トランジスタの許容損失:周囲温度とケース温度の違い


APDahlen Applications Engineer

トランジスタの許容損失は、周囲温度( T_A )やケース温度( T_C )など、密接に関連する2つの指標を用いて記載されることがよくあります。一例として、図1に示すonsemi TIP41BGNPNトランジスタのデータシートの設計最大定格を考えてみましょう。ケース温度を想定した場合、許容損失は65Wと記載されています。周囲温度を想定すると、許容損失は2Wに低下します。この2つの仕様の違いを理解することは、信頼性の高い機器設計に不可欠です。

図1: onsemiのTIP41のデータシートからの抜粋で、全許容損失部分を赤で強調しています。

技術的なヒント: 全許容損失は絶対的な設計上の最大定格であり、いかなる状況でもこれを超えてはなりません。信頼性の高い機器を長寿命で使用するためには、設計最大値から充分マージンを取ってください。また、複数の項目にわたってコンポーネントに同時にストレスを与えないようにしてください。TIP41BGの VCEを80V DC、全許容損失を65Wで同時に動作させようとする設計は、長期的な信頼性が得られない可能性があります。

トランジスタの周囲温度とは何ですか?

周囲温度とは、 電子部品を囲む筐体内の空気の温度です。半導体の場合、室温の基準として25°C(77°F)が一般的に使用されています。これは、ファンまたは他の強制冷却機構がなく、静止した(動いていない)空気を想定していることに注意してください。

この状況を理解するより良い方法は、温度プローブが筐体内に設置されていると仮定することです。温度プローブは、検討中のトランジスタに物理的に接続することなく、空気の温度を測定します。

技術的なヒント: 周囲許容損失の指標は、ヒートシンクがない場合を想定しています。この条件下では、対象のTIP41トランジスタの許容損失は2Wを越えることはできません。

トランジスタのケース温度とは何ですか?

ケース温度はトランジスタの表面上で直接測定されます。対象のTIP41の場合、トランジスタの金属タブで直接温度を測定することができます。

この基準を理解する便利な方法は、トランジスタのケースを25°Cに維持するために理想的な(無限の)ヒートシンクが使用されていると仮定することです。これらの理想的な条件下では、対象のTO-220トランジスタは65Wの損失に耐えることができます。

技術的なヒント: どのような場合でも、最大許容損失の指標は半導体ダイのコア温度に紐付きます。 T_AT_C から逆算すると、最大ダイジャンクション温度 T_J と同じであることが分かります。その結果、 T_AT_C の指標は、ジャンクション対ケースおよびジャンクション対周囲の熱抵抗を考慮に入れて、トランジスタの動作を把握する便利な方法を提供します。

高温時のディレーティング

データシートに規定されている最大許容損失には、ディレーティング値が示されています。この例では、室温中での全許容損失は2.0Wで、ディレーティングは0.016W/°Cですが、ケース温度に対するディレーティングは0.52W/°Cと規定されています。これらの数値を使用して、高温時のトランジスタの最大許容損失を計算できます。

周囲温度が高い場合の例

周囲温度は、小さな筐体に収められた電子機器の現実的な使用温度である50°Cとします。

全許容損失は次のように計算されます。

P_D = 2 – 0.016 (50-25) = 1.6 W

25%の安全マージンを考慮すると、推奨される最大連続許容損失は1.2Wになります。

ケース温度が高い場合の例

同様の例は、ケース温度が高い場合にも適用できます。同50°Cの例を用いて、最大許容損失を次のように計算します。

P_D = 65 – 0.52 (50-25) = 52 W

25%の安全マージンでは、トランジスタの最大許容損失は約40Wです。前述と同様に、ケースの温度を 最悪50°Cに維持できる高品質のヒートシンクを想定しています。ヒートシンクの計算の詳細については、この優れた記事を参照してください。適切なヒートシンクのサイズとコストだけでなく、熱伝導材料を考慮しても、40Wの連続定格を達成するのは難しいことがわかります。

おわりに

最大許容損失を決定するには、機器の長寿命を保証するために慎重な分析が必要です。まず、ダイ温度がトランジスタの許容損失の制限要因であることを認識することから始めます。周囲温度とケース温度は、同じ情報を表すシンプルで便利な方法です。周囲温度はヒートシンクを含みませんが、ケース温度は理想的なヒートシンクを想定しています。実際の計算については、必ずこの記事を参照してください。

半導体を低温状態に保ちましょう。

ご健闘をお祈りします。

APDahlen

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著者について

Aaron Dahlen氏、LCDR USCG(退役)は、DigiKeyでアプリケーションエンジニアを務めています。彼は、技術者およびエンジニアとしての27年間の軍役を通じて構築されたユニークなエレクトロニクスおよびオートメーションのベースを持っており、これは12年間教壇に立ったことによってさらに強化されました(経験と知識の融合)。ミネソタ州立大学Mankato校でMSEEの学位を取得したDahlen氏は、ABET認定EEプログラムで教鞭をとり、EETプログラムのプログラムコーディネーターを務め、軍の電子技術者にコンポーネントレベルの修理を教えてきました。彼はミネソタ州北部の自宅に戻り、このような記事のリサーチや執筆を楽しんでいます。




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