと直列に接続する抵抗を実装できるパッドを設けておくことをお勧めします。抵抗が不要な場合は、0オームの抵抗を実装してください。
技術的なヒント: 充電および放電時間が長いと、MOSFETを損傷する可能性があります。MOSFETはオン抵抗が低いことが大きな特長ですが、遷移が遅い場合、MOSFETは線形領域(中程度の抵抗を持つ「オーミック」領域)に入ります。この領域では、損失エネルギーが電流、電圧、およびその状態が続く時間に依存します。大電力回路でスイッチング時間が長すぎると、過度の発熱と熱ストレスによってMOSFETが破壊に至ることがあります。
その結果生じるゲート電流を図2に示します。緑色の波形は15V DCの矩形波駆動信号です。その結果として生じるゲート電流を青色の波形で示しています。充電パルスのピーク値は0.7Aであり、放電時は約1Aです。
明らかに、MOSFETには大きなゲート電流が伴います。
図2: 15V DCの矩形波(緑)によるゲート駆動と、その結果生じるゲート電流(青)
MOSFETドライバの必要性
図2は、MOSFETのゲート駆動電流が大きくなる可能性があることを示しています。この用途には専用のゲートライバICが用意されています。一例として、TIの LM5114BSD/NOPB を取り上げます。この3 × 3mmのデバイスは、MOSFETのゲートから最大7.6Aをシンクするように設計されています(詳細は次節で説明します)。
技術的なヒント: MOSFETドライバには、ローサイド(本記事で紹介しているようにグランドを基準とする)とハイサイド(負荷を基準とする)の2種類があります。この違いをより深く理解するために、このBLDCモータのアプリケーションを考えてみてください。ブートストラップという概念は、ハイサイドドライバを理解するうえで重要ですので、しっかりと理解しておいてください。
MOSFETドライバにおけるスプリットゲート駆動とは?
MOSFET駆動回路についてさらに考察するために、図3に示すスプリット駆動について考えてみましょう。このアプリケーションでは、TIの LM5114 は、MOSFETのゲートに対応する2つの出力を備えています。ソース電流とシンク電流の仕様は非対称となっています。このICは、ピーク1.3Aを供給してゲート電圧を12V DCまで引き上げるとともに、7.6Aを吸い込んでMOSFETのゲート容量を放電できます。ここでも、設計者はP_OUTおよびN_OUTラインに適切な抵抗を直列に接続することで、MOSFETのスイッチング速度を意図的に遅くすることができます。
図3: TIの LM5114 のデータシートに記載されている、スプリットドライブ方式を採用した簡略化ブーストコンバータ
おわりに
デジタルスイッチについては、静的特性だけでなく動的特性も考慮する必要があります。静的(常時オン)なMOSFETのゲートには電流が流れないことは事実です。しかし、オン状態とオフ状態の間を遷移する際には、大きな電流パルスが必要となります。この遷移速度と、その結果として得られるシステム効率は、十分な駆動能力を持つドライバに依存します。
ドライバには十分な余裕を持たせて設計し、その後、EMI要件を満たすために直列抵抗を追加してスイッチング速度を調整するという考え方に賛成ですか?
ご意見、ご提案は以下の欄にご記入ください。
ご健闘をお祈りします。
APDahlen
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著者について
Aaron Dahlen氏、LCDR USCG(退役)は、DigiKeyでアプリケーションエンジニアを務めています。彼は、技術者およびエンジニアとしての27年間の軍役を通じて構築されたユニークなエレクトロニクスおよびオートメーションのベースを持っており、これは12年間教壇に立ったことによってさらに強化されました(経験と知識の融合)。ミネソタ州立大学Mankato校でMSEEの学位を取得したDahlen氏は、ABET認定EEプログラムで教鞭をとり、EETプログラムのプログラムコーディネーターを務め、軍の電子技術者にコンポーネントレベルの修理を教えてきました。彼はミネソタ州北部の自宅に戻り、このような記事のリサーチや執筆を楽しんでいます。


