555タイマを搭載したハイサイドMOSFETドライバに適するチャージポンプ電源

APDahlen Applications Engineer

チャージポンプは、電源の電圧を上昇させるために使用される回路構成であり、また、相補(負の)電源にも使われます。デジタル回路が「フライング」コンデンサを押したり引いたりするので、「ポンプ」という用語が用いられます。コンデンサに蓄積されたエネルギーは、一連のパッシブスイッチとアクティブスイッチを用いて、ある場所から別の場所へ転送されます。言い換えると、これは電流を制御するために一方向バルブ(ダイオード)を使って逆流を防止し、ポンプのハンドルを作動させて水を汲み上げるようなもの(デジタルのポンプ作用)です。これは、基本回路を含んでおり、昇圧レギュレータや降圧レギュレータのような複雑な回路の理解を深めるための、良い学習の機会です。実際の写真と回路図を、図1と図2に示します。

この記事で取り上げるチャージポンプは、NチャンネルMOSFETにゲート電圧を供給するために設計されています。MOSFETは、ソースフォロア構成の24V DCシステムを想定しています。必要とされる電圧は、MOSFETを低抵抗状態に駆動し、それによって関連する負荷を完全に駆動できるようにするため、24V DC電源ラインより約10~15V高い電圧とします。MOSFETは電圧駆動デバイスであるため、このアプリケーションに保持電流は必要ありません。しかし、ゲートとチャンネル間のコンデンサを充電するためのパルス電流は必要です。このパルスのエネルギーは、100uFのC6コンデンサによって供給されます。

パルスごとのエネルギー計算については、また別の機会に譲ります。その代わりに、定常状態解析を用いてチャージポンプ電力を評価します。これらのデータに基づき、このチャージポンプを4mA電流制限付きの34V DC電源として適切に評価することができます。これは小さな値のように見えるかもしれませんが、MOSFETドライバに電力を供給するには十分すぎるものです。

技術的なヒント: ブートストラップ回路構成は、チャージポンプ回路と密接に関連しています。チャージポンプもブートストラップも、NチャンネルMOSFETのゲートを適切にオンさせるために、「電源レールを超える」電圧を供給するために使用します。その違いはMOSFETの動作方法に関係します。ブートストラップ回路は、PWM信号で駆動される場合のように、MOSFETがオンとオフを繰り返す場合に適しています。チャージポンプは、MOSFETが長時間オン状態に保持される場合に適しています。どちらの場合も、「フライングコンデンサ」を充電するオンとオフの動作があります。ブートストラップは自吸式チャージポンプと言えます。

図1: 24V DC電源から34V DCを供給するチャージポンプの写真

図2: MOSFETドライバ(図示せず)による24V DC + 11V DCを供給する555タイマICを搭載したチャージポンプの回路図

矩形波発生器

チャージポンプのデジタル部分は、アステーブルモードで動作する典型的な555タイマです。555タイマの電源は15V DCレギュレータから供給されます。この7815のリニアレギュレータは、一般的な7805と同じシリーズです。これはデータシートに記載されている555タイマの絶対最大定格電圧18V DCによくマッチしています。

チャージポンプのデューティサイクルと周波数は重要ではありませんが、本記事の最後の提案のように、それらを改善することは可能です。抵抗とコンデンサの値は、便宜上、1kΩ、10kΩ、および0.1uFという一般的な値を選んでいます。結果として得られる700Hzの信号は、デューティサイクルが約65%で、オン時間がオフ時間より長くなります。DigiKeyの555タイマカリキュレータを使用すると、図3のような結果が得られます。

図3: この記事で使用した値を示しているDigiKeyの555タイマカリキュレータ

フライングコンデンサ

チャージポンプの心臓部はコンデンサC5です。C5が150Ωの抵抗R3を介して555タイマの出力に接続されていることに注目してください。この「フライング」コンデンサの動作は、555タイマの状態を1つ1つ考えることでよく理解できます。

  • オフ状態: C5が初期状態では充電されておらず、555タイマがオフ状態であるとします。これによりC5が充電されます。充電経路は、24V DC電源、D1、C5、R3、および555のQ出力(3番ピン)端子から内部トランジスタを経由して接地までとなります。555タイマと1N4148ダイオードの両方に200mAの制限があるため、電流はR3によって200mAに制限されます。この150Ωの値は間違っているように見えるかもしれません。予想される120Ωの抵抗を使用するのではなく、最悪の場合30V DCが24V DC電源レールに印加されると仮定します。また、コンデンサに関連する電流は一定ではなく、RC回路の指数関数曲線に基づくことに注意してください。
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    2.2uFのコンデンサと150Ωの抵抗の時定数は0.33msで、555タイマのロー時間の0.67msのおよそ半分です。その結果、フライングコンデンサC3は約20V DCまで充電さ れます。
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    V_C(t) = V_{Final}(1-e^{-\tau/RC} )= (24-0.7)(1-e^{-0.67/0.33}) \approx 20 \, VDC

  • オン状態: 555出力がハイの状態に反転します。フライングコンデンサ(C5)の下側の端子は、555タイマの15V DC電源ラインにプルアップされます。このコンデンサは既に約20V DCに充電されていますので、コンデンサのプラス端子の電圧は15V + 20V DCになります。これによりD1が逆バイアスされ、D2が順バイアスされます。電流はフライングコンデンサ(C5)からC6に流れます。その電流はR3によって制限さ れます。

  • 繰り返し: このプロセスは、フライングコンデンサが常に充電と放電を繰り返すことで、連続的に繰り返されます。その名の通り、555タイマからのデジタル信号が、ある場所から別の場所へエネルギーを送り込みます。このプロセスは、図4に示すように、C6両端で測定された電圧を示す起動波形に最もよく示されています。図5に示す定常状態の波形も興味深く、青い波形はリップルを示しています。この例では、チャージポンプは10kΩの負荷に電力を供給しています。

理想的なシステムでは、出力電圧は次のように近似されます。

V_{Final} = 24 + (15 – 0.7 – 0.7) \approx 38 \, VDC

ここで、0.7V DCの値は、D1とD2の電圧降下に伴うもので す。

これは確かに無負荷時の出力電圧です。しかし、この回路はすぐに負荷が掛かり、10kΩ負荷で34V DC、5kΩ負荷で32V DCまで低下します。

技術的なヒント: 初期の起動条件を考慮する必要があります。この回路の課題の1つは、C6の値が大きいことです。電源が投入されるとすぐに、D1とD2を介してコンデンサが充電されることに注意してください。これは、これらの小信号ダイオードにとって許容できない状態であり、大きな突入電流に対応できないからです。この状況を緩和するために、1N4001のD3ダイオードを追加し、最初にコンデンサの充電を行うようにします。このダイオードは、数十アンペアの非繰返しピーク電流を損傷することなく扱うことができます。


図4: 10kΩ負荷駆動時に出力コンデンサC6に発生した電圧を示す起動時の波形


図5: C6のリップル波形(Ch2青)と555の3番ピンの駆動波形(Ch1オレンジ)

次のステップ(課題)

この回路は最適化されていません。簡単に組み立てられる回路として作られています。教育的な設計の課題としては、以下のようなものがあります。

  • さまざまな負荷条件での効率の測定

  • 汎用の1N4148ダイオードに代わるショットキーダイオードの使用

  • 周波数、デューティサイクル、コンデンサの最適化

  • リニアレギュレータの削除

  • 回路がフル充電されたときにチャージポンプをオフにする方法の考案

  • 回路から発生するEMIの原因を特定し、その緩和策の実施

  • 555タイマを、デューティサイクルの変更機能など、最適なパフォーマンスの監視や調整機能を備えたマイクロコントローラへの置き換え

ご意見をお待ちしています。

幸運を祈ります。

APDahlen

追伸:チャージポンプを組み込んだ回路は以下のとおりです。
The MOSFET Active Clamp: The Case Against a Relay’s Parallel Flyback Diode




オリジナル・ソース(English)