ラッチングソレノイドの動作


APDahlen Applications Engineer

ラッチングソレノイドとは何ですか?

ソレノイドは、電流の印加に応じてプランジャを動かすエレクトロメカニカルの機構です。ラッチングソレノイドも同様に直線運動を提供しますが、電気とは無関係にプランジャを定位置に保持する機構を備えています。ラッチは残留磁気、あるいはこの記事で取り上げているように永久磁石で形成されます。ラッチングソレノイドの主な利点は、ソレノイドを所定の位置に保持するために電力を必要としないため、エネルギーの節約と動作寿命の延長が図れることです。単安定および双安定のロータリソレノイドも利用可能です。

この技術概要では、図1に示すDelta ElectronicsのDSML-1153-24Cの動作について説明します。ここで説明するラッチングソレノイドは、ラッチとラッチ解除に順極性と逆極性を必要とします。図2に示すパルス電気インターロック回路の詳細については、こちらの記事をご覧ください。この回路は、ユーザーまたはプログラマブルロジックコントローラ(PLC)制御システムが順極性と逆極性を同時に印加することを防ぐため、ソレノイドの動作に不可欠です。

図1: 永久磁石を備えたDelta ElectronicsのラッチングプルソレノイドDSML-1153-24Cの写真

技術的なヒント: ソレノイドは、連続動作用と断続動作用があります。データシートを注意深く検討し、断続動作の条件を決定してください。これにより、コイルの過熱を防ぎ、機器の寿命を延ばすことができます。温度が10°C下がるごとに部品の寿命は約2倍になるという10°C2倍則を常に覚えておいてください。

また、データシートを確認して、機械的なサイクルの観点からソレノイドの寿命を判断してください。最後に、ソレノイドへの負荷のかけ方を考慮してください。軸を外れた負荷をかけると、プランジャの拘束を引き起こし、機器の寿命を縮める可能性があります。

図2: こちらの記事で説明した電気的インターロック極性反転回路によって駆動されるラッチングソレノイド

非通電ラッチングソレノイドの状態

ラッチング ソレノイドは、状態の観点から理解するのが最適です。単純な非通電状態を図3に示します。左はソレノイドがラッチされた状態、右はラッチされていない状態です。どちらの非通電状態でも、プランジャがその位置に留まるので安定しています。プランジャがソレノイド本体に物理的に押し込まれると、ソレノイドはラッチ状態になります。

ラッチされた状態では、永久磁石が プランジャをしっかりと保持することに注意してください。ドライバをプライバーとして使用し、プランジャを非通電のラッチ状態から押し出すこともできます。約1/4インチ動かされると、スプリングの張力によってプランジャはラッチが解除された状態に保たれます。

図3: 非通電時、ラッチソレノイドはラッチ(左)またはラッチ解除(右)されます。ラッチ状態では、永久磁石がプランジャをしっかりと保持します。

技術的なヒント: ソレノイドのコイルは大きなインダクタとして働きます。特にコイルを半導体Hブリッジで駆動する場合、ターンオフ時のフライバック電圧が問題となります。ソレノイドは双方向に電流を流す必要があるため、単純な1N4004ダイオードではこの状況では機能しません。代わりに、Hブリッジ内に4つのダイオードを使用してフライバック電圧を緩和しなければなりません。ダイオードはブリッジの各スイッチと並列に配置されます。

技術的なヒント: 直列接続された抵抗とコンデンサからなるスナバ回路をコイルに並列に追加することを検討してください。これにより、特にソレノイドが制御回路から遠い場合、RF干渉の可能性を減らすことができます。長いワイヤは、RFエネルギーを放射するアンテナのような働きをすることを思い出してください。

ラッチングリレー内の磁界の説明

この記事で紹介されているラッチングソレノイドには、一対の永久磁石が使われています。その磁界を図4(左)に示します。磁界は最短経路を求めてループを描いて移動することを思い出してください。この例では、ループは軟鉄製のヨークを通過します。また、鉄のプランジャも通過しています。

図4には、プランジャの下部位置からヨークの基部に向かって、目に見えない磁気エアギャップがあります。プランジャをソレノイド本体に引き込む力は小さいです。しかし、それはスプリングと釣り合っています。その結果、プランジャは押し出されたままになります。
ストロークと力の関係は、図5の一番下の(連続した)曲線に示されています。冷蔵庫の磁石のように、プランジャがソレノイド本体に引き込まれるにつれて力は強くなります。

図4: 永久磁石と電磁石の磁束線を示す画像。右側の磁界は、永久磁石の磁界と電気的な磁界が対向する極性を想定していることに注意してください。

図5: Delta ElectronicsのDSML-1153-24Cのストロークの関数としての力を説明するデータシート

通電時のラッチングソレノイドの状態

このソレノイドは極性に気をつける必要があります。このことは重要で、ソレノイドの動作についてより深く理解する手がかりとなります。図4(右)から、永久磁石と電磁石の磁界が相互に作用していることがわかります。明確にするために、以下の用語を使用します。

  • 順極性: 磁界が重なり合い、プランジャにかかる力が大幅に増加します。この状態を別の表現で説明すると、ソレノイドがプランジャをソレノイド本体に引き込む際に最大力を発揮している状態、つまりプル(吸引)状態と呼びます。

  • 逆極性: 磁界が互いに打ち消し合い、力が弱まることでプランジャがラッチを解除できます。この状態は、永久磁石の保持力が相殺されるため、ラッチ解除状態と表現するのが最も適切です。プランジャに磁力が作用していないため、これをプッシュ状態と呼ぶのは正しくありません。プランジャを引っ張るのはスプリングの張力だけであることを思い出してください。

技術的なヒント: このソレノイドはプルタイプです。ラッチを解除できるかどうかはスプリングの張力に依存します。この装置は負荷を強制的に引き寄せることができますが、負荷を押し出すことはできません。実験として、スプリングを取り付けない状態でソレノイドの動作を観察することをお勧めします。

ソレノイドの状態の確認

ソレノイドの状態をまとめると次のようになります。

  • 非通電ラッチ状態: プランジャはソレノイド本体の内部で完全に静止し、永久磁石によってその位置に保持されます。大きな機械的力が加えられるか、逆極性の電流が流されてロックが解除されるまで、この状態が維持されます。

  • 非通電ラッチ解除状態: プランジャは押し出された状態です。ソレノイドは、物理的に非通電時のラッチ状態に強制されるか、または「プル状態」の項で説明されているように順極性の電流が印加されるまで、この状態を維持します。

  • プル状態: これは通常、順極性電流に応答してプランジャがソレノイド本体内部に引き込まれる一時的な状態です。プランジャが所定の位置に引き込まれると、吸引力が確保されます。プランジャは、非通電ラッチ状態に記述されている位置に留まります。

  • ラッチ解除状態: これはプランジャが運動している一時的な状態です。ラッチ状態からラッチ解除状態へと移行しています。この状態は、ソレノイドに逆極性の電流が印加されたときに発生します。

  • 通電ラッチ状態: この状態では、順極性電流による磁界が永久磁石を補助するため、最高の保持力が得られます。システムが非通電ラッチ状態に移行すると、電源が切られても、プランジャは位置を維持します。

非対称磁場による混乱

結論を出す前に、磁界に関連する非対称性について検討する必要があります。まず、このリレーは24V DC用に設計されていることを認識することから始めます。このアプリケーションでは、図5に示すように、特定の距離における特定の引き込み力に関連する用語です。

コイルには通常、同じ逆極性の電流が流れていると想定されています。この想定は厳密には誤りではありませんが、ソレノイドの動作の解釈を曇らせます。特に、逆極性のソレノイドが強制的にラッチ位置に戻されることを観察すると、このことが当てはまります。事実上、逆極性にもかかわらず動作している通電ラッチのように見えます。ソレノイドのラッチを解除するために設計された逆電流がソレノイドを所定の位置に保持しているため、これは混乱を招く状況です。

ソレノイドを理解する鍵は、逆極性電流が定格電流より小さい必要があることを認識することです。DSML-1153-24Cの実証試験では、ソレノイドに12V DC(逆極性)が印加された場合、永久磁場と電磁場が相殺されることが示されています。この状態では、ソレノイド本体にプランジャを物理的に移動させても、目に見える引き込みは発生しません。12V DCが印加されている場合、ソレノイドは永久磁石が取り除かれたかのように動作します。

ラッチングソレノイドの最適な操作方法

図6は、磁界の非対称性に対する1つの解決策を示しています。抵抗器R1は、逆極性の印加により永久磁石の磁界が完全に打ち消されるように選択されています。ダイオードD5は、順極性の駆動信号が印加された際に、フル電流が印加されるようにします。

もう1つの選択肢は、パルス幅変調(PWM)制御信号による完全な半導体ベースのHブリッジです。これは省エネという利点があります。しかし、ラッチングソレノイドのオン時間は短いので、複雑な制御は割に合わないかもしれません。結局のところ、ラッチング機構こそが、そもそもこの技術を選択した理由なのです。

図6: 80Ωの抵抗器とダイオードD5は非対称電流を供給します。逆極性が印加されると(S2とS3が閉じられる)、永久磁石の磁界と電磁石の磁界が相殺されます。順極性が印加されると(S1とS4が閉じられる)、ダイオードD5を通してフル電流が印加されます。

技術的なヒント: 図6に関して、S1-S2またはS3-S4のスイッチペアを同時に閉じることは決してしないでください。シュートスルーと呼ばれる破壊的な状態が発生し、事実上、電源がショートします。

おわりに

この記事を準備している際に、DigiKeyのアプリケーションエンジニアリング部門の同僚たちにラッチングソレノイドを見せる機会がありました。この機構は、通常の範疇からちょっと外れているため、誰もが足を止めて二度見するような興味深いものです。

電子工学や物理学を教えているのであれば、ぜひこのデバイスを研究室に追加することをお勧めします。ソレノイドは、エアギャップ、永久磁石、電磁石など、磁界に関するユニークで興味深い学習方法を提供します。少し手を加えれば、例えば、上皿天秤に引っ掛けてソレノイドの力を測定することもできます。

以下のスペースにコメントや質問を追加してください。また、この記事の最後に記載されている問題と批判的思考を使う問題に回答して、知識をテストしてください。

ご健闘をお祈りします。

APDahlen

お役立ちリンク

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著者について

Aaron Dahlen氏、LCDR USCG(退役)は、DigiKeyでアプリケーションエンジニアを務めています。彼は、技術者およびエンジニアとしての27年間の軍役を通じて構築されたユニークなエレクトロニクスおよびオートメーションのベースを持っており、これは12年間(一部、軍での経験を織り交ぜて)教鞭をとったことによってさらに強化されました。ミネソタ州立大学Mankato校でMSEEの学位を取得したDahlen氏は、ABET認定EEプログラムで教鞭をとり、EETプログラムのプログラムコーディネーターを務め、軍の電子技術者にコンポーネントレベルの修理を教えてきました。彼はミネソタ州北部の自宅に戻り、このような記事のリサーチやエレクトロニクスとオートメーションに関する啓蒙記事の執筆を楽しんでいます。

注目すべき経験

Dahlen氏は、DigiKey TechForumに積極的に貢献しています。この記事を書いている時点で、彼は180以上のユニークな記事を作成し、さらにTechForumへ580にものぼる投稿を提供しています。Dahlen氏は、マイクロコントローラ、VerilogによるFPGAプログラミング、膨大な産業用制御に関する研究など、さまざまなトピックに関する見識を共有しています。

問題

以下の問題は、記事の内容の理解を深めるのに役に立つでしょう。

  1. ラッチングソレノイドに関して、ラッチングとは何を意味するのでしょうか?

  2. ラッチングソレノイドの利点は何ですか?

  3. なぜ、ソレノイドの極性に留意が必要なのですか?

  4. 今回紹介されているソレノイドに適用されている「プル型」という用語の意味は何ですか?

  5. 永久磁石の磁界と電磁石の磁界の相互作用について、順極性および逆極性の両方の場合について説明してください。 満点をとるには、ソレノイド内の磁界の概略図を含めてください。

  6. プル状態について説明してください。.

  7. プッシュ状態について話すことがなぜ不適切なのでしょうか?

  8. ソレノイドのコイルに1N4004ダイオードを並列に接続することが不適切である理由は何ですか?

  9. プル状態とラッチ解除状態における磁界の非対称性とは何を意味するのでしょうか?

  10. スプリングが取り外された場合のソレノイドの動作を説明してください。電源が投入されたラッチおよびラッチが解除された状態の説明も必ず含めてください。また、両極性で電源が投入された場合の動的動作についても説明してください。

  11. 永久磁石の磁界と電磁石の磁界が相殺されるタイミングを決定する実験について説明してください。

  12. 中程度の負荷がラッチングリレーをラッチされた位置に保持した場合、何が起こるでしょうか? ヒント: プルソレノイドとプッシュソレノイドの違いを説明してください。次に、何が負荷を押しつけるのかを説明してください。

批判的思考を使う問題

これらの批判的思考の問題は、記事の内容を発展させ、その内容や隣接するトピックとの関係を全体像として理解することができます。このような問題は、自由回答形式であることが多く、リサーチが必要であり、エッセイ形式で答えるのが最適です。

  1. ラッチングリレーの文脈における単安定および双安定という用語について調査し、説明してください。

  2. ラッチングロータリソレノイドの動作を調査し、説明してください。

  3. ラッチングソレノイドの選択にあたっては、省エネが重要な考慮事項となります。 1日16時間稼働し、1kWhあたり0.14ドルのエネルギーコストがかかると仮定した場合、ここで取り上げたソレノイドの年間エネルギー使用量を計算してください。

  4. ラッチングソレノイドには必ずしも半導体Hブリッジが必要ではないとされるのはなぜですか?

  5. あなたが選択した技術を使用して、ソレノイドが作動しないことを検出する回路を設計してください。

  6. ラッチングソレノイドのエネルギー消費量は、以前の問題で計算した連続運転と比較してどうですか。これは、ビジネスケースでラッチングリレーの使用を支持するのに適した指標ですか?設計上の決定には他にどのような考慮事項がありますか。




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