APDahlen Applications Engineer
ブートストラップ回路とは何でしょうか?
「ブートストラップ」という用語は、自力で困難を乗り越えるというイメージを連想させますが、エレクトロニクス分野では、ブートストラップ回路は、出力信号を使用して入力信号を「プルアップ」する回路として定義されます。アナログ回路では、この技術は増幅器の入力インピーダンスを高めたり、増幅段の直線性を改善したりするために使用され、スイッチング回路では、ブートストラップは図1に示すようにハイサイドMOSFETをオンにするために使用されるエネルギー源です。
ブートストラップ動作は通常「フライング」コンデンサで実行されます。この文脈では、フライングブートストラップコンデンサは、グランド基準ではなく、増幅段の出力を基準とします。その結果、コンデンサは出力に追従し、変化を増幅段の入力に反映します。たとえば、増幅段がグランド基準の0V DCから50V DCに変化すると、充電された15V DCコンデンサの電圧はグランド基準の15V DC から65V DCに変化します。コンデンサの両端で測定された電圧は15V DCで一定ですが、コンデンサはグランドに対して相対的にフライングしています。図1のブートストラップコンデンサC1に関連するこの15Vから65V DCの遷移が、この技術概要の中心テーマです。
図1: この回路図は、高度に簡素化されたハイサイドMOSFETゲート駆動回路を表します。ブートストラップコンデンサC1は、MOSFETゲート駆動用のエネルギーを供給します。
技術的なヒント: ハイサイドという用語は、電源を基準とするデバイスを指します。図1では、MOSFET Q1のドレインが50V DC電源に固定されています。この回路図では、D2がローサイドデバイスです。それはグランドに固定されています。ハイサイドのNチャンネルMOSFETは、ソース電圧が変動する回路ターゲットであるため、駆動が困難です。これには、MOSFETのソースとともに動作し、MOSFETがオンのときは V_{GS} を15V DCに維持し、MOSFETがオフのときは V_{GS} を0V DC に維持できるゲート駆動回路が必要です。MOSFETの破壊を防ぐため、ゲートドライブはこの範囲内に留まる必要があります。
グランド基準という用語はどういう意味ですか?
コンデンサに適用される場合、グランド基準という用語は、コンデンサの片側がグランドに接続されていることを意味します。たとえば、相補出力DC電源で使用される電源フィルタ コンデンサを考えてみましょう。プラス電源レールバイパスコンデンサのマイナス端子はグランドに接続され、マイナス電源レールバイパスコンデンサのプラス端子はグランドに接続されます。これらのコンデンサとその結果生じる電圧レールはグランドに固定されていると言えます。
一歩下がって、電源についてどのように考えるか考えてみましょう。当然のことながら、すべての電源はグランド基準であると想定します。回路をプローブで調べるときに、オシロスコープのグランドをシャーシに接続するのは、反射的に行ってしまう行動です。
これはほとんどの用途では適切ですが、すべての用途で正しい訳ではありません。
フライングコンデンサという用語はどういう意味ですか?
フライングという用語は、コンデンサがフリーであることを意味するものではありません。決して、それがフローティングと言っているわけではありません。そうではなく、この文脈では、フライングブートストラップコンデンサは常にMOSFETの出力に接続-実質的に「固定」-されています。MOSFETがオン、オフ、オンの間で切り替わると、コンデンサのマイナス端子は50V、0V、50V DCの間で切り替わります。
コンデンサはグランドを基準としてフライングしています。
これは電源について考えるには不自然な方法です。技術的なヒントで述べられているように、古典的な測定誤差、またはさらに悪い事態を招くことになります。グランド基準プローブを使用した場合、図2(左図)に見られるように、15V DCに充電されたコンデンサは、グランドに対して65V、15V、65V DCの電圧を表示することになります。
図2: グランド基準で測定した場合(左図)とコンデンサの両端で測定した場合(右図)のブートストラップ コンデンサの電圧。
技術的なヒント: オシロスコープはグランド基準であることを決して忘れないでください。グランドリード線のワニ口クリップを接続すると、プローブを通してオシロスコープのシャーシからACグランドプラグまで、回路のそのポイントにグランドを適用することになります。これは、C1の両端電圧のようなフライングコンポーネントを測定しようとする場合に問題となります。オシロスコープのグランドリード線をMOSFETのソースに不用意に接続すると、MOSFETが即座に破壊され、電源やオシロスコープさえも損傷する可能性があります。
フライングコンポーネントに加わる電圧はどのように測定するのですか?
適切な測定には、チャンネル1(コンデンサのプラス側)とチャンネル2(コンデンサのマイナス側)の間で減算操作を実行できる差動プローブまたはオシロスコープが必要です。
図2に示すように、これらの実際のグランド対リファレンスのアイデアをシミュレータで使用することができます。ブートストラップ電圧プローブ(差動プローブ)測定では、グランドまたは任意のリファレンスを使用できる構成設定があることに注意してください。図2の左側の図はグランド基準信号を表し、右側は図1に示されるREF1を基準に測定した電圧を表します。
ブートストラップ回路の分析
図1に示す回路は、ブラシモータおよびブラシレスモータそれぞれの駆動に使用されるHブリッジまたは3相Hブリッジに関連する回路を高度に簡素化したものです。おそらく皆さんは、模型のリモコン(RC)カーやドローン用の電子スピードコントローラ(ESC)という形で、このような回路を目にしたことがあるでしょう。ESCは、モータの速度と方向を可変制御できることを思い出してください。
図1の回路は単純ですが、ハイサイドMOSFETドライバに必要な次の必須コンポーネントが含まれています。
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低レベルのグランド基準ロジック信号がMOSFETを駆動できるように光アイソレータを介したレベルシフト
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高度に簡素化されたゲートドライバ(下記の技術的なヒントを参照)
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ブートストラップコンデンサおよび充電回路
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ハイサイドMOSFETのオフ時にスパイク電圧を吸収するフライバックダイオード
技術的なヒント: 専用の集積回路ドライバは、MOSFET制御のための、信頼性の高い簡素化されたソリューションを提供します。この単一パッケージソリューションには、レベルシフト、低インピーダンスMOSFETドライバ、およびさまざまなレベルの保護が組み込まれています。この記事で取り上げた50V DCの回路に適したMOSFETドライバは、数千ボルトのものまであります。ドライバは、ハイサイドとローサイドの両方を含む単一MOSFETに使用できます。ブリッジアームドライバは、フルブリッジおよび3相ブリッジドライバと同様に使用できます。
電源
この回路には、5V DC、15V DC、および50V DCを含む3つの電源が含まれています。 5V DC電源は、マイクロコントローラまたはフィールドプログラマブルゲート アレイ(FPGA)から出力するロジック レベルの制御駆動信号を表します。15V DCはMOSFETのゲート充電回路に使用されます。この値は、MOSFETの最適な駆動信号に近いため選択され、この記事で検討したように低いオン抵抗が保証されます。最後に、50V DC電源を使用して負荷にエネルギーを供給します。
レベルシフト
光アイソレータは、グランド基準のロジックレベル信号をハイサイドMOSFET用にレベルシフトするために使用されます。回路の左側には、図2(左図)に示す緑色の信号で表される低レベル信号があります。また回路の右側には、図2(左図)のように時間変化する青色の信号があります。この例では、光アイソレータは保守的な範囲で動作しており、出力である光ウィンドウの最大差は65V DCです。
ゲートドライバ
ゲート駆動信号は光アイソレータの出力トランジスタから直接出力されます。 NPNトランジスタがMOSFETをブートストラップ電圧までプルアップするように、共通コレクタ(エミッタフォロワ)構成が使用されます。オフになると、抵抗R2は電流制限抵抗R4を介してMOSFETゲートの電荷を放電します。
よく言っても、これは貧弱な回路構成です。しかし、デモンストレーションの目的には十分です。おそらく最大の弱点は、エミッタ抵抗に伴う大電流の流出です。技術的なヒントで提案されているように、専用のMOSFETドライバの使用を推奨します。
ブートストラップ充電回路
ダイオードD1と抵抗R3は、ブートストラップコンデンサの充電に使用されます。MOSFETがオフになるたびに充電サイクルが発生します。このサイクルが図2(右図)に表されています。青色のラインはコンデンサの両端で測定された電圧を表していることを思い出してください。緑色のPWM制御信号がオフになると、電圧が上昇します。 MOSFETがオンになっている間、電圧は低下します。充電サイクルを注意深く検査すると、R3とC1の時定数によって決定される RC 充電曲線が明らかになります。一見直線的に見える放電は、R2とC1の時定数が長いことに起因します。
フライバック
負荷は、モータの誘導性をシミュレートするために、10Ωの抵抗負荷と1Hのインダクタを直列に接続したものです。ダイオードD2はインダクタのフライバック電圧をクランプし、高電圧スパイクがMOSFETを破壊するのを防ぎます。
技術的なヒント: ブートストラップ回路でPWM駆動信号を100%のデューティサイクルで動作させないでください。ブートストラップコンデンサ(C1)は、上部MOSFETがオフになったときに充電されることを思い出してください。PWM信号がMOSFETをオフにしない場合、C1の電荷は消失します。ゲート電圧が低下すると、ハイサイドMOSFETのゲート電圧が十分ではなくなります。 MOSFETは線形動作モードに入り、おそらくそれ自体が破壊されます。
このデューティサイクル制限の問題は、チャージポンプまたは他のタイプの電源を使用して、ハイサイドMOSFETに絶縁された駆動信号を供給することで軽減できます。ブートストラップ方式のエレガントさと比べると、明らかに、これには複雑な追加回路を必要とします。
まとめ
ハイサイドMOSFETドライバはエレガントな回路です。光アイソレータによるレベルシフト、フライバック保護、充電用のステアリングダイオード、ブートストラップコンデンサなど、設計者のツールキットにあるツールの多くを使用しています。この回路は、完全な集積回路として提供されると、さらに印象的で素晴らしいものになります。次の機会があれば、RC電子スピード コントローラのリバースエンジニアリングにより、MOSFET回路がどれほどコンパクトになるかを確認してください。
ご意見、ご質問は以下の欄にご記入ください。この記事から何かを学んだと思われたら、「いいね!」をお願いします。
今後の記事では、H ブリッジのブレッドボードの作成方法について説明しますので、ご期待ください。また、このノートの最後に表示される問題や批判的思考を使う問題に答えて、回路の知識を必ずテストしてください。
ご健闘をお祈りします。
APDahlen
著者について
Aaron Dahlen氏、LCDR USCG(退役)は、DigiKeyでアプリケーションエンジニアを務めています。彼は、技術者およびエンジニアとしての27年間の軍役を通じて構築されたユニークなエレクトロニクスおよびオートメーションのベースを持っており、これは12年間(一部、軍での経験を織り交ぜて)教鞭をとったことによってさらに強化されました。ミネソタ州立大学Mankato校でMSEEの学位を取得したDahlen氏は、ABET認定EEプログラムで教鞭をとり、EETプログラムのプログラムコーディネーターを務め、軍の電子技術者にコンポーネントレベルの修理を教えてきました。彼はミネソタ州北部の自宅に戻り、このような記事のリサーチやエレクトロニクスとオートメーションに関する教育記事の執筆を楽しんでいます。
注目すべき経験
Dahlen氏は、DigiKey TechForumに積極的に貢献しています。この記事を書いている時点で、彼は150以上のユニークな記事を作成し、さらにTechForumへ500にものぼる投稿を提供しています。Dahlen氏は、マイクロコントローラ、VerilogによるFPGAプログラミング、膨大な産業用制御に関する研究など、さまざまなトピックに関する見識を共有しています。
問題
以下の問題は、記事の内容の理解を深めるのに役に立つでしょう。
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ハイサイドMOSFETとは何でしょうか、そしてローサイドMOSFETとどのように異なるでしょうか?
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グランド基準という用語はどういう意味ですか?
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ブートストラップ回路を理解する上で、なぜグランド基準を理解することが重要なのでしょうか?
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フライングコンデンサという用語はどういう意味ですか。 ヒント: そのコンデンサはどこからどこへフライングしていますか?
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D2が省略された場合、図1の回路はどうなりますか?
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D1の最大逆バイアスを計算してください。
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初心者のエンジニアが、オシロスコープのプローブをMOSFETのゲートに、ワニ口クリップをハイサイドMOSFETのソースに接続して回路をテストしたとします。その結果を説明してください。
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MOSFETベースのブリッジアーム、Hブリッジ、およびフル3相ブリッジを描いてください。
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PWMドライブ信号が 100% に設定された場合、図1のブートストラップコンデンサの電荷はどうなりますか?
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DigiKeyの製品を検索して、光アイソレータに代わる適切なハイサイドMOSFETドライバを見つけてください。
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図1の回路は、純粋な抵抗負荷を駆動するために使用できるでしょうか?
批判的思考を使う問題
これらの批判的思考の問題は、記事の内容を発展させ、その内容や隣接するトピックとの関係を全体像として理解することができます。このような問題は、自由回答形式であることが多く、リサーチが必要であり、エッセイ形式で答えるのが最適です。
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原則として、ゲート電流制限抵抗はMOSFETのできるだけ近くに物理的に配置すべきです。なぜでしょうか?また、なぜオシロスコープのプローブをあてるのは抵抗のドライブ側に限定しなければならないのでしょうか?
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図1の回路を変更して、50V DC電源を MOSFET ゲート駆動の電源として使用できるようにしてください。ヒント: IRF510の最大 V_{GS} 20V DC です。
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ハイサイドMOSFETをBJT(バイポーラトランジスタ)に置き換えたとします。ブートストラップ回路と充電回路に必要な変更を記述してください。
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専用のドライバ集積回路と比較した場合の、光アイソレータベースのMOSFETドライバの利点を説明してください。
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コンデンサはどのようにしてグランドに「固定」できるでしょうか。同様に重要なことですが、大きなコンデンサを使用して電圧レールをどのようにしてグランドに「固定」できるでしょうか?「固定」の代わりに他にどのような用語が使用されますか?
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ネガティブフィードバックとブートストラップの概念を対比し、比較してください。
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ハイサイドMOSFETが100%デューティサイクルの駆動信号に対応するように、図2の回路を修正してください。