ブレッドボード回路の安定性

APDahlen Applications Engineer

多くの人が、ブレッドボードは高周波回路には不向きだと述べています。この意見にはある種の真実がありますが、試作回路の性能を高めるために使えるヒントがいくつかあります。これらのアイデアのほとんどは、試作ブレッドボードから量産プリント基板(PCB)に至るまで、すべての回路に適用できる基本的なハウスキーピング対策(回路の部品配置や配線の適正化)に関するものです。アースと電源ラインとのバイパスコンデンサの使用は、回路の安定性にとって考慮すべき最も重要なことです。

ブレッドボードの場合、グランドは多くの回路部品が共有するアースラインです。理想的には、ゼロ抵抗のアースポイントを提供します。生産するプリント基板(PCB)では、設計者はグランドに銅箔面を自由に使うことができます。例えば、両面PCBの場合、設計者はPCBの底面全体をグランドとして使用することができます。多層基板では、内部層の1つをグランドプレーンとして使用することもできます。残念ながら、ブレッドボードではこのオプションは利用できません。

さらに悪いことに、ブレッドボードの接続は理想的でないことがわかっています。 実験によれば、各接点の抵抗は50mΩで、1インチあたり11mΩです。これを考慮すると、細い30AWGの配線で構成された回路でも、ブレッドボードよりも低い抵抗値を持つ可能性があります。

ブレッドボードが複雑なのは抵抗だけではありません。さまざまな素子間のキャパシタンスもあります。配線の長さに起因するインダクタンスもあります。これらを総合すると、なぜブレッドボードがこれほど評判が悪いのかが理解できます。高周波の発振、ノイズ、送受信アンテナとして機能する長い配線、それによる不安定な状態遷移を起こしやすいロジック回路を構成するリスクがあります。

それでは、より良くするためにはどうすれば良いでしょうか?

ロジック回路のノイズ低減

ロジック回路は高周波回路に分類されます。この表現は、特に1MHz未満のクロック周波数で動作する回路を考えた場合、直感に反するように思えるかもしれません。このことを理解するためには、フーリエの法則を考える必要があります。具体的には、矩形波の特性です。矩形波は奇数次高調波の和として記述できることを思い出してください。このことは、比較的低い周波数の矩形波は高い周波数の高調波を持つことを意味します。例えば、1MHzの矩形波は3、5、7MHzに強いスペクトル成分を持ちます。

この問題にはいくつかの視点があります。1つは、ブレッドボード全体に存在する抵抗と分布容量に注目することです。これは高周波信号成分を減衰させる傾向があります。これは、すべての信号に対するローパスフィルタだと考えてください。その結果、エッジが丸みを帯びた矩形波となり、高周波成分が除去さ れます。

別の視点から見ると、長い配線によるインダクタンスがあります。これはキャパシタンスとは正反対の問題です。インダクタンスは信号を遅くする(丸める、あるいはローパスフィルタリングする)代わりに、電圧スパイクを引き起こします。極端な場合、グランドバウンスと呼ばれる状況を引き起こします。これはインダクタンスに関連した現象で、集積回路(IC)のグラウンドが本来のグラウンドに対して変動します。ICにトリガをかけることもあります。その結果、不安定なデジタルシステムとなり、トラブルシューティングが非常に困難になります。

適切なグランドとバイパスのテクニックを使えば、これらの問題を軽減することができます。下図のブレッドボードを使って説明しましょう。両方のレールを V_{CC} とグランドに使用するとしましょう。そして、この写真のようにジャンパを取り付けます。理想的ではありませんが、 V_{CC} とグランドの両方に8の字が形成されているのが分かります。この並列構造により、レール間の抵抗が下がり、どの接続でもリード長が短くなるため、インダクタンスが低下します。

次に、低周波バイパスコンデンサをレールに追加します。10~100uFの電解コンデンサが、ほとんどの回路に適しています。次に高周波バイパスコンデンサを追加します。これらのコンデンサは、各ICの電源ピンのできるだけ近くに取り付けます。私見ですが、これらはICの上を直接越えてもよい数少ない部品の1つです。実際の値は重要ではなく、伝統的に0.1uFの値が使用されています。

これらの準備段階が完了したら、次はロジック回路を組み立てます。すべての配線を短くすることを心がけてください。残念ながら、短い配線は必ずしもすっきりしたものではありませんので、妥協が必要です。インスピレーションを得るためにBen Eaterのブレッドボードアートをご覧になることをお勧めします。このブレッドボードのスタイルは本当にすばらしものです。完全に機能するコンピュータとビデオカードがすべてブレッドボードで作られていますので、ぜひご覧ください。

アナログ回路とデジタル回路の混在システムのノイズ低減

デジタルロジックのハウスキーピングのルールはすべて、アナログ回路や、デジタルとアナログの両方のコンポーネントを備えた混在回路にも適用されます。ここでは、マイクロコントローラなどのデジタルデバイスとオペアンプなどのアナログデバイスが共存する回路を「混在回路」と定義します。このような回路には通常、+3.3V DC、-12V DC、+12V DCなど複数の電源が含まれます。この場合、ロジック回路のソリューションで確認された8の字リングが失われるため、直ちに問題が発生します。各ソース用に5.75インチ(14.6cm)のレールが1本残されることになります。

最初に、もう一度低周波バイパスコンデンサを追加します。一般的には10~100uFのコンデンサが適しています。必ず適切な定格電圧のコンデンサを選び、極性に注意してください。前回同様、0.1uFの高周波バイパスコンデンサを、各ICに供給される電源の、できるだけ近くに取り付けます。

技術的なヒント:バイパスという言葉は日常的によく使われます。例えば、バイパス道路は大都市を迂回するルートです。このことは、バイパスコンデンサにも同様にあてはまります。この文脈では、コンデンサはあらゆるAC信号をバイパスします。これには、IC内部またはIC外部に由来するACノイズが含まれます。理想的には、すべての回路のレール上でDCのみとなることです。

高周波ノイズには、一般にICに近接した小さな値のコンデンサが必要です。低周波にはより大きなコンデンサが使われます。ここで、低周波は配線のインダクタンスの影響を受けません。

アナログ回路には、小信号に関連した別のレベルの複雑さがあります。電気的なノイズが回路に入り込み、小さなアナログ信号と一緒に増幅されます。この混入してきたノイズは、ADCの実行の際に影響を与えます。また、オーディオシステムにおいて、不快なヒス音やクリック音として現れることもあります。

先述のバイパスコンデンサは、この問題を軽減するのに大いに役立つでしょう。しかし、それだけでは十分ではありません。特に複数のブレッドボードを使用する場合、グランドループという難しい問題が発生する可能性があります。また、電源の注入にも問題があるかもしれません。ブレッドボードの抵抗が比較的高いことを思い出してください。レールの長さ全体に小さなAC信号が発生することはめずらしくありません。このアナログ信号はわずか数ミリボルトかもしれませんが、ADCの入力やDACの出力において、ミリボルトレベルの信号と相互に作用する可能性があります。アンプ回路では、不安定の原因になったり、あるいは完全に発振したりするのに十分な相互作用があるかもしれません。

このとき、バイパスコンデンサの位置が重要になります。原則として、バイパスコンデンサは低レベルのアナログ信号のできるだけ近くに設置します。同様に、ブレッドボードへの、あるいはブレッドボードからのすべての接続も、低レベル信号にできるだけ近づけてください。さらなる情報として、「スターグラウンド」と「グラウンドループ」の概念を必ずご確認ください。

これで十分でない場合は、ブレッドボード以外の解決策を見つける必要があるかもしれません。高度な回路の試作には、デッドバグ(マンハッタンスタイル)のパーフボード(基板裏面に部品をはんだ付け)やストリップボード(基板表面に部品をはんだ付け)が適切かもしれません。組み立て済みの評価ボードが利用できる場合もあります。もしくは、ご自身の回路用に完璧なPCBを設計する時が来たのかもしれません。

ご健闘をお祈りします。

APDahlen

P.S. ブレッドボードで回路を作るヒントをぜひ共有してください。



オリジナル・ソース(English)