IoTマイクロコントローラの内蔵ADCに対し、外部ADCを選択し応用するタイミング

著者 Bill Giovino
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2018-11-21

ほとんどのマイクロコントローラには、オンチップでA/Dコンバータ(ADC:analog-to-digital converter)が搭載されています。IoTエンドポイントにとって、これは大切な基板のスペースを節約しながら、さらなる機能を提供します。しかし、設計者が特定の機能や性能特性のために外付けADCを選択しなければならない場合に備えて、Texas Instrumentsなどのベンダーは、基板のスペースへの影響を最小限に抑える高価値のADCを開発しています。

スペースと性能のトレードオフは設計者にとって最も難しい選択の1つですが、ADCはマイクロコントローラベースのデータ収集システムにとって最も重要なペリフェラルの1つでもあります。これは、多くの物理パラメータがモニタされるモノのインターネット(IoT)では特にそうです。このようなバッテリ駆動のIoTエンドポイントにとって、サイズと消費電力は非常に重要です。

この記事では、マイクロコントローラのオンチップADCペリフェラルが限界に達したかどうかを知る方法について説明します。そのあと、ADCのアーキテクチャと外部ADCの選択と実装方法について説明します。

マイクロコントローラ内蔵ADC

マイクロコントローラ上のあらゆるぺリフェラルは、半導体が構築されるプロセス技術の利点と限界に対処しなければなりません。タイマ、パラレルI/Oポート、およびSPI、I2C、UARTなどの通信インターフェースのペリフェラルは、CMOSデジタルプロセス技術と高い親和性があります

しかし、ADCはアナログペリフェラルです。内部的には、ADCやコンパレータのようなアナログのぺリフェラルは、純粋なデジタルプロセスでは利用できないコンデンサを必要とします。これは、ミックスドシグナル技術(アナログとデジタルが混在する技術)を使用することを意味します。マイクロコントローラは主にデジタル半導体であり、速度が重要ですので、使用されるミックスドシグナル技術は、アナログ機能や性能特性のためにデジタル速度を犠牲にしてはなりません。一般的なアプリケーションではこのバランスを取ることは可能ですが、ハイエンドのアナログアプリケーションではアナログのペリフェラルの性能が制限される可能性があります。シングルチップADCのような、ほとんどがアナログのデバイスには、1メガヘルツ(MHz)未満の低速のデジタルロジックしか搭載されていない場合があります。これにより、ハイエンドのデバイスは、主にアナログに有利なミックスドシグナルプロセス(アナログとデジタルが混在するプロセス)を使用してデバイスが構築されます。

ADCはアナログ入力信号の電圧レベルを基準電圧と比較します。基準電圧と等しい入力信号はフルスケールとして測定されます。例えば、入力電圧が 8 ビット分解能の ADC の基準電圧と同じ場合、ADCは0xFFを書き込みます。

マイクロコントローラでは、内部基準電圧はマイクロコントローラのメイン電源(通常はVCC)から生成されるか、専用のアナログ基準電圧ピンから供給されます。ADC出力の精度は、正確で安定した基準電圧に依存します。このため、ノイズ干渉を最小にするために、内部基準電圧を高速デジタルロジックから分離し、隔離しておく必要があります。外付けの専用基準電圧ピンは、メインのマイクロコントローラ電源から生成するのに比べて、より良い分離性が得られますが、それでもマイクロコントローラを通してスイッチングする高速デジタル信号から若干の干渉を受けます。これは、小さな電圧を正確に測定する際に、測定すべき小さなアナログ信号が内部基準電圧ノイズによって失われる可能性があるため、重大な問題となります。

ノイズの影響を最小限に抑えるために、より高い基準電圧を使用することができますが、低電圧を測定する際に同じ精度を維持するためには、分解能を上げる必要があります。これは、マイクロコントローラのチップ上のADCの面積を増加させるだけでなく、製造時のADCのテスト時間を増加させ、どちらもマイクロコントローラのコストを増加さ せます。これはまた、測定範囲の下限付近の、非常に小さな電圧を測定する際のADCの精度を低下させ、下位ビット位置の値が±4LSBまたはそれ以下の精度になる可能性があります。

マイクロコントローラのADCのもう1つの課題は、大きな分解能で高精度を要求するアプリケーションで使用する場合です。例えば、±2LSB以上の精度を必要とする24ビットADCを使用するアプリケーションは、非常に正確で安定した基準電圧を必要とし、上述した問題のいくつかを共有する可能性があります。

ADCのアーキテクチャ

逐次比較(SAR:successive approximation register)型ADC:逐次比較(SAR)型ADCは、ほとんどのマイクロコントローラで使用されています。これらは最大14ビットの分解能をもち、信頼できるものです。SARコンバータは測定されるアナログ入力信号を、基準電圧を順次1/2に減少した値と比較します。まず、入力電圧を基準電圧の半分と比較します。入力電圧が基準電圧の半分より大きい場合、出力のMSBが設定されます。次に、MSBの電圧値が入力電圧から減算され、基準電圧の4分の1と比較されて「MSB - 1」ビットが決定されます。この基準電圧の半減と入力電圧からの減算の連続は、LSBが決定されるまで続きます。

内部では、基準電圧は内部抵抗ラダーを使用して連続的に半減されるので、変換精度はラダー抵抗の精度とその使用温度範囲での抵抗値変化率に依存します。シングルチップADCと、ほとんどのマイクロコントローラ内蔵の逐次比較型ADCでは、抵抗は製造中にレーザートリミングされます。

逐次比較型ADCは、ミックスドシグナルプロセスへの実装が容易であるため、マイクロコントローラによく見られます。ただし、クロックからの干渉やマイクロコントローラの他の部分からの信号ノイズの影響も受けやすくなります。一部のノイズは、ガードトレースなどの半導体設計技術によって最小限に抑えることができますが、チップのサイズが大きくなり、コストが増加します。

デルタシグマADC:デルタシグマ(ΔΣ)ADCは、ƩΔ(シグマデルタ)型ADCとも呼ばれ、より高い分解能を提供し、20ビット以上のADC分解能の精度を持ちます。逐次比較型ADCよりはるかに複雑ですが、簡単に言えば、ADCはΔƩ変調器に信号を送り、ΔƩ変調器は被測定のアナログ信号をパルスストリームに変換し、パルス密度変調(PDM:pulse density modulation)を用いてエンコードします。PDMでは、パルスストリームの周波数、もしくは密度は基準電圧に対する入力信号の振幅に比例します。

完全な矩形波をエンコードすることはできませんので、PDM信号にはノイズが含まれます。デジタルフィルタがノイズを除去し、その後、デシメータ(ダウンサンプリング回路)がPDM信号を1ビットずつ2進数に変換して、マイクロコントローラコアによって読み取りと保存をできるようにします。前述のように、ΔƩ ADCは高分解能を提供しますが、トレードオフは逐次比較型ADCより遅いことです。電圧をPDM信号に変換し、PDMを連続値に並べるのに時間がかかるため、サンプリングレートが高いほど分解能は低くなります。

シングルチップADC

ほとんどのマイクロコントローラに内蔵されているADCは、多くのIoTアプリケーションに優れた性能を提供できますが、外付けADCが必要な場合には、PCボードのスペースを犠牲にすることなく、ノイズ耐性を高めて精度と感度を向上できるシングルチップADCがあります。

精密アプリケーション用ハイエンドADCの良い例は、Texas Instrumentsの4チャンネル12ビットΔƩ ADC TLA2024です。このADCの積分非直線性(INL:integral nonlinearity)はわずか±1LSBで、電源電圧のノイズに対して非常に高い耐性をもっています。精度は温度に対して非常に安定しており、ドリフトはわずか0.01LSB/°Cです。

TLA2024は、内部のレジスタにマイクロコントローラがアクセスするための標準的なI2Cインターフェースを備えています(図1)。

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図1:外付け部品を最小限に抑え、オンチップの1MHz発振器と基準電源を備えた
Texas Instrumentsの高精度ADC TLA2024(画像提供:Texas Instruments)

TLA2024は、電源電圧から生成される基準電源を内蔵しています。I2Cインターフェースを介して内部レジスタをプログラミングすることにより、設計者はマイクロコントローラを使用して、フルスケールの基準電圧を±6.144、±4.096、±2.048、±1.024、±0.512、あるいは±0.256ボルトから選択できます。0.256ボルトという低い基準電圧により、設計者はTLA2024を、オンチップADCを搭載したコスト効率の高いマイクロコントローラの性能を超えて、高精度の電流センシングや計測アプリケーションに使用することができます。

TLA2024は、4つのシングルエンド信号(不平衡信号)または2つのディファレンシャル信号(平衡信号)をサンプリングするように構成できます。プログラマブルゲインアンプは、小さな入力電圧を増幅して精度を高めます。

出力サンプリングレートは、128、250、490、920、1600、2400、あるいは3300サンプル/秒のいずれかを選択でき、シングルショットと連続変換の両方のモードをサポートしています。

TLA2024は、わずか2.05mm × 1.55mmの超小型X2QFNパッケージです。これは、重要なハイエンドなアナログ機能を追加しながらも、基板スペースを最小限に抑えることができます。TLA2024はノイズ耐性に優れていますが、他のADCと同様に、アナログ入力ピンAIN0~AIN3を対象とする信号の近くに配置し、PCボード上のデジタルコンポーネントから分離して十分に隔離する必要があります。

スピードと精度の両立

最も要求の厳しいアプリケーションでは、スピードと精度の両方が求められることがあります。オンチップADCを備えるマイクロコントローラの中には、毎秒100万サンプル以上のデータを取得できるものや、高精度のものもありますが、多くの場合、これらのスピードと精度の間でトレードオフが生じます。スピード、性能、およびスペースを最適化したいシステムの設計者にとっては、妥協やトレードオフの少ないADC搭載マイクロコントローラがあります。しかし、コストとスペースが重視される設計には、非常に小型でありながら強力な性能を発揮するシングルチップADCがまだあります。

例えば、Texas InstrumentsのADS7057は2.5メガサンプル/秒(MSPS)のサンプリングレートを持つ14ビットのディファレンシャル入力の逐次比較型ADCで、1.50mm x 1.50mmのX2QFN-8パッケージに収められています(図2)。これは面実装抵抗器とほぼ同じサイズです。ADS7057は、最もスペースに制約のあるアプリケーションを除き、基板全体のサイズにほとんど影響を与えることなく、基板上の空いている領域に簡単に配置することができます。マイクロコントローラはSPIインターフェースを使用してデバイ スにアクセスします。

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図2:SPIインターフェースを通じてマイクロコントローラからアクセス
可能な14ビットディファレンシャル逐次比較型ADC TI ADS7057
(画像提供:Texas Instruments)

精度が最適化されており、25°Cでの標準的な積分非直線性(INL)は±0.9LSBです。ADS7057の定格は-40°C~+125°Cですが、ADCは温度範囲の最端(-40°Cや+125°C)近くになると精度が低下し始めることが予想されます。ADS7057の場合、精度はこれらの極端な温度で±3LSBも変化します。しかし、このデバイスには、温度や電源電圧の変動に起因する±6LSBもの内部オフセット誤差を補正できる内部キャリブレーション機能もあります。

このセルフキャリブレーション機能により、ADS7057はほとんどのマイクロコントローラADCにとって不利な温度条件下でも優れた精度を提供することができます。このセルフキャリブレーションはデバイスの電源投入時、または電源や動作温度の変化が検出された時に行うことをお勧めします。

ADS7057はSPIのロジック回路に電力を供給するために1.65~3.60ボルトのデジタル電源電圧DVDDを必要とします。デカップリングコンデンサCDVDDには1µFのセラミックコンデンサを使用する必要があります。2.35~3.6ボルトのアナログ電源電圧AVDDは逐次比較型ADCに電力を供給し、基準電圧としても使用されます。AVDD電源は温度に対して安定で、出力インピーダンスが低くなければなりません。このため、低ノイズ、低ドロップアウトのレギュレータ(LDO:low-dropout regulator)を使用する必要があります。変換処理中に安定したアナログ電圧を維持するために、AVDDとグランドとの間に3.3µFのデカップリングコンデンサCAVDDを接続する必要があります。

このレベルの精度、スピードがあり、安定したセルフキャリブレーション機能と相まって、ADS7057は過酷な環境でソナー(水中音波探知)、サーマルイメージング(サーマルカメラなど)、および光学式エンコーダ(回転角度や位置検出など)を使用した測定を実行する必要があるIoT端末に適しています。

まとめ

ほとんどのマイクロコントローラは汎用のオンチップADCを備えており、最も要求の厳しい変換アプリケーションを除くすべてのアプリケーションに適しています。高精度と高速が要求されるスペース重視のIoT端末には、PCボードのスペースを犠牲にすることなく、高性能の小型外付けADC を使用できます。



著者について



Bill Giovino

Bill Giovino氏は、Syracuse大学で電気工学の理学士の学位を取得したエレクトロニクスエンジニアであり、設計エンジニアからフィールドアプリケーションエンジニア、そしてテクノロジマーケティングへと転身を遂げた数少ない人物の 1 人です。

同氏は25年以上にわたり、STMicroelectronics、Intel、Maxim Integrated などの多くの企業の技術者や、技術者でない聴衆の前で新しいテクノロジを語り、推進することに喜びを感じてきました。STMicroelectronics在職中には先頭に立ち、マイクロコントローラ業界における同社の初期の成功の一端を担いました。Infineonでは、米国自動車分野で同社初のマイクロコントローラ「デザインウィン」へと導き、また、自身の会社CPU Technologiesのマーケティングコンサルタントとしては、業績不振の製品を抱える多くの企業を成功へと導いてきました。

同氏は、最初に完全なTCP/IPスタックをマイクロコントローラに搭載するなど、IoTの早期採用者でした。同氏は、「教育を通じた販売」というメッセージと、オンラインで製品を宣伝する際に必要な、明確でわかりやすく書かれたコミュニケーションを重視しています。 同氏は人気のある LinkedIn Semiconductor Sales & Marketing Group のモデレーターであり、B2Eについては豊富な知識を持っています。

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DigiKeyの北米担当編集者



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