APDahlen Applications Engineer
この技術概要では、図1に示すPhoenix Contactの回路ブレーカ1019972の内部構造について説明します。この小型回路ブレーカは、Phoenix ContactのTMC 7ファミリの一部で、1A~63Aの単相および三相ブレーカがあります。このブレーカの定格は、最大277V ACまたは最大60V DCです。この回路ブレーカは、DigiKeyのPLCトレーナキットに含まれています。
図1: 2つのPhoenix Contactの回路ブレーカTMC 71C 01Aを並べた画像。1つは開いて内部構造を示しています。
技術的なヒント: 回路ブレーカは、特定の用途における法規制に準拠するように設計されています。エンジニアとしては、適用されるすべての安全規制に準拠するように設計する必要があります。たとえば、このブレーカはUL 1077に準拠しています。UL 489ブレーカが必要な場合に、分岐回路にTMC 7ブレーカを使用するのは不適切であり、危険な場合があります。その場合は、Phoenix ContactのTMC 8回路ブレーカを使用してください。Phoenix ContactのTMC 7とTMC 8の見分け方は簡単で、TMC 8の方が本体が大きく、ネジ端子接続部を超えて仕切りが伸びています。この「フィン」により、相間アークの移動距離が長くなり、分岐回路の保護が強化されます。
電流はどのように検出されますか?
電流の検出と応答は、すべての回路ブレーカが実行する主な機能です。電流はいくつかの異なる方法で検出することができます。直接法は電流の実際の値を提供でき、間接法は電流に比例した応答を提供します。
例えば、以下の方法が可能です。
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直接法:低抵抗シャント抵抗の両端の電圧降下を測定します。その後、アナログコンパレータ回路またはマイクロコントローラを使用して、回路ブレーカをトリップさせるソレノイドを作動させることができます。
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直接法:通電ワイヤの近くにホールセンサを配置し、電流を測定します。
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直接法:トロイダル電流検出トランス(Current Transformer、CT)に通電ワイヤを通すなど、誘導結合を使用して電流を測定します。
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間接法:通電ワイヤをソレノイドに通します。過電流によりプランジャが動きます。これにより機械的なラッチが押され、ブレーカがトリップします。
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間接法:バイメタルのストリップに巻かれた発熱体に電流を流します。過電流によりストリップが曲げられ、機械的なラッチに押し付けられ、ブレーカがトリップします。
さまざまな回路ブレーカがあることから、各方式がいずれかの時点で使用されたことがあると推測できます。しかし、Phoenix ContactのTMC 7は低コストの装置であると分かっており、間接的な方法を使用しています。この方法は図2に示すように、小型のパッケージで信頼性の高い動作実現の実績があります。
技術的なヒント: 電流検出トランス(CT)は感電を防ぐため、慎重に取り扱う必要があります。 CTには、その出力端子に必ず低抵抗の負荷抵抗器が接続されている必要があります。 この抵抗器が欠落していたり、ワイヤが断線したりすると、CTの端子に危険な高電圧が発生します。
安全第一で、負荷抵抗器は所定の位置に置いてください。
図2: ソレノイド、ヒータ、接点、およびアークシュートのラベルが付いたTMC 7回路ブレーカの内部コンポーネント
技術的なヒント: 側面の支持カバーがないと、図2に示されている部品がわずかに位置がずれてしまいます。 また、一体型の支持がないため、ブレーカの設置が非常に困難になります。 上部のトリップ機構に隠れている強力なスプリングを使用して、接点を強制的に開位置にします。 カバーがないと、部品がアセンブリから飛び出してしまいます。
回路ブレーカの熱および磁気保護素子とは何ですか?
図2は、TMC 7回路ブレーカの内部構造を示しています。ここでは、熱および磁気コンポーネントに注目します。
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熱コンポーネント:ヒーターの金属線は図2の右側に見えます。ヒーターはバイメタルのストリップに巻かれており、白い絶縁材がヒーターと内側のストリップを分離しています。ヒーターの熱画像を図3に示します。
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磁気コンポーネント:図2の上段にソレノイドが見えます。よく見ると、電流はソレノイドを通ってブレーカの接点から出力端子へ(右から左へ)流れています。
どちらの場合も、過電流状態が機械的変化を引き起こします。熱のメカニズムではバイメタルストリップが曲がり、磁気のメカニズム(ソレノイド)ではプランジャが伸びます。これらの機械的な動きにより、機械的なスプリング仕掛けのメカニズムが押され、ブレーカがトリップします。この強力なスプリングにより、接点は可能な限り速く開きます。
図3: 負荷がかかった状態の回路ブレーカのヒーターの熱画像
技術的なヒント: 図3をよく見ると、熱反射が確認できます。鏡に映った自分の顔のように、ヒーターの背後の光沢のある金属に反射して映っています。また、この画像は温度測定と放射率に関する一般的な問題を示しています。この画像では、ヒーター素子が下にある白い断熱材に比べて冷たく見えます。この問題は、画像を記録するために使用したFlukeのサーモグラフィTi32の内部設定を変更することで解決できます。
熱トリップと磁気トリップの違いは何ですか?
熱トリップと磁気トリップの主な違いは応答時間です。相対的に見ると、磁気トリップは応答が速く、熱応答は遅いです。これは、図4に示すトリップ曲線に反映されています。
この遅い反応は、トリップ曲線の左上隅に見られ、時間が無限大に近づくにつれ、灰色のばらつき幅が漸近的に1Aに近づきます。これは、1A(RMS)の定常状態電流が流れている場合にはブレーカがトリップしないことを意味します。
別の例では、回路ブレーカが4Aを通電している場合、ヒーターが反応するまでに時間がかかります。図4から、いずれのブレーカも1秒から10秒の間にトリップすると推定されます。
機械的なトリップ時定数は、トリップ曲線の底部で確認できます。この曲線から、ソレノイドがトリップ機構を作動させ、ブレーカが接点を開くまでに10msかかると仮定できます。この動作閾値を超えると、応答時間は機構によって支配されるため、電流にほとんど依存しなくなります。
図4: Phoenix Contactの回路ブレーカTMC 71C 01Aのトリップ曲線
技術的なヒント: 図4は、タイプCのトリップ特性を持つ回路ブレーカのデータです。これは汎用用途に最適です。タイプBのブレーカは高感度負荷に適しており、タイプDのブレーカは高突入電流負荷または瞬時過負荷に適しています。
アーク消弧
回路ブレーカの説明は、電気アークの危険性を調べることなしには完了しません。これは、回路ブレーカの過小評価されている機能です。通常、私たちは回路ブレーカを単純で無害な 「スイッチ 」として見ています。
そんなことはありません!
実際には、回路ブレーカは、過酷な条件下で回路を開くように巧妙に設計されています。ここでいう「過酷」とは、誘導源や負荷に関連する大きな故障電流を意味します。どのような状況下でも、回路ブレーカは過電流を検知し、主接点を素早く開く必要があります。誘導回路素子がアークを維持しようとするときに、そうしなければなりません。ある意味では、これはリレーのターンオフフライバック電圧を扱うようなものですが、はるかに大規模なものです。
保護機構が採用されていない場合、リレーが破裂する可能性のある激しい動作になることがあります。これが、Phoenix ContactのTMC 7とTMC 8の回路ブレーカファミリを区別する理由の1つです。それぞれは、産業用制御盤内で見られるさまざまな定格エネルギーを適切に処理するために、厳しい法規制要件がある特定の場所で使用するように設計されています。
ということで、アークシュートを調べてみましょう。
アークシュートとは何ですか?
アークシュート(アークチャンバ)は、図5に示すように、Phoenix ContactのTMC 7回路ブレーカ内部にある最も大きく重い部品です。回路ブレーカ内で形成されるアークを分割し、制圧する役割を果たします。
アーク(プラズマ)は非常に高温です。一旦アークが発生すると、空気中を伝導し、ヤコブの梯子のように、アークはその途方もない熱から発生する気流に吹き飛ばされながら、常に抵抗の少ない道を求めて動き回っています。
思考実験として、従来の「V」型のヤコブの梯子を逆さまにしたらどうなるかを考えてみましょう。通常の上向きの熱浮力は失われて、アークは逆V字の頂点(狭い方の端)に残ります。
このヤコブの梯子の構想を念頭に置いて、誘導負荷の下で接点が開こうとしたときに何が起こるかを考えてみましょう。アークは熱浮力の影響を受けて大きくなる傾向があります。図2を注意深く見ると、左側の接点に伸びた(湾曲した)部分があります。アークはこの湾曲したホーンによって直接アークチャンバに導かれます。アークがアークシュートに入ると、多数のプレートを備えたチャンバが回路ブレーカの入力接点と出力接点の間に直接位置するため、アークはより低い抵抗の経路を見つけます。
アークがチャンバに入ると、アークは閉じ込められます。まず、大きなアークであったものが、金属板を横切って自然に形成される多数の小さなアークに分割されます。各プレートは熱を吸収し、アークからエネルギーを奪います。このようにアークが小さく、かつ冷やされることで、主接点を横切って持続していたアークよりも消弧しやすくなります。
図5: TMC 7ブレーカのアークシュートの画像
おわりに
一般的な電気安全、特に回路ブレーカは、研究に値する重要な分野です。この記事では、産業用制御盤で一般的に使用されている単純な回路ブレーカの動作について説明しました。商業ビルや産業環境、および発電所などで使用されるような大型のブレーカは、このようなコンセプトに基づいています。どのような場合でも、ブレーカの接点を開き、内部で散逸したエネルギーが増大してブレーカが破壊される前に、アークをすばやく消弧することが求められます。
次のステップとして、アークフラッシュとアークブラストについて、また、ブレーカが大爆発した場合に安全を確保するための最善策についてお読みいただくことをお勧めします。
お気をつけて。
ご健闘をお祈りします。
APDahlen
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著者について
Aaron Dahlen氏、LCDR USCG(退役)は、DigiKeyでアプリケーションエンジニアを務めています。彼は、技術者およびエンジニアとしての27年間の軍役を通じて構築されたユニークなエレクトロニクスおよびオートメーションのベースを持っており、これは12年間教壇に立ったことによってさらに強化されました(経験と知識の融合)。ミネソタ州立大学Mankato校でMSEEの学位を取得したDahlen氏は、ABET認定EEプログラムで教鞭をとり、EETプログラムのプログラムコーディネーターを務め、軍の電子技術者にコンポーネントレベルの修理を教えてきました。彼はミネソタ州北部の自宅に戻り、このような記事のリサーチや執筆を楽しんでいます。