APDahlen Applications Engineer
この記事では、モータスタータの熱過負荷ブロックの詳細な実践的探究を行います。内部構造(図1)と実際の回路との物理的な接続について説明します。最後に、過負荷(トリップ)特性を評価するための実験(図2)で締めくくります。この試験では、モータの過負荷状態をシミュレートするために定電流直流電源を使用します。このシンプルなセットアップにより、時間対電流のトリップ曲線を観察することができます。
モータスタータに関する補足情報
この記事は、モータスタータを紹介し、その重要で時には捉えにくいアプリケーションを探る、より大きなテーマの一部です。詳細については、以下の関連記事を参照してください。
図1: 熱過負荷ブロックの内部構造を示す写真。平角線で構成されたヒータがバイメタル片に絶縁されて巻かれています。
モータスタータの熱過負荷ブロックとは何でしょうか?
定義上、モータスタータはコンタクタと熱過負荷ブロックで構成 されています。熱過負荷ブロックは、「ソフト」的なモータの異常を検出するために使用されます。トリガされると、モータスタータのプライマリコンタクタが開きます。ここで、「ソフト」という用語には、機械的な過負荷、ブラウンアウト状態、単相、アンバランスシステム、および一部のモータ巻線故障など、関連するモータを過熱させる状態が含まれます。対照的に、「ハード」という用語には、相間短絡や地絡などの大電流故障が含まれます。ハード故障は、主電源の回路ブレーカまたはヒューズによって処理さ れます。
モータスタータの詳細については、この入門編の記事およびこの3線式スタートストップ回路に関する記事を参照してください。重要なことは、あなたがこれら2つの記事の内容に精通していることを前提としている点です。なぜなら図2に示す実験セットアップの多くは、これら入門編の記事に概説されているからです。
図2: コンタクタと過負荷ブロックを含むモータスタータに、一定の1.5A DC電流(左側の電源)を流します。モータスタータのコイルは右側の電源によって作動します。
技術的なヒント: モータスタータの熱過負荷ブロックは回路ブレーカではないことを忘れないでください。回路ブレーカのように、熱過負荷ブロックには、過負荷の発生に応答して開く大きな(アーク消弧)接点がありません。しかし、熱過負荷ブロックと回路ブレーカには、臨界トリップ曲線を含む多くの類似点があります。
モータスタータの熱過負荷ブロックの内部には何があるのでしょうか?
多くのモータスタータは、過負荷を検出する温度感知システムを備えています。このシステムは、バイメタル素子に近接した低い値の抵抗器(ヒータ)のセットとして設計できます。モータのソフト異常によりシステムが過熱すると、バイメタル素子が曲がり、トリップレバーに圧力がかかります。この機構のトリップポイントは、電流の大きさと時間の両方の関数です。
図1はSchneiderの DPER06 (1~1.6A調整可能)熱過負荷ブロックの内部構造を示しています。ヒータは写真の前面に大きく表示されています。これらは、マンドレルに平角線を巻き付けた低抵抗器のように見え、またそのように働きます。「巻線抵抗器」の中心にあるコアはバイメタル素子です。ヒータとバイメタル片の間の電気絶縁材も写真で見ることができます。
バイメタル素子の動作は図1に示されています。ヒータの上部には、茶色のレバー機構が見えます。システムが加熱されるにつれて、このレバーは、ヒータに反応して1つまたは複数のバイメタル素子が反り返る作用によって横に押されます。ある時点でレバー機構は機械的にトリップし、小さなスイッチ接点が切り替わります。これらの接点は、図3ではノーマリオープン(97-98)とノーマリクローズ(95-96)のペアとして示されています。
技術的なヒント: 熱過負荷ブロックなどの部品を分解しないでください。デリケートな内部部品を損傷したり、取り違えたりする恐れがあります。高価なモータに直接、将来のリスクを負わせるのは得策ではありません。教育的見地から、この作業を行い、その結果を図1に示しています。
モータスタータのトリップ曲線とは何でしょうか?
トリップ曲線は、過負荷ブロックをトグルさせるための熱と時間の関係をグラフ化したものです。横軸に電流、縦軸に時間をとったこれらの曲線は、回路ブレーカや ヒューズによく見られるため、見覚えがあるはずです。しかし、過負荷ブロックは、同様のデバイスのように異常時に「開く」ものではないことを再確認しておかなければなりません。その代わり、過負荷ブロックはコンタクタコイルに信号を送り、回路を遮断します。
図4は、Schneider Electric DPEシリーズのモータスタータのトリップ曲線を示しています。左側のグラフには、この記事で後述する実験結果(丸で囲んだ点)が示されています。電流が大きい場合は電流が少ない場合より、過負荷ブロックが速くトリップすることに注意してください。後ほど示しますが、1.5Aの電流では、コールド状態の二相試験で約80秒でトリップします。より高い電流で同じ試験を行うと、約15秒でシステムがトリップします。
技術的なヒント: 過負荷ブロックとそれが保護するように設計されたモータとの間には暗黙の関係があります。例えば、三相誘導モータに瞬間的に過負荷をかけることは一般的に許容されます。しかし、持続的な過負荷をかけるとモータは過熱し、損傷します。適切に適合したモータスタータの過負荷ブロックの時定数は、モータの巻線の熱に影響します。モータの温度が高ければ、モータスタータのサーマルヒータも高温になります。過負荷ブロックは、モータが損傷する前にトリップする必要があります。ミスマッチがあると、無用な過負荷(低すぎる設定)やモータの過熱(高すぎる設定)につながるため、過負荷ブロックの選択と調整にはこの点を考慮することが重要です。
この記事で取り上げた熱過負荷ブロックは調整可能であることを思い出してください。この記事において後述する実験では、電流を便宜上1Aに設定しています。これにより、トリップ曲線の横軸を直接読み取ることができます。異なる過負荷ブロックを使用する場合、または調整を1A以外に設定する場合は、トリップ曲線に設定値を乗じます。例えば、過負荷ブロックが1.6Aに設定されている場合、4.8Aの電流が15秒でブロックをトリップさせる(横軸の電流を1.6倍します。)と予想されます。4.8Aは3A x 1.6として計算されるので、3Aをみると15秒であることがわかります。
図3: モータスタータ、過負荷ブロック、および補助接点ブロックの配線図
技術的なヒント: 熱過負荷に対処するときは、忍耐強くなければなりません。バイメタル素子が熱の影響を受けて曲がり、過負荷ブロックをトリップさせることを思い出してください。バイメタル素子は、冷めるまでこの曲がった状態のままです。この期間、過負荷ブロックをリセットすることはできません。これに関連して、対応するモータは高温になります。システムが冷えるのを待つべきです。一方、システムがダウンしている場合、現場監督などからは、機器をフル稼働状態に戻すようプレッシャーをかけられるでしょう。設備のダウンは非常に高くつくことを決して忘れてはなりません。
図4: Schneider Electric DPEファミリの過負荷ブロックのトリップ曲線と注釈付き実験データ
トリップ曲線を生成する実験の計画
交流の最初の授業を振り返って、実効値(RMS:Root Mean Square)という用語が熱に関係していたことを思い出してください。RMS測定は、ACの値を抵抗器などのデバイスにおける発熱量(電力)が等しいDCの値と同じとみなします。この基本的な学びは、モータスタータの熱過負荷ブロック内にあるヒータ(抵抗器)にも当てはまります。したがって、大型ACモータが消費するAC電流をDCで代用することができます。等価な加熱により、統制のとれた安全な実験において、トリップ曲線に関連する時間を自由に特定することができます。
実際の実験は比較的簡単です。まず図5に示すように定電流電源を配線します。次に別の電源を使って、図6に示す古典的な3線式スタートストップ回路を使ってリレー回路にDC24Vを供給します。
図6を見ると、過負荷ブロックのノーマリクローズ接点(95~96)がコンタクタコイル(A1~A2)と直列になっていることがわかります。従って、緑の起動ボタン(Start)を押すと、モータスタータが起動します。熱過負荷が発生するまでラッチされたままとなり、過負荷が発生すると、ノーマリクローズ接点(95~96)が開き、3線式回路のラッチが解除されます。図5を参照すると、モータコンタクタがラッチされている間、電流がL1相とL2相のヒータを通過することが分かります。
図5: 定電流電源による平衡「二相」試験の配線図
図6: KiCadを使用して開発した3線式スタートストップ回路の配線図
実験結果は、メーカーが公表しているトリップ曲線を裏付けています
実験の模様は動画1~3で視聴できます。定電流電源はそれぞれ3A、2A、および1.5Aに設定しています。それぞれの動画では、秒針が「0秒」を指した時に緑のプッシュボタンが押されます。不要な映像の部分は早送りをしています。その後映像は通常の速度に戻され、その時過熱によるトリップが発生します。コンタクタが外れる大きなガチャという音が聞こえます。そして、そのトリップ時間が時計の文字盤に表示されます。
この3つの部分からなる実験の結果は、メーカーが提供したトリップ曲線と重なっています。3Aのとき15秒、2Aのとき33秒、1.5Aのとき79秒であり、非常によく一致しています。定電流1Aで行われた別の実験でも同様です。トリップ曲線から示唆されるように、モータシステムはトリップしませんでした。これは1Aのヒューズや回路ブレーカのように、これらのデバイスが定格電流で連続的に動作することを想定しているためです。
動画1: 3Aが熱過負荷ブロックの二相を通過する際のトリップ時間を示す実験。合計時間は15秒です。
動画2: 2Aの実験。合計時間は33秒です。実験と実験の間にシステムを冷却していることに注意してください。
動画3: 1.5Aの実験。合計時間は79秒です。
次のステップ
この記事に記載されている実験は、過負荷ブロックを都合の良い1Aに設定して実施しました。また、定電流電源による二相構成の「コールドステート」を使用しました。例えば、ブロックを1.5Aに設定するなど、異なる設定で結果を検証するのが自然なフォローアップ実験です。3つのヒータすべてを直列接続で使用することもそれほど難しくはないでしょう。最後に、図3に含まれる「設定状態(ウォーム状態)で長時間経過した後」という条件の意味を知ることは役に立つでしょう。
時間と資源に余裕があれば、次のステップに進み、モータスタータを本来の大電力用途で操作してください。この記事は、表面的にモータスタータについて論じただけだということにお気づきでしょう。もっと詳しく知りたい場合は、
UL’s Industrial Control Panels and Panel Shop Program(ULの産業用制御盤およびパネルショッププログラム)への参加を検討してください。
安全性
これらの実験は、ベンチ電源から供給される比較的安全な24V DCを使用して行われました。これは、モータスタータを徹底的に探求するために不可欠な安全への配慮です。しかし、「港に停泊している船は安全だが、船はそのためにあるのではない」との古いことわざを思い起こします。
実際には、モータスタータは高電圧および大電力システム用に設計された産業用の有能な製品です。この記事で紹介したモータスタータは、690V ACシステムで7.5馬力(5.5 kW)の三相モータを運転できます。このようなシステムには、感電死やアーク爆発という危険が常につきまといます。たった一度のミスが、あなたの命取りになるかもしれません。
各地域、州、および米国のすべてのガイドラインに従ってください。ロックアウト/タグアウト(LOTO:Lockout/Tagout)プログラムを確立し、保守管理してください。出発点として、このOSHA(Occupational Safety and Health Administration)文書を検討してください。高CAT定格の試験装置を使用してください。高エネルギーシステム用の防護服を含め、適切なPPE(Personal Protective Equipment、個人防護具)を使用してください。最後に、業務上のリスク管理の最善の方法に従っ て、情報に精通したチームの一員として業務を遂行してください。
このことを念頭に置いて、安全性を考慮し、24V DCの実験台に満足しないことが重要です。教育者として、基本的な特性や 技術を紹介すると同時に、安全性の概念を探求し続けなければなりません。
ご健闘をお祈りします。
安全に!
APDahlen
著者について
Aaron Dahlen 氏、LCDR USCG(退役)は、DigiKeyでアプリケーションエンジニアを務めています。彼は、技術者およびエンジニアとしての27年間の軍役を通じて構築されたユニークなエレクトロニクスおよびオートメーションのベースを持っており、これは12年間教壇に立つことによってさらに強化されました(経験と知識の融合)。ミネソタ州立大学Mankato校でMSEEの学位を取得したDahlen氏は、ABET認定EEプログラムで教鞭をとり、EETプログラムのプログラムコーディネーターを務め、軍の電子技術者にコンポーネントレベルの修理を教えてきました。彼はミネソタ州北部の自宅に戻り、このような記事のリサーチや執筆を楽しんでいます。LinkedIn | Aaron Dahlen - Application Engineer - DigiKey