フィルムコンデンサ

デバイスの構造

フィルムコンデンサは、紙や各種ポリマー(高分子)などの誘電体材料を薄いシート状すなわち「フィルム」状にし、電極材料を交互に挟み込んでコンデンサを形成した静電容量タイプのデバイスです。「フィルムコンデンサ」とは、このようなプロセスで作られたデバイスの総称で、その「フィルム」は誘電体材料の本体を表します。「メタルフィルム」や「メタライズドフィルム」のように「フィルム」の修飾語として「メタル」が使われる場合、それはフィルムコンデンサのサブタイプのうち、具体的には電極が支持基板上に非常に薄い(10数ナノメートル)層で構築されていて、通常は真空蒸着プロセスによって構築されているものを示しています。また、基板はコンデンサの誘電体材料として使用されることが多いのですが、必ずしもそうとは限りません。一方、「箔(ホイル)」電極コンデンサは、家庭用のアルミホイルに類似した電極材料で、機械的に自立できる程度の厚さ(マイクロメートルのオーダー)です。

メタルフィルム電極を用いたフィルムコンデンサは、自己修復性という利点があります。誘電体の局所的な欠陥の近くの電極材料は十分に薄いので、欠陥による漏れ電流によって蒸発し、静電容量を多少失いますが、欠陥を除去する(または「クリア」する)ことができます。この自己回復力により、信頼性や歩留まりの問題から実現不可能だった薄い誘電体の使用が可能になり、体積あたりの静電容量が大きくなります。箔電極コンデンサの利点は、電極が厚いためESR(等価直列抵抗)が低く、RMS(実効値)やパルス電流の処理能力が高いことですが、自己回復能力は犠牲になり、体積あたりの可能な静電容量が減少します。

基本的なフィルム電極と箔電極の組み合わせや細かい工夫は、数多く一般的に行われています。例えば、箔電極とフィルム電極を1つのデバイスに組み込んだ「フローティング電極」構成がよく見られますが、これは(セラミックコンデンサと同様)、実質的に2つ以上のコンデンサを直列に接続したものです。「外側」電極を箔型、「フローティング」電極をフィルム型にすることにより、電流処理能力、自己回復能力、そして体積あたりの容量が向上したコンデンサを実現することができます。また、パターン化したフィルム電極もよく使われる手法です。電極を内部で接続した多数のセグメントに分割することで、自己修復時に故障部位に流れる電流量を制限するヒューズとして機能させ、カスケード故障や短絡故障のリスクを低減させることができます。

image

一般的な使用方法とアプリケーション

交流の電力回路で使用されるデバイスにおいて、フィルムコンデンサはコンデンサ技術の主流となっています。メタライズドフィルムタイプは、自己修復性があり、多くの故障条件下でフェイルオープンが可能なため、安全規格の用途に適しています。金属箔タイプは、ACモータの起動/動作や一括送配電の容量性リアクタンス供給など、より大きなリップル電流振幅が予想される用途でよく使われます。さらに、フィルムコンデンサは、アナログオーディオ処理装置など、比較的高い容量値や温度に対する線形性および安定性が要求される低電圧信号用途に多く使用されています。

DCバスフィルタリングのように極性を反転させない用途では、アルミ電解タイプに代えてフィルムコンデンサを使用することがあります(逆も同様です)。電圧や静電容量の定格が同程度のアルミ電解コンデンサと比較すると、フィルムコンデンサは10倍程度サイズが大きくコストも高くなりますが、ESRは1/100程度低くなります。フィルムコンデンサは電解液を使用しないため、アルミ電解コンデンサで問題となる低温でのドライアウトやESRの増加がなく、アルミ電解コンデンサのように長期間使用しないことによる誘電性劣化がありません。また、フィルムコンデンサはESRが低いため、電解コンデンサで必要とされる容量値よりも小さな容量値で使用できる場合があり、電解コンデンサに比べてコスト面の欠点を相殺しています。

一般的な故障メカニズム/重要な設計上の考慮事項

フィルムコンデンサは一般に耐久性に優れていますが、長期的にはいくつかの摩耗メカニズムに影響を受けやすくなっています。誘電体材料は時間の経過とともに弱く、もろくなり、耐圧性能が低下し、やがて絶縁破壊に至ります。このプロセスは温度と電圧のストレスによって加速されますが、そのいずれかを低減することで製品寿命を延ばすことができます。絶縁破壊の度合いによって、その故障モードは、比較的穏やかなものから、かなり派手なものまであります。フィルムコンデンサの自己修復力により、軽度の絶縁破壊が発生した場合、静電容量が徐々に低下していきます。 このような現象が時間とともにさらに発生すると、累積効果により静電容量が減少し、ESRが増加し、デバイスの性能が仕様内に収まらなくなり、パラメトリック故障とみなされるようになります。

さらに極端なケースとして、パラメトリック故障が発生したデバイスを取り除かなかった場合、別の個所でパラメトリック故障が引き続き発生することがあり、自己修復時に放出される熱エネルギーが近傍の誘電体破壊をさらに誘発し、カスケード故障が起こる可能性があります。自己修復によりコンデンサの一部が回路から取り除かれるため、自己修復が進むにつれてアプリケーションのストレスがデバイスの縮小する部分に再分配され、回路内に実質的に残っているデバイスの部分にかかるストレスが増加します。そして、コンデンサで次に弱い部分が故障し、残った部分に負担がかかり、さらに故障が発生し、ストレス集中が起こり、さらに故障が発生する・・・といった具合に、指数関数的な現象が起こります。このプロセスが急速に起こってしまうと、自己修復過程から発生する副産物のガスが、デバイスのケースを激しく破裂させるぐらいの圧力になってしまいます。大型の装置では、このような事態が発生した場合、飛散した破片による巻き添え被害を抑制/防止するための排気機構を備えていることが多く、また、内部の過圧状態が発生した場合に回路から装置を取り除くための溶断機構を備えていることもあります。自己修復を繰り返すことによるパラメトリック故障は、その故障を起こしたデバイスをそのまま動作させ続けると、より壊滅的な爆発的故障に至る原因になりますので注意してください。

フィルムコンデンサに見られるもう1つの過負荷故障モードは、ピーク電流の制限を超えたときに、コンデンサの「プレート(plates)」と外部リード線の接続部分でヒューズのような作用が起こることです。 特にメタライズドフィルムタイプでは、電極が非常に薄く、その結果、外部との接続が繊細になるため、この現象がよく発生します。フィルムタイプのコンデンサの多くは、コンデンサに印加される電圧の最大変化率(dV/dt)が規定されています。これは、I(t)=C*dV/dtなので、デバイスを流れるピーク電流を規定するのと同じことですが、一般的に電圧は電流よりも測定しやすいので電圧で規定しています。

フィルムコンデンサの寿命は、環境条件にも左右されます。他のデバイスと同様に、高温になるとデバイスの寿命を著しく低下させます。フィルムデバイスに特有なのは、湿気に弱いという点です。高湿度環境に長時間さらされたり、組み立て後に洗浄したりすると、デバイスのリード線周辺のエポキシ樹脂と金属とのシールの不具合や、デバイスのポリマーケースからの拡散によって、デバイスに水分が混入する可能性があります。水分の混入は、誘電体材料の劣化や電極材料の腐食促進など、さまざまな面で悪影響を及ぼします。 特に、メタルフィルムタイプのデバイスでは、そもそも電極の厚さが数十ナノメートルしかないため、わずかな腐食で問題が発生します。 さらに、高振動環境では、デバイスのリード線やリード線と電極の接続に機械的な不具合が生じたり、水分の侵入が問題になることもあります。

フィルムコンデンサの信頼性と寿命の主な要因は、印加電圧、次いで温度です。サプライヤの寿命モデルは様々ですが、一般的には定格電圧と印加電圧の比のn乗(通常n = 5~10)で乗算し、温度の影響は温度が10°C上昇するごとに2倍変化するというアレニウスの関係に従っています。この2つの効果で、電圧を30%、温度を20°C下げると、寿命の目安が2桁近く増えます。

誘電体の種類、特徴、およびターゲットとするアプリケーション

アクリル:

アクリル系材料は、フィルムコンデンサの誘電体材料としては比較的新しいものです。現在入手できるデバイスは、圧電効果やDCバイアスによる静電容量低下を防ぐセラミック誘電体のリフロー対応フィルム代替品として、または低ESRのタンタル代替品として販売されていることが多いです。

クラフト紙は低コストで入手しやすいため、最新のポリマーが開発される前から、フィルムコンデンサとして最も初期から使われていた誘電体材料の1つです。一般に、空隙を埋めて吸湿を防ぐためにワックスや各種オイル、またはエポキシ樹脂が含浸されているため、誘電率が低く、吸湿性が高いことから、誘電体材料としての紙の人気はほとんどなくなりましたが、コストを極端に重視する用途や、従来の仕様からの変更が非常に困難な場合には、今でも限定的に使用されることがあります。ポリマー材料に対して、紙は金属フィルムの形成が比較的容易なため、紙を誘電体としてではなく、金属化電極材料の機械的担体として使用することもあり、ポリプロピレンなどの非金属化ポリマーが実際の誘電体として使用されます。

ポリエステル/ポリエチレンテレフタレート(PET)

ポリエステルはポリエチレンテレフタレートすなわちPETとも呼ばれ、ポリプロピレンと並んでフィルムコンデンサに最もよく使われる誘電体材料の1つです。ポリエステルはポリプロピレンに比べ、一般に誘電率が高く、絶縁耐力が低く、温度耐性が高く、そして大きな誘電損失を持っています。つまり、ポリエステル誘電体は、品質よりも静電容量の大きさを重視し、面実装を必要としないフィルムコンデンサの用途に適しています。また、ポリエステルの中には高温耐性に優れたものがあり、面実装型コンデンサに使用されていますが、数量としては比較的少ないです。

ポリエチレンナフタレート(PEN)

ポリエチレンナフタレート(PEN)は、表面実装、リフロー対応のパッケージでフィルムコンデンサ技術を使用できるように、高温に耐えるように設計された高分子誘電体材料です。用途としては、ポリエチレン(PET)のリフロー対応版と考えることができ、品質よりも静電容量の大きさを重視しています。PENは、リフローはんだ付けに対応する代わりに、比静電容量(体積あたりの静電容量)が若干低下し、吸湿の問題が発生しやすくなりますが、低周波における誘電正接はポリエチレンに比べて若干改善されます。

ポリプロピレン(PP)

ポリプロピレンは、一般的なフィルムコンデンサの誘電体の中で、最も誘電損失が小さく、誘電率が最も低く、最高使用温度が最も低いという特徴があります。また、これらのポリマーの中で最も高い絶縁耐力を有している材料の1つであり、温度に対する優れたパラメータ安定性を示します。全体として、ポリプロピレンは、静電容量の大きさよりも静電容量の質を要求するフィルムコンデンサ用途に最適な誘電体です。

ポリプロピレン誘電体は温度耐性が低いため、リフローはんだ付けプロセスに対応しておらず、スルーホールやシャーシマウントパッケージなどで使用されることがほとんどです。ポリプロピレンフィルムコンデンサは、その優れた損失特性から、誘導加熱(IH)やサイリスタ整流などの大電流・高周波用途のほか、安定した静電容量や線形性の静電容量が必要で、何らかの理由で他のコンデンサが入手できない、または使用できないといった用途に選ばれているデバイスです。

ポリフェニレンサルファイド(PPS)

ポリフェニレンサルファイド(PPS)誘電体は、ポリプロピレンに代わるリフロー対応の誘電体として、静電容量の量より質が重要視される用途に使用されます。PPSコンデンサはポリプロピレンに比べ、適用周波数範囲において比静電容量、誘電正接ともに2~3倍程度高いのですが、温度範囲における静電容量の安定性は若干改善されます。

その他の誘電体

多くのフィルムコンデンサの誘電体材料は、時代とともに変化しており、また、その他の誘電体もありますがあまり知られていません。新しい用途ですぐに利用できるわけではなく、また使用することもお勧めできませんが、参考と比較のためにここで触れておきます。

ポリカーボネート

ポリカーボネートは、硬くて透明な熱可塑性プラスチックで、安全眼鏡やヘルメットバイザーなどの耐衝撃性光学部品のレンズとしてよく使用されています。誘電体フィルムとしての製造は2000年頃に中止され、コンデンサ用に残っていた材料はほぼ消費されました。誘電体材料としては非常に優秀で、電気特性はほとんどの場合ポリプロピレンと同等ですが、温度特性が優れており、軍用の温度範囲(-55°C~+125°C)で比較的安定したパラメータで使用でき、しばしば高温でのディレーティングが不要でした。ポリフェニレンサルファイド(PPS)は、これまでポリカーボネートをベースとしたデバイスを使用していた用途に適した代替材料としてよく知られています

ポリイミド

ポリイミドは、「カプトン」という商品名で販売されている高温ポリマーで、フレキシブル回路用の基板として多くの電子機器に使用されています。 コンデンサ用誘電体としては、ポリエステルやPETと同程度の性能ですが、温度安定性が高く、200°Cを超える高温での使用が可能です。 誘電率が高いため、体積密度が高いデバイスを実現できる可能性がありますが、薄膜化が難しいため、この誘電体材料を使ったコンデンサは普及が難しい状況にあります。

ポリスチレン

ポリスチレンフィルムコンデンサは、耐熱温度が85°Cと非常に低く、組み立てや製造が困難であることから、現在ではほとんど絶滅しています。ポリスチレンコンデンサは適度な動作温度では電気特性が非常に良く、安定性や電気特性が重要な選択基準であった時代には、このデバイスが選ばれていた時期がありました。現在では、ポリプロピレンフィルムコンデンサに置き換わっているものがほとんどです。

ポリサルフォン

ポリサルフォンは、電気的にも、またコストが高く、比較的入手しにくいという点でも、ポリカーボネートに似た硬質で透明な熱可塑性プラスチックです。

テフロン/PTFE

「テフロン」はデュポン社の商標で、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)などを「テフロン」と呼んでいますが、主にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を含む多くのフッ素樹脂を包含しています。これらのポリマーは非常に安定で、高温耐性、時間、温度、電圧、周波数に対する優れた安定性など、精密誘電体として多くの賞賛に値する性質を備えています。PTFEフィルムは、その機械的特性やメタライズの難しさから、フィルムコンデンサの生産は難しく、コストも高いため、市場にほとんど出回っていません。




オリジナル・ソース(English)