レシオメトリックセンサのアプリケーションに関する解説


APDahlen Applications Engineer

レシオメトリック測定は、入力電圧の変化とは関係なく、入力電圧と出力電圧との比率を一定に維持するレシオメトリックセンサの能力に依存する技術です。たとえば、センサの励起電圧が5.0V DCで出力が2.5V DCの場合、励起電圧が2.0V DCになった時には1.0V DCの出力が期待できます。どちらの場合も、センサの50%出力が維持されます。レシオメトリックセンサの例としては、VishayのリニアモーションセンサAllegroのアナログホールセンサ、そしてこのMurataのようなサーミスタがあります。

レシオメトリック測定は、マイクロコントローラをセンサに接続する低コストの方法を提供します。効果的なレシオメトリック測定をするための鍵は、センサとマイクロコントローラのアナログデジタルコンバータ(ADC)の両方に共通の励起電圧を使用することです。この励起電圧は自然にドリフトするため、センサとADCの両方に影響を与えます。しかし、これは各デバイスのレシオメトリック特性によって軽減されます。たとえば、励起電圧が4.9V DCから4.2V DCへのドリフトを考えると、センサとADCの両方の比率は等しくなります。その結果、ADCのバイナリ結果は変化しません。

この記事では、図1に示すようにArduino Nano Everyを使用したレシオメトリック測定法をご紹介します。レシオメトリック法は、励起電圧を調整するために使用される第2のポテンショメータを使用しながら、ポテンショメータの回転角度を測定することによって示されます。

図1: レシオメトリック実験に使用したArduino Nano Everyとポテンショメータの写真。左側の5kΩポテンショメータは励起電圧の調整に使用され、右側のポテンショメータはテスト対象のデバイスです。

技術的なヒント: レシオメトリック法は、必要な高精度の基準電源がないため、直接測定や絶対測定には適していません。たとえば、レシオメトリック法は電圧を直接測定することはできません。その理由は、「真値」電圧測定には高品質の内部または外部基準電源が必要なためです。詳細については、Arduino言語リファレンスのanalogReference( )を参照してください。このDigiKeyフォーラムの投稿では、外部基準電源の実装方法について説明しています。

レシオメトリック測定に関連する用語

Arduinoの回路について調べる前に、レシオメトリック測定に関連するさまざまな用語の定義を明確にしておくと便利です。「基準電源」は文脈によって意味が異なることに注意してください。

  • 励起電圧:この電圧は、マイクロコントローラのADCへの基準電圧として機能し、またセンサへの供給電圧としても機能します。

  • 基準電源(物理的):物理的な基準電源は、外部デバイスまたはマイクロコントローラのダイに組み込まれた回路であるかもしれません。デフォルトでは、Arduinoは電圧レールを基準電源として使用するように設定されています。レシオメトリック測定の目的は、性能要件を緩和するか、比較的高価な物理的基準電源を排除することです。

  • 基準電源(ADC入力): 殆どのADCは、基本的に電圧比較を使って動作します。通常の動作モードでは、基準電源は電圧測定の真の値を決定するため、ADCへの重要な入力です。たとえば、10ビットマイクロコントローラのADCを外部の1.024Vの高精度基準電源で動作させたとします。ADCの各カウントは1mVに相当します。たとえば、0.5V DCの信号は500のADC出力として表示されます。ここで、基準電源が1.014V DCにドリフトした場合、同じ0.5V DCの入力信号は495の誤ったADC出力として表示されます。

  • レシオメトリック:レシオメトリックとは、センサとマイクロコントローラのような測定デバイスの両方を包括する用語です。 センサとADCはどちらも共通の励起電圧を有します。理想的な状況では、両方のデバイスが励起電圧の変化に対して等しくスケールするため、高品質な外部基準電源の必要性が緩和されます。

Arduinoのデモ

Arduinoベースのデモ回路の回路図を図2に示します。励起電圧は可変抵抗器R1により設定されます。可変抵抗器R2はレシオメトリックセンサとして機能します。このシステムを正しく動作させるために、ArduinoのADCはanalogReference(EXTERNAL)コマンドを使って外部センサ用に設定されています。このコード変更により、ArduinoのADCとR2位置センサの入力(上部)の間で励起電圧が共有されていることがわかります。

図2: レシオメトリックテスト用のArduinoベースのテスト回路。抵抗値は1kΩから10kΩの間であれば特に問題ありません。

レシオメトリックのテスト

回路をテストするために、R2を既知の位置に設定します。次にR1で励起電圧を調整します。理想的な設定では、励起電圧(R1)を変化させてもR2の測定に影響はありません。

以下はテストに使用したArduinoのコードです。R2のシャフト位置は、フル10ビットADCカウントのパーセンテージとして表わされていることに注意してください。

void setup( ){
  analogReference(EXTERNAL);
  Serial.begin(9600);
}
void loop( ){
  float rawVal = analogRead(A7);
  float position = (rawVal / 1024) * 100;
  Serial.println(position);
  delay(500);
}

結果

結果は特筆すべきものではありません。R1を4.5kΩから2.0kΩに調整しても、励起電圧が非常に低いレベルまで下がらない限り、ADCの結果には何の影響もありませんでした。実際、R1を連続して調整しても、R2ポテンショメータの角度測定値には何の影響もありませんでした。これは良いニュースです。なぜなら、レシオメトリック測定が励起電圧の変化に影響されないことをこのテストは示唆しているからです。

技術的なヒント: このテストでは、励起電圧として可変抵抗器を使用しました。実際には、Arduinoのデフォルト電圧レールを励起電圧として使用する方が便利です。通常、これは望ましくありません。なぜならば、レール電圧はPCのUSB電圧や電圧レギュレータ、バッテリの状態によって変動するからです。レール電圧は、マイクロコントローラに接続された負荷の種類や数によっても変化します。レシオメトリック測定の優れた点は、このような当然起こり得る電圧変化が測定に大きな影響を与えないことです。

技術的なヒント: レシオメトリックセンサをマイクロコントローラの電圧レールに合わせるように注意してください。マイクロコントローラには5.0V DCと3.3V DCの両方の電圧レールがあることを思い出してください。レガシーセンサの多くは、3.3V DCマイクロコントローラと互換性がありません。

おわりに

レシオメトリックセンサとマイクロコントローラのペアは、測定システムの真の値を提供する低コストの方法を提供します。これは、最新のより複雑な I^2C やSPIデバイスとは違って、あなたのプロジェクトに適したソリューションかもしれません。

このノートの最後にある問題と批判的思考を使う問題に答えて、必ずあなたの知識をテストしてください。また、以下のスペースに質問やコメントをお寄せください。特にレシオメトリックセンサを使用したプロジェクトをお持ちの方は、ぜひご連絡ください。

ご健闘をお祈りします。

APDahlen

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著者について

Aaron Dahlen氏、LCDR USCG(退役)は、DigiKeyでアプリケーションエンジニアを務めています。彼は、技術者およびエンジニアとしての27年間の軍役を通じて構築されたユニークなエレクトロニクスおよびオートメーションのベースを持っており、これは12年間(一部、軍での経験を織り交ぜて)教鞭をとったことによってさらに強化されました。ミネソタ州立大学Mankato校でMSEEの学位を取得したDahlen氏は、ABET認定EEプログラムで教鞭をとり、EETプログラムのプログラムコーディネーターを務め、軍の電子技術者にコンポーネントレベルの修理を教えてきました。彼はミネソタ州北部の自宅に戻り、このような記事のリサーチやエレクトロニクスとオートメーションに関する教育記事の執筆を楽しんでいます。

注目すべき経験

Dahlen氏は、DigiKey TechForumに積極的に貢献しています。この記事を書いている時点で、彼は145以上のユニークな記事を作成し、さらにTechForumへ477にものぼる投稿を提供しています。Dahlen氏は、マイクロコントローラ、VerilogによるFPGAプログラミング、膨大な産業用制御に関する研究など、さまざまなトピックに関する見識を共有しています。

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問題

以下の問題は、記事の内容の理解を深めるのに役に立つでしょう。

  1. センサに適用されるレシオメトリックを定義してください。

  2. 用語を拡張してマイクロコントローラのADCに適用する場合のレシオメトリックの定義をしてください。

  3. レシオメトリックという用語は、しばしばセンサ専用に使われています。この表現はなぜ近視眼的な見方なのでしょうか。ヒント: ADCの基準電源

  4. 電圧を測定する場合、レシオメトリックが良くないのはなぜでしょうか。

  5. マイクロコントローラが、高精度の4.096V DC外部基準電源を使用するように構成され、Arduinoの5V DCレールから給電されるレシオメトリック位置センサを測定するとします。Arduinoのレール電圧の変動と4.096V DC基準電圧の変動がある場合その結果を説明してください。

  6. 前の質問に関連して、センサとADCの両方が適切にバッファされた4.096V DCの基準電源を介して電源を供給された場合、状況はどのように変化するか記述してください。

  7. レシオメトリック法に適用した場合、「双方に共通するものが考慮の対象から外れる」という表現は何を意味するのでしょうか。何が考慮の対象から外れるのかを具体的に記述してください。

  8. Arduino Nano Everyは5V DCのデバイスです。
    A) アナログ入力ピンに安全に印加できる最大電圧はいくらですか。
    B) 3.3V DC のマイクロコントローラの最大安全電圧は?
    C) 5V DCのレシオメトリックセンサの出力を3.3V DCのアナログ入力ピンに供給できますか?
    D) 5V DCセンサを3.3V DCマイクロコントローラに接続するために、どのように分圧器を使用できますか。

  9. ホイートストンブリッジの動作を調べてください。そのブリッジはレシオメトリックシステムですか? また、そのブリッジはレシオメトリックセンサとどのような特質を共有していますか?

  10. サーミスタとマイクロコントローラのインターフェースの回路図を示してください。レシオメトリック応答 に必要なワイヤ接続を特定してください。ヒント: 必要に応じて追加のコンポーネントを含めてください。

批判的思考を使う問題

これらの批判的思考の問題は、記事の内容を発展させ、その内容や隣接するトピックとの関係を全体像として理解することができます。このような問題は、自由回答形式であることが多く、リサーチが必要であり、エッセイ形式で答えるのが最適です。

  1. レシオメトリック技法は、励起電圧の変化を緩和する上で、優れた働きをしています。これらの利点は、温度による変化、部品の非線形応答、自然経時変化などにも波及するのでしょうか?

  2. 励起電圧用のオペアンプベースのバッファの回路図を描いてください。満点を取るには、基準電源、センサ、およびマイクロコントローラを示してください。 ヒント: オペアンプの電圧オーバーヘッドを考慮しましたか?

  3. 前の問題に関連して、選択したソリッドステートのレシオメトリックセンサを備えたシステムのDigiKey品番を示してください。5V DCの部品を想定してください。 ヒント: 各部品の電圧要件に特に注意してください。

  4. 新しいセンサと3.3V DCマイクロコントローラを使って、前の2つの問題を繰り返してください。ヒント: 必要に応じて、複数のレール電圧と外部のI2C ADC を使用してください。

  5. 前のハードウェアソリューションの代替案として、励起電圧とセンサ出力の両方を測定できるマイクロコントローラADCを使用して、レシオメトリック計算を実行することがあります。この方法では、分圧器を使用して5V DC信号を3.3V DCに下げます。回路図とコードを示し、精密抵抗と高品質の基準電源の必要性についてコメントしてください。




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