スペクトラムアナライザを使ってアンプ特性を測定する;エミッタ接地トランジスタのデモ

APDahlen Applications Engineer

アンプは、ゲイン(gain)、パワー(power)、クラス(class)、位相シフト(phase shift)、過渡応答(transient response)、周波数応答(frequency response)、ノイズ(noise)、歪み(distortion)などの指標を用いて特徴づけられます。これは複雑なトピックであり、多くの本が書かれています。この記事では、純粋な正弦波信号とスペクトラムアナライザを使用して歪みに焦点を当て、不要な高調波を探します。

歴史的に、スペクトラムアナライザは高価なテスト機器でした。趣味の人はもちろん、ほとんどの学生にとっても手の届かないものでした。それが、低価格のデジタルテスト機器の出現によって変わりました。例えば、この記事で紹介するDigilent Analog Discoveryは、従来は高価であった検査機器群が一杯入った機能セットをカプセル化したものです。これには、オーディオ信号から無線周波数まで測定できるスペクトラムアナライザも含まれています。

スペクトラムアナライザは、アンプ解析のための便利な測定ツールです。しかしながら、意味のある結果を得るためには、純粋な正弦波信号をアンプに「供給」する必要があります。理想的なアンプは、オリジナル(元信号)を忠実に再現する「ゲインのあるワイヤ」として機能します。現実のアンプではノイズ、高調波、さらには電源リップル周波数との相互変調などが加わります。あるいは2トーンテストを行う場合には第2のトーンが加わります。

この記事では、図1および図2のようなエミッタ接地トランジスタアンプの性能を調べます。前回の投稿で説明したように、テストはウィーンブリッジ発振器から生成された1kHzのトーンを使用して実行されます。このシンプルな発振器は、アンプの性能を分析するのに不可欠な驚くべきスペクトル純度を備えています。実際、ウィーンブリッジが生成する単一のトーンに関しては、多くの市販の信号発生器よりも優れたパフォーマンスを発揮します。

図1: 背後にウィーンブリッジ発振器(Wien bridge oscillator )を持つエミッタ接地のトランジスタアンプの写真

Figure 2: MultisimLive schematic of the transistor circuit. Click on the schematic to view the simulation.

図2: トランジスタ回路のMultisim live回路図。回路図をクリックするとシミュレーションが表示されます

エミッタ接地アンプ

図1、2に示すエミッタ接地(CE)トランジスタアンプは、抵抗R5を介した負帰還を備えた古典的な設計です。抵抗R2とR3を介した固定バイアスと、C1を介した容量性入力カップリングが特徴です。出力はまた、C2を介して負荷抵抗R6に容量結合されています。

AC解析より抵抗R4とR6は並列になります。その結果、アンプのゲインは(式)のように近似されます

Gain \approx \dfrac{10\ k\Omega \ || \ 10 \ k \Omega} {470 \ \Omega}

結果

アンプを評価するために2つの実験が行われました。1つ目は小信号テストです。もう1つは、R1ゲインをクリッピングの開始点に設定した大信号テストセットです。

最初のテストの結果を図3、4、および、図5に示します。

  • 図3は入力信号(オレンジ)と出力信号(青)の時間領域(オシロスコープ)表示です。アンプゲインは約10であり、エミッタ接地アンプで予想される180°の位相シフトがあることを示しています。チャンネル1にはノイズが見られるものの、波形歪みは見られません。

  • 図4は入力信号のスペクトラムです。波形は-22dBVレベルの純粋な正弦波で、ノイズフロア(雑音レベル)は約-90dBVです。信号源についての詳細は、以前のウィーンブリッジ発振器の紹介記事をご覧ください。

  • 図5はアンプの出力スペクトラムです。出力信号には2、4、6kHzに2次高調波がありますが、比較的クリーンです。左端には小さな60Hzや120Hzの成分も見えます。これはDC電源から拾われたラインハム(信号)と思われます。

図3: アンプの入力(オレンジ)と出力(青)のオシロスコープ表示


図4: 約1kHzの純粋な正弦波を示すアンプの入力信号のスペクトラム


図5: 1kHzの基本波と2、4、6kHzの偶数高調波を示すアンプ出力信号のスペクトラム


技術的なヒント: 完璧なアンプなどというものは空想の世界のものです。「ゲインのあるワイヤ」など存在しません。現実のアンプは信号にノイズを加えます。オーディオアンプでは、これはヒス音とライン周波数のハム音として現れます。アンプは高調波も加えます。図4に示すように、単純なトランジスタアンプは、図3の入力信号にはなかったスペクトル成分を加えています。

2回目のテスト結果を図6と図7に示します。このテストでは、図6に示すように、出力がソフトクリッピングを示すまでR1の「ボリュームコントロール」を増加させました。よく見ると、青い出力波形の頂点が平らになっていることが分かります。

過大(オーバードライブ)増幅されたアンプのスペクトラムを図7に示します。アンプの出力は2、4、6、8kHzに強い偶数高調波を持ちます。また、3、5、7、9kHzに強い奇数高調波があります。

図6: 青色出力信号のクリッピング発生が始まることを示す時間領域信号


図7: 過大増幅されたアンプには、強い偶数高調波と奇数高調波があります


技術的なヒント: スペクトラムアナライザの減衰設定に注意してください。オーバードライブ増幅されたスペクトラムアンプは、スペクトラム全体にゴミを表示します。減衰器の設定は、信号の整合性に疑問がある場合に最初に確認すべきことの1つです。

おわりに

アンプはそのスペクトラムによって特徴づけられます。これらのテストでは、入手可能で最高の、スペクトル的に純粋な、正弦波を注入します。そして、スペクラムアナライザを使ってアンプの出力をモニタしました。アンプの歪みの存在とその性質が一目瞭然です。

ぜひこの方法を試してみてください。数年前であれば、テスト機器の性能に限りがあったため難しかったでしょう。今日、あなたが学生であれば、教室にあるオシロスコープにスペクトラムアナライザ機能が内蔵されている可能性は非常に高いです。数学メニューの高速フーリエ変換(FFT)機能を探してください。

ご健闘をお祈りします。

APDahlen




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