高温過負荷と故障電流から回路を保護する方法

著者 Steven Keeping
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2023-06-14

回路保護は、危険な電流の増加から電気機械や機器を守るために不可欠です。危険な状況には 2 つのクラスがあります。1つは過電流によって電源機器に過負荷がかかる可能性がある場合、もう 1つは短絡または地絡が発生し、電流が急激に増加して有害な影響を与える場合です。

貴重な資産を保護するための一般的で成熟し、実績のある技術は、電気機械式回路ブレーカです。このタイプのデバイスは幅広い用途に対応しますが、起動時に突入電流が発生する電動モータなどにはあまり役に立ちません。このような状況では、トリップ(ブレーカが作動)する前にわずかな遅延を提供する熱磁気回路ブレーカを使用することをお勧めします。

それでも、熱磁気回路ブレーカでも適さない状況があります。たとえば、温度が極端に変動する用途や、発電機室のように温度が常に上昇する用途などがあげられます。このような用途における過負荷/故障電流保護を組み合わせた解決策は、油圧式磁気回路ブレーカです。このデバイスは、周囲温度の大きな変動に影響されるという欠点を持つことなく、熱磁気回路ブレーカの利点を提供します。

この記事では、熱回路ブレーカと油圧磁気回路ブレーカの機能と特性、そして後者が温度変化の大きい用途に適している理由について説明します。次に、 Sensata Technologiesが提供する実例を用いて、さまざまなタイプの油圧磁気回路ブレーカについて、設計例を含めて説明します。

磁気および熱回路ブレーカ

磁気回路ブレーカの保護機構は、ソレノイドと金属レバーから構成されます。事前に定義された電流閾値を超えると、ソレノイドの磁界は回路ブレーカのレバーを引きつけて回路を開くのに十分な大きさになります。このデバイスは、最もシンプルで最も安価なタイプの電磁回路ブレーカであり、単純な過負荷保護と地絡保護が必要な多くの状況に適しています。一度トリップした回路ブレーカは、手動でレバーを反転させることでリセットできます。

主な欠点は、磁気回路ブレーカがすぐに落ちることです。たとえ過電流が非常に短時間しか持続しなかったとしても。これは、たとえばデバイスが大型の電動モータを保護している場合には不利になります。このようなモータは、起動時に大きな突入電流が発生する傾向があります。突入電流は通常、過負荷電流を超えますが、持続時間が短いため、モータに損傷を与えることはありません。ただし、そのような電流は磁気回路ブレーカを作動させます。

熱回路ブレーカは代替手段となります。このデバイスはバイメタルストリップ(または「熱エレメント」)に基づいています。最も一般的な熱エレメントは、2つまたは3つの異なる金属をサンドイッチ状に組み合わせたものです。低膨張側は通常、熱膨張係数が低いニッケル鋼合金であるインバーです。センターエレメントは通常、用途に応じて、抵抗率の低い銅製か、抵抗率の高いニッケル製です。高膨張側で使用される金属はかなり多様です。熱エレメントのサイズ、構成、物理的形状、および電気抵抗率が回路ブレーカの電流容量を決定します。

ピーク電流が長時間印加された場合にのみ損傷を引き起こす過負荷状況では、熱エレメントが優れた保護機能を果たします。比較的大きな電流が熱エレメントをその抵抗によって加熱し、接点を開かせます。熱エレメントの動作には十分な遅延があり、モータの突入電流などの一時的な過負荷によって回路ブレーカが作動することはありません。トリップ時間は一般に過負荷電流に反比例します(図1)。

Diagram of cross-section of a thermal circuit breaker

図1:この熱回路ブレーカの断面は、過負荷電流によって加熱された
ときにデバイスをトリップさせる熱エレメントを示しています。
抵抗加熱により時間遅延が発生し、電動モータの突入電流などの
過渡現象によるトリップを防止します。(画像出典:Sensata)

熱磁気回路ブレーカは、熱エレメントと磁気エレメントの両方を1つのデバイスに統合したものです。過負荷電流は、トリップレバーを操作するのに十分な強い磁界をソレノイドに発生させませんが、熱エレメントを加熱し、最終的にトリップさせます。一方、故障電流はすぐにソレノイド内に高磁界を生成し、熱エレメントに優先して回路を即座に開きます。

熱磁気回路ブレーカの欠点の1つは、機器が特に敏感な用途に現れます。このような場合、過負荷電流は通常5アンペア(A)以下であり、バイメタルストリップを作動させるほどの熱は発生しません。これは、ストリップに加熱コイルを追加して予熱し、感度を上げることで克服できますが、複雑さが増すという欠点があります。

熱回路ブレーカと熱磁気回路ブレーカの両方の重大な欠点は、周囲温度の変化に敏感であることです。例えば、10Aの回路ブレーカは、高温環境では7Aという低い電流でトリップする可能性があり、低温環境では13Aという高い電流でトリップする可能性があります。メーカー各社は、高温または低温環境における実際のトリップ電流を示すディレーティング表を作成することで支援していますが、妥協しなければならない点もあります。

例えば、エンジニアは、不要なトリップに対処するために、高温環境での使用を想定した熱回路ブレーカをオーバースペックすることがよくあり、それによって機器が大電流にさらされる可能性が高まります。同様に、より寒い環境で使用する場合、回路ブレーカの定格を下げてより低い電流でトリップするようにすることができますが、これにより不必要なトリップが増加する可能性があります (表1)。

TEMPERATUR
IN
-30°C -20°C -10°C 0°C +10°C +20°C +30°C +40°C +50°C +60°C +70°C
6 A 7.2 7.09 6.91 6.73 6.54 6.31 6 5.66 5.33 4.94 4.5
10 A 12 11.8 11.5 11.2 10.9 10.5 10 9.44 8.89 8.23 7.5
13 A 15.6 15.4 14.9 14.5 14.1 13.6 13 12.2 11.5 10.7 9.75
16 A 19.2 18.9 18.4 17.9 17.4 16.8 16 15.1 14.2 13.2 12
20 A 24 23.6 23 22.4 21.8 21 20 18.8 17.7 16.5 15
25 A 30 29.5 28.8 28 27.2 26.3 25 23.6 22.2 20.6 18.8
32 A 38.4 37.8 36.9 35.9 34.9 33.6 32 30.2 28.4 26.3 24

表1:指定温度における熱回路ブレーカの実際のトリップ電流を
示す製造業者のディレーティング表。トリップ電流は、気温が
低いと定格より高くなり、気温が高いと低くなります。
(画像出典:Sensata)

オーバースペックまたはディレーティングは、温度が比較的一定している環境(高温または低温)では満足のいく解決策ですが、温度の変動が大きい地域では最適とは言えません。暖かい環境用に設計されたオーバースペック回路ブレーカは、温度が低下したときに機器を保護できない可能性があります。

大きな温度変動への対処法

油圧式磁気回路ブレーカは、熱エレメントを排除しているため、温度変化に伴う問題がありません。このデバイスは、-40°C~+85°Cの工業用温度範囲で常に安定した定格と性能を発揮します。

その名が示すように、この装置は単純な磁気回路ブレーカの磁気エレメントを使用していますが、ここではソレノイドコアはチューブ内のスプリングによって保持され、動きは油圧(シリコーン)流体によって減衰されます。ユニットを流れる電流が定格電流のまま、あるいは定格電流以下であれば、機構はトリップしません。過負荷電流が定格電流の100%から125%まで増加した場合、コイルに発生する磁束は、コアをスプリングに抗して動かし、装置をトリップさせるのに十分になります。

比較的弱い磁界を生成する過負荷電流の場合、スプリングと減衰流体がコアの動きを十分に減速させるため、モータの突入電流のような過渡過負荷ではトリップしません。異なる粘度の流体を使用することにより、異なる時間遅延曲線を得ることができます。しかし、真の故障電流の場合、ソレノイドの磁界は瞬時に減衰を打ち消して回路を遮断するのに十分なほど強力です(図2)。

Diagram of cross-section of a hydraulic magnetic circuit breaker (click to enlarge)

図2:この油圧式磁気回路ブレーカの断面は、過負荷または故障電流が十分に
大きな磁界を発生させたときにデバイスをトリップさせる磁気エレメントと
内部の減速されたコア(左)を示しています。コアチューブ内の減衰流体が
時間遅れを生じさせます。トリップ動作は温度の影響をほとんど受けません。
(画像出典:Sensata)

図3は、極端な温度が熱回路ブレーカと油圧式磁気回路ブレーカ(SensataのAirpax製品ライン)の時間遅延曲線に与える影響を比較したものです。グラフは、両製品タイプの100%の定格電流でトリップする製品と125%の定格電流でトリップする製品の遅延曲線を定義しています。

図3:大きな温度変化が熱回路ブレーカの遅延に与える影響は、油圧式磁気
デバイスよりもはるかに大きくなります。(画像出典:Sensata)

Airpax製品の場合、+125°Cの温度変動は遅延曲線にほとんど影響しません。例えば、+85°Cで定格電流の250%の過負荷の場合、トリップ遅延は0.013~0.2秒です。-40°Cでは、同じ電流に対する遅延は0.018秒~1秒の間です。より高い電流の場合、これらの極端な温度における遅延曲線間の差はさらに小さくなります。

熱回路ブレーカの場合、温度の影響ははるかに大きくなります。さらに、高温では、最小トリップレベルは100%定格電流を大きく下回り、低温では100%定格電流を大きく上回ります。これは、上で説明した熱エレメントに対する温度の影響によるものです。85°C、定格電流の250%の過負荷の場合、トリップ遅延は0.8~3.0秒です。-40°Cの場合、遅延は40~600秒になります。電流が大きくなると、遅延曲線間の差はそれほど極端ではなくなりますが、依然として顕著です。

油圧磁気回路ブレーカの設計上の考慮点

幅広い温度変動に対する耐性の他に、他のタイプではなく油圧式磁気回路ブレーカを選択する主な理由は、電動モータ、変圧器、または大型コンデンサへの突入電流によってデバイスが何度もトリップし続けることがないからです。このようなトリップは機械の運転に支障をきたします。

回路ブレーカの選定において突入電流の影響を考慮する前に、エンジニアは標準的な過負荷および故障保護用の回路ブレーカの定格を計算する必要があります。経験から、回路ブレーカの定格は、接続された回路が要求する連続負荷の100%に等しいものを選ぶのが一般的です。しかし、通常の機器運転中に発生するサージの大きさと持続時間を考慮することが重要です。

エンジニアはまた、最大動作電圧(通常は80、125、240、250、または277ボルト)と動作周波数[通常は直流(DC)、または50/60または400ヘルツ(Hz)の交流(AC)]を指定する必要があります。

よくある間違いは、回路ブレーカの定格をオーバースペックにして、安全マージンを確保し、不必要なトリップを防ごうとすることです。ただし、ヒューズとは異なり、回路ブレーカの定格は連続的に流すことができる最大電流であり、トリップする電流ではありません。20Aの回路ブレーカは、25Aの一時的なサージに容易に対応できます。しかし、サージ電流が通常60秒以上続く場合は、通常の連続電流ではなく、サージ電流の100%で定格された回路ブレーカを指定するのが良い設計方法です。

もう1つ重要な点は、性能特性として、回路ブレーカに適切な遅延曲線を決定することです。そのためには、エンジニアは突入電流の大きさと持続性を知る必要があります。突入電流のピークと持続時間をチェックする1つの方法は、回路をオシロスコープでモニターしながら機械を始動させることです。測定を数回繰り返すことで、平均ピーク電流と突入電流を求めることができます。設計者は機器メーカーのデータシートを参照することもできますが、線路損失や他のコンポーネントの影響など、ローカルな要因があるため、これは正確さに欠けます。

電動モータ用油圧磁気回路ブレーカの選定

設計者が最大動作電圧、動作周波数、連続電流、サージ電流とその継続時間、突入電流とその継続時間を決定すれば、適切な油圧磁気回路ブレーカを選択することができます。

SensataのAirpax IEGシリーズは、補助スイッチ、シャント、リレーを備えたユニットを含む幅広い構成で利用でき、遅延と定格、80~250ボルトの動作電圧、およびDC、50/60または400Hzのいずれか動作周波数のバージョンの選択ができます。ハンドルは7色から選べ、国際マークも標準装備です。

例えば、IEG1-1REC5-69-.100-21-Vの定格は100ミリアンペア(mA)です。ミッドレンジには20AのIEG11-1-61-20.0-01-V(図4)があり、ハイエンドには100AのIELK1-1-72-100.-01があります。

Image of Sensata’s IEG11-1-61-20.0-01-V hydraulic magnetic circuit breaker

図4:SensataのIEG11-1-61-20.0-01-V油圧磁気回路ブレーカは定格20Aで、
250V、50/60Hzなど複数の電源入力に対応します。(画像出典:Sensata)

大型AC電動モータを保護する油圧磁気回路ブレーカの例を考えてみましょう。電源電圧はAC250V、50/60Hzで、通常運転時のモータ電流は連続20Aです。電源回路に接続された他の機器の起動・停止に伴い、一時的に最大25Aの電流サージが20~45秒間発生します。起動時の突入電流は、100A(連続電流の500%)のピークが0.6秒間続き、1秒弱で連続運転レベルまで低下します。

この例では、サージ電流が発生するのは45秒未満なので、設計者は連続電流20Aのみに基づいて定格を選択しても安全です。SensataのIEG11-1-61-20.0-01-Vは定格が20Aで、250V、50/60Hzのバージョンなので、この用途には良い選択でしょう。.

Sensataはこのモデルの遅延チャートをデータシートに記載しています。例えば、Delay 42、52、62は、50/60Hzの装置での使用に適しており、ある種のモータおよびほとんどの変圧器やコンデンサ負荷の突入電流に対応するのに十分な遅延時間があります。Delay 43、53、63は、特殊なモータ用途向けに長い遅延を備えています。図5はDelay 63を示しており、曲線から、ピークサージ電流が 100A(500%)の場合、デバイスは0.8~15秒の間にトリップします。これにより、0.6秒でピークに達し、急速に立ち下がる例のモータの突入電流に、トリップすることなく対処することができます。

Graph of Sensata’s hydraulic magnetic circuit breaker Delay 63

図5:Sensataの油圧磁気回路ブレーカDelay 63は、特殊なモータ運転用に
長い遅延時間を特徴としています。定格電流の650%でも
トリップ時間は0.2秒以上です。(画像出典:Sensata)

油圧磁気回路ブレーカを垂直に取り付けるのが良い方法です。そうしないと、コアがチューブ内で引きずられてトリップ時間が長くなることがあります。

まとめ

電磁回路ブレーカは、機械回路保護のための堅牢なオプションですが、時間遅延を内蔵しており不要なトリップの繰り返しを防止する、熱および熱磁気デバイスの方が優れたオプションであることがよくあります。しかし、機器の温度変化が大きい場合は、油圧磁気回路ブレーカが、突入電流の影響を受ける機器を保護するために必要な時間遅延を持ち、その遅延は広い温度範囲で一定に保たれるため有用です。



著者について


Steven Keeping

Steven Keeping氏はDigiKeyウェブサイトの執筆協力者です。同氏は、英国ボーンマス大学で応用物理学の高等二級技術検定合格証を、ブライトン大学で工学士(優等学位)を取得した後、Eurotherm社とBOC社でエレクトロニクスの製造技術者として7年間のキャリアを積みました。この20年間、同氏はテクノロジー関連のジャーナリスト、編集者、出版者として活躍してきました。2001年にシドニーに移住した理由は、1年中ロードバイクやマウンテンバイクが楽しめることと、『Australian Electronics Engineering』誌の編集者として働くためです。2006年にフリーランスのジャーナリストになりました。専門分野はRF、LED、電源管理などです。

出版者について


DigiKeyの北米担当編集者




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