アルミニウム電解コンデンサの動作寿命を計算する


APDahlen Applications Engineer

記事のハイライト

  • コンデンサの寿命は温度に指数関数的に関係し、電圧に直線的に関係します。

  • 筐体温度の上昇やリップル電流による自己発熱を考慮すると、産業環境ではコンデンサの温度は驚くほど高くなります。

  • 10°C2倍則は、電子機器の寿命を決定するための単純なモデルです。温度が10°C上昇するごとに、寿命は2分の1に短縮されます。より高度なモデルでは、電圧、リップル電流、さらには気流も考慮されます。

はじめに

アルミニウム電解コンデンサの動作寿命は温度に直接関係します。この概要では、温度と動作電圧に基づいてコンデンサの動作寿命を簡易的に算出する方法を紹介します。このモデルでは、高リップル電流、電圧サージ、および長期間保管した後の適切な電圧処理(リフォーミング)(または電圧処理なし)などのコンデンサの修復が考慮されていないため、コンデンサの実際の寿命は大幅に異なる可能性があります。図1は、Cornell Dubilier Knowlesの550C型アルミニウム電解コンデンサの画像です。ここでは、このコンデンサ550C542T500DN2B(5400µF、500V DC)が高温の産業環境にあるモータドライブに設置されていると想定し、動作寿命を推定します。

この概要で紹介されている式は、Sam G. Parler, Jr.とLaird L. Macomberが彼らの会社Cornell Dubilierに発表した論文Predicting Operating Temperature and Expected Lifetime of Aluminum-Electrolytic Bus Capacitors(アルミニウム電解バスコンデンサの動作温度と期待寿命の予測)から導き出されています。簡潔かつ明瞭にするため、式を簡略化します。改良されたモデルについては、Cornell Dubilier’s Thermal / Life Calculators(Cornell Dubilierの熱/寿命カリキュレータ)をご参照ください。

図1: モータドライブアプリケーションで長寿命を実現するために設計されたCornell Dubilier Knowlesの550C型コンデンサの画像

技術的なヒント: 部品故障率は統計の応用です。特定の電気機器の故障日や故障時刻を予測するために使用することはできません。MTBF(Mean Time Between Failures:平均故障間隔)については、米国国防総省のMIL-HDBK-217(国防省ハンドブック)Reliability Prediction of Electronic Equipment(電子機器の信頼性予測)を参照してください。

10°C2倍則を用いた寿命の推定

出発点として、単純に言えば、温度が10°C下がるごとにコンデンサの動作寿命は2倍になります。ここでは議論を単純化するために、仮に、VFD(Variable Frequency Drive:可変周波数ドライブ)のOEM(相手先ブランド製造)推奨事項を慎重に遵守し、機器の筐体が「許容」上限の40°Cに達することを許容したとしましょう。さらに、IGBTに近接していることとリップル電流によって発生する熱を考慮して、コンデンサの温度がさらに35°C上昇すると仮定します。念のために言っておきますが、コンデンサにとって75°C(167°F)のサウナの中は特に快適ではありません。

技術的なヒント: DCリンクコンデンサのリップル電流による発熱は推定値です。リップル電流と関連する高調波によって発生する熱を適切に考慮した改良モデルについては、Cornell Dubilier Knowlesの文献を参照してください。各高調波によって生成された熱が全体の温度上昇に寄与する、重ね合わせのような現象が存在すると考えられます。

図1の例のコンデンサは105°Cで10,000時間の定格です。105°Cから75°Cを引くと、3回の10°C2倍則による低減があることがわかります。従って、コンデンサは10,000時間を3回2倍した寿命を持つはずです。これは2 × 2 × 2 × 10,000に等しく、約9年に相当します。

10°C2倍則の背景

10°C2倍則はアレニウス(Arrhenius)の式に関連しています。詳細は省きますが、この式は、指数関数的な温度依存性の化学プロセスがコンデンサ内部で起こっていることを意味しています。

数学的な厳密さを高めると、10°C2倍則は次のようになります。

Life \approx L_B 2^{\frac{T_B – T_A }{10}}

ここで、

  • L_B は、データシートによる基準寿命

  • T_B は、データシートによる基準温度

  • T_A は、アルミケース温度とリップル電流による内部発熱を考慮したコンデンサの実際の推定内部温度

この結果は、例にあげたコンデンサでも同じです。

Life \approx 10,000 * 2^{\frac{105 – 75 }{10}}

Life \approx 80,000 \ hours \approx 9 \ years

印加電圧の補正

前節では、コンデンサの劣化は長期間にわたって起こる化学反応と関係があることを暗示しました。電圧がこの劣化の速度に影響を与えることは理にかなっています。つまり、設計上の限界値を超えない範囲で適切に使用すれば、コンデンサはより長持ちするということです。リップル電流が低く、印加電圧が低い低温に保たれたコンデンサは、設計限界で動作するコンデンサよりも長持ちすると期待できます。

印加電圧を考慮した乗数を用いて、先の式を以下のように補正することができます。

Life \approx M_V * L_B * 2^{\frac{T_B – T_A }{10}}

ここで、

  • L_B は、データシートによる基準寿命

  • T_B は、データシートによる基準温度

  • T_A は、アルミケース温度とリップル電流による内部発熱を考慮したコンデンサの実際の推定内部温度

  • M_V は、電圧乗数であり 4.3 – 3.3(\frac{V_A}{V_B}) として計算されます。 V_A は印加電圧、V_B はデータシートの基準定格電圧です。

先の例で、コンデンサが公称400V DCで動作すると仮定します。これは定格450V DCより低いので、コンデンサの寿命は若干長くなることが予想されます。この式では、寿命は約12年と算出されます。

M_V = 4.3 \ - \ 3.3 (\frac{400}{450}) = 1.37

Life \approx 1.37 * 10,000 * 2^{\frac{105 – 75 }{10}}

Life \approx 12 \ years

リップル電流の補正

ここまでは、リップル電流がコンデンサの自己発熱を引き起こすという前提で説明してきました。前出の例では、「IGBTに近接していること、およびリップル電流による発熱を考慮して、さらに35°Cを加算する」と仮定しました。

リップル電流乗数

リップル電流はコンデンサの寿命に重大な影響を及ぼす可能性があります。 データシートの定格リップル電流を使用して、特定の設計における最大リップル電流の動作限界を調べることにより、両者の関係をより深く理解することができます。

モータドライバ用途のDCリンクコンデンサには、例えば、ここで紹介されているCornell Dubilier Knowlesの550Cのようなコンデンサがよく使用されます。単相システムでは、コンデンサは120Hzの電流リップルの影響を受けます。三相システムでは、リップル電流は360Hzとなります(いずれの場合も全波整流を想定)。3段階のプロセスを使用して、平均寿命をより正確に算出することができます。

  • 乗数を決定する:Cornell Dubilier Knowlesの550C型のデータシートでは、図2で強調表示されているように、120Hzシステムでは1.0、360Hzシステムでは1.31のリップル電流乗数が示されています。

  • データシートから最大リップル電流を読み取ります。550C542T500DN2Bの定格リップル電流は、85°C、120Hzで20.9Aです。

  • グラフを読み解く:図3は、ステップ1で特定した係数を使用して、温度と定格リップル電流を関数としたコンデンサの期待動作寿命を示しています。

75°Cのシナリオを継続した場合、20.9Aのリップル電流にさらされるとコンデンサは長持ちしないことが分かります。図3の緑色の点で示されているように、120Hzのシステムでは3.4年、360Hzのシステムでは1年強の寿命が見込めます。当然ながら、コンデンサを高温で高リップル電流で動作させることは望ましくありません。

図2: Cornell Dubilierの550C型のリップル電流乗数

図3: 温度と定格リップル電流の乗数を関数とするコンデンサの期待寿命。緑色の点は、対象コンデンサの75°Cでの120Hzおよび360Hzの動作に対応しています。

技術的なヒント: 温度、リップル電流、物理的な方向、任意のコンデンサペア間のバランス電流、および気流を考慮すると、図2と3のデータはコンデンサの定格仕様に集約されます。データシートによると、「550C型は、水平に設置された状態で、フルリップル電流、定格電圧、85°C、および100 lfm(約0.508m/s)の気流で20,000時間の寿命が規定されています。水平設置は垂直設置よりも厳しい条件です。」

リップル電流の補正

電圧乗数を使用して、電圧を下げて動作させると、コンデンサの寿命を改善することができたことを思い出してください。リップル電流乗数を組み込むことによって、同様の操作を行うことができます。

この時点で立ち止まり、自分がプロの電力エンジニアの領域に入ったことを認識する必要があります。拡張モデルは、この入門記事の対象外です。

  • 従来モデルでは、コンデンサの推定寿命を概算で算出することができます。

  • 高度なモデルでは、基本周波数だけでなく高調波も考慮する必要があります。これは、不平衡三相システムにおける最悪のケースのアプリケーションにまで拡張すべきです。

  • 筐体によって空気の流れは異なります。例えば、VFDはコンパクトな装置ですが、コンデンサとパワー半導体の冷却という、困難で場合によっては相反する要件があります。

  • OEMに連絡して、内部温度検知プローブを搭載した「テスト用」コンデンサを製造してもらうのが賢明かもしれません。これにより、完成品の寿命を最も正確に予測でき、問題のある箇所を特定することができます。

  • 他にも、電圧過渡現象、熱サイクル、および高起動電流、過負荷、短絡などの負荷側の影響など、まだ検討していない考慮事項が数多くあります。

この記事の末尾の関連情報セクションのリンクをご参照ください。そこには、Cornell Dubilier Knowlesからの詳細なガイドラインが掲載されています。いくつかの文書では、リップル電流による自己発熱を考慮できるオンラインカリキュレータにアクセスできます。

おわりに

この記事では、コンデンサの動作寿命を計算するために使用できるいくつかのモデルを紹介しています。まず、電子機器の寿命は温度が10℃上昇するごとに2分の1になるという、10°C2倍則の一般則から説明します。このモデルは電圧乗数を組み込むことで改良され、コンデンサの寿命は低電圧で長くなることが示唆されました。最終モデルには、リップル電流乗数が組み込まれ、リップル電流が減少すると寿命が長くなることが示唆されました。残念ながら、意味のある答えを出すには基本リップル電流と高調波を考慮する必要があるため、方程式を導くことはできません。しかし、図3は、リップル電流が減少するほど寿命が長くなることを強く示唆しています。

これらを総合すると、コンデンサの寿命は、その設計上の最適値で良好に動作させた場合に長くなることがわかります。比較的低電圧でリップル電流の少ない涼しい環境が望まれます。その単純な仮定を受け入れる前に、コンデンサが比較的高価な部品であることを思い出してください。過剰な仕様は大幅なコストアップにつながります。

最後に、Henry Fordの伝説を考えてみましょう。コスト削減のため、彼のエンジニアはT型車の故障モード分析を行いました。彼らはキングピンを決して故障しないメカニズムとして特定しました。Fordの対応は、キングピンの品質を他の部品の品質とマッチするように下げることで、車の総コストを削減することでした。

教訓は単純です。総コストを削減するために、希望するシステムの寿命に合わせてすべてのシステムコンポーネントを選択することです。

半導体を長持ちさせるためにコンデンサをオーバースペックにする意味はほとんどありません。

ご健闘をお祈りします。

APDahlen

関連情報

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著者について

Aaron Dahlen氏、LCDR USCG(退役)は、DigiKeyでアプリケーションエンジニアを務めています。彼は、技術者およびエンジニアとしての27年間の軍役を通じて構築されたユニークなエレクトロニクスおよびオートメーションのベースを持っており、これは12年間教壇に立ったことによってさらに強化されました(経験と知識の融合)。ミネソタ州立大学Mankato校でMSEEの学位を取得したDahlen氏は、ABET認定EEプログラムで教鞭をとり、EETプログラムのプログラムコーディネーターを務め、軍の電子技術者にコンポーネントレベルの修理を教えてきました。彼はミネソタ州北部の自宅に戻り、このような記事のリサーチや執筆を楽しんでいます。




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