著者:Jeff Shepard
Digi-Key北米地域担当編集者の協力による
2023年1月13日
USB Type-C®交流(AC)アダプタ、ネットワーク機器、民生用および産業用電子機器などのアプリケーションでは、電圧、電流、および温度条件によって損傷する可能性があるためデバイスとエンドユーザーの保護が必要とされています。従来のヒューズや正温度係数(PTC)サーミスタを使用することで、コンパクトなソリューションとある程度の保護機能を実現することができます。しかし、応答時間の短縮、プログラム可能でリセット可能な過電圧保護(OVP)、過電流保護(OCP)、低電圧ロックアウト(UVLO)、過温度保護(OTP)、ソフトスタート、逆電流ブロッキング(RCB)など、より高レベルの保護と高い柔軟性が求められるアプリケーションが増えてきています。USB Type-C ACアダプタの場合、USB Power Delivery(PD)仕様で定められたタイミング要件に準拠したFRS(Fast role swapping、高速ロールスワップ)にも対応する必要があります。
これらの機能をすべて実装した保護回路を設計することは可能ですが、設計には時間がかかります。また、ULやIEC 62368-1の安全規格の認証を取得しようとすれば、製品化までの時間をさらに引き延ばすことになります。さらに、ディスクリート部品を使用したソリューションでは、ソリューション全体のフットプリントが増大する可能性があります。
設計者は eFuseレギュレータを利用することで、ULやIECの安全規格に適合したコンパクトで正確な保護機能を迅速に実装することができます。これらの統合型保護ICは、設計の柔軟性をサポートするために保護閾値をプログラム可能で、保護はラッチ式または障害除去時の自動回復が可能です。「オン」抵抗を低くして効率を高め、突入電流を最小限に抑えるソフトスタートも搭載しています。一部のモデルでは、USB Type-CのACアダプタで使用できる認証済みFRS機能を搭載しています。
この記事では、eFuseについて電圧および電流定格、および代表的なアプリケーションについて紹介します。次に、OCP、ソフトスタート、OVP、UVLO、およびOTPなどの保護機能がどのように実装されているかを見ていきます。最後に、特定のアプリケーションに最適化されたLittelfuseの一連のeFuse ICsと、市場投入までの時間を短縮するためのシステム統合に関する留意点を紹介します。
eFuseの選定基準
特定のアプリケーションにおけるeFuseの要件は、システムの動作電圧および電流に強く関連しています。入力がDC5V、電流が2A程度までの低電圧・低電流システムでは、OCP、OTP、UVLO、およびホットスワップやホットプラグ時の突入電流抑制(dV/dt)などの機能が一般に必要となります。消費電流が2~6A、入力電圧がDC24Vまでのアプリケーションでは、OVP、電流制限/OCP、およびパワーグッド信号が必要になる場合がよくあります。システム監視やOCP、RCBのための電流タイマやモニタは、6A以上の電流と、DC24V以上の電圧を使用するアプリケーションで一般的です(図1)。
図1:eFuseの機能群は、アプリケーションの入力電圧(横軸)および
入力電流(縦軸)と強い相関があります。(画像提供: Littelfuse)
電流保護とソフトスタート
過電流は、電子部品の定格動作温度を超え、性能を損ない、寿命を縮める原因になります。電流保護回路は電流(I)を監視し、定格動作電流「Iout」を超えて設定されているレベルである「I-limit」を超えた場合、入力電流はまず数マイクロ秒(µs)の間一定レベルに規制され、その後自動的に安全なレベルまで低下します。使用するeFuseによって、I-リミット値は固定とすることもプログラム可能とすることもできます。過電流が発生すると、eFuseは一定時間(通常は数ミリ秒)入力電流を減少させ、その後再起動して障害が解消されたかどうかを確認します。
障害が残っている場合は、再び自動で電流を調整・低減し、数ms待ってから再起動します。電流を減らし、障害がなくなるまで再起動する一連の動作は、「ヒカップモード」保護と呼ばれることもあります。短絡状態の場合、入力電流が急上昇し、eFuseは直ちに入力電流を安全なレベルまで減少させます(図 2)。
図2:eFuseには、過大な負荷電流から保護するためのオートリトライ機能が
付いた電流制限と、短絡保護機能が搭載されています。(画像提供: Littelfuse)
ソフトスタートは、デバイスをオンにしたときに流れる突入電流を制限します。ソフトスタートがない場合は、電流を制限するのはプリント基板(pc board)のトレースと部品の比較的低いインピーダンスだけになります。突入電流が大きいと、電源回路や部品が損傷する可能性があります。ソフトスタートはeFuseをゆっくりと起動させることで、スルーレートを制御して突入電流を制限します(図 3)。ソフトスタートの速度は固定とすることもプログラム可能とすることもできます。
図3:eFuseのソフトスタートは有害な可能性のある突入電流を防ぎ、固定と
することもプログラム可能とすることもできますです。(画像提供:Littelfuse)
UVLOとOVP
電圧が高すぎても、また低すぎても、システムの誤動作や破損の原因となることがあります。eFuseのUVLO(Under Voltage Lock Out、低電圧誤動作防止)は、入力電圧があらかじめ設定された閾値より低い場合、デバイスが動作しないようにするものです。また、入力電圧の立ち上がりが遅かったり、電池のように内部抵抗が大きい電源の場合、負荷電流の上昇とともに電圧が低下しますが、UVLOの閾値を下がったり、上がったりが繰り返されることがあります。そのような場合、UVLOの機能は不安定になります。ヒステリシス(遅れ)が150~300ミリボルト(mV)程度のUVLO回路を使用すると、発振がなくなり、UVLO機能がスムーズに動作するようになります。
OVP(Over Voltage Protection、過電圧保護)は、過大な電圧によるストレスや損傷からデバイスを保護します。過電圧状態を検出すると、eFuseは直ちに電圧をクランプ(固定)してシステムを保護し、その後オフになります。また、出力コンデンサを内部抵抗を介してグランドに放電します。電圧が規定値まで下がると、eFuseは自動的にオンになります(図4)。OVPの閾値は固定とすることもプログラム可能とすることもできます。
図4:入力電圧がOVPクランプ値に達すると、それ以上の電圧上昇を防ぎ、
eFuseは出力をオフにしてシステムを保護します。(画像提供:Littelfuse)
過熱保護
過度な温度も破損や機能低下の原因となるため、eFuseには内部に温度センサが搭載されています。OTP(Over Temperature Protection、過熱保護)は通常、2段階のプロセスで実装されます。その第1段階は熱制御温度で、通常125°C前後でeFuseは電流を制限して温度上昇を止めようとします。それでも温度が上昇し続け、デバイスのジャンクション温度がサーマルシャットダウンの閾値(TSHDN)(通常140°C程度)を超えると、eFuseはオフになります。OTPにはヒステリシスを持たせており、内部温度がTSHDNより20°C下がるとeFuseは再出力します(図5)。
図5:OTPには、温度が所定量下がるとeFuseを再起動させる
ヒステリシスが搭載されています。(画像提供:Littelfuse)
電池駆動デバイス向けの小型5V eFuse
Bluetoothヘッドセット、ウェアラブル端末、タブレットPC、およびその他のアダプタ電源駆動デバイスの設計者には、OVP、OCP、およびソフトスタートを備えた小型ソリューションとして、DFN2X2_8Lパッケージの5V、5A定格のLS0505EVD22と、SOT23_3Lパッケージの5V、4A定格のLS0504EVT233をお勧めします(図6)。内蔵スイッチのオン抵抗が50ミリオーム(mΩ)であるため、消費電力を最小限に抑えることができます。OVPは過電圧時に即座に反応し、出力コンデンサを放電させます。電流制限閾値は外付け抵抗で設定することができ、過電流や短絡が発生すると、OCPはヒカップモードで動作します。自動ソフトスタート機能により、電圧の立ち上がりがスムーズで、突入電流を安全なレベルに制限することができます。
図6:LS0504EVT233 eFuseは、スペースに制約のあるアプリケーションで使用
できるよう、小型の SOT23パッケージを採用しています。(画像提供:Littelfuse)
18V/5AのeFuse
LS1205E シリーズeFuseは、動作電圧範囲DC2.7~18 V、定格電流5Aで、ハードディスクドライブ、ソリッドステートディスクドライブ、およびノートパソコンやネットワーク機器などのアダプタ電源駆動機器での使用に適しています。このeFuseは、25mΩのオン抵抗を持つスイッチを搭載し、10ピンのDFN3×3パッケージに収められています。プログラム可能なソフトスタート時間、プログラム可能な最大5Aまでの電流制限値、短絡保護、UVLO、およびフォールドバックOTPを備えています。以下の2つのモデルをご用意しています。
LS1205EVは、3つの入力電圧範囲を選択することができます。出力クランプ電圧とUVLO閾値は、選択された入力電圧範囲に基づいて決定されます。
LS1205EFは、UVLO、OVP、短絡、およびサーマルシャットダウン故障の発生を知らせるオープンドレインの故障表示機能を搭載しています。
28VのeFuse(RCBおよびFRSを搭載)
RCBおよびFRSを備えたThunderboltまたはUSB Type-C PD機能を必要とするノートパソコンやタブレットコンピュータ、ドッキングステーション、およびネットワーク機器の設計者には、OCP、OVP、短絡、ソフトスタート、およびOTP を搭載した28 V、6AのeFuseレギュレータLS2406ERQ23をお勧めします(図7 )。電源スイッチのオン抵抗は24mΩで、通常動作時の電力損失を最小限に抑えています。また、OCP、OVP、およびソフトスタート機能はプログラム可能で、OTPはデバイスが冷却したときの自動リカバリ機能を備えています。このeFuseは、イネーブル信号(EN)の論理状態に関わらず、RCB機能を常時オンにしているのが特徴です。また、FRSと入出力放電機能を内蔵し、USB PDの仕様に対応しています。
LS2406ERQ23は、薄型の16ピンQFN 2.5mm x 3.2mmパッケージで、UL/CSA 62368-1に準拠したULレコグナイズド認証を取得しています。
基板レイアウトのガイドライン
LS1205Eシリーズ、およびLS0505EVD22とLS0504EVT233について、実装を成功させるための一般的な基板レイアウトの留意点を説明します。
- IN端子とグランド(GND)間、およびOUT端子とGND間に0.1マイクロファラッド(µF)以上のセラミックデカップリングコンデンサを配置してください。ホットプラグアプリケーションのように入力電源経路のインダクタンスが無視できる場合は、このコンデンサは不要な場合があります。
- デカップリングコンデンサは、IN、OUT、およびGND端子のできるだけ近くに配置し、接続によって形成されるループ面積を最小にする必要があります。
- 高アンペア電力線は、少なくとも予想される最大電流の2倍を流せる大きさにし、可能な限り短くする必要があります。
- eFuseのGND端子は、プリント基板のグランドプレーンに直接接続する必要があります。プリント基板のグランドプレーンは、島(island)型にするか、または銅製のプレーンである必要があります。
LS1205Eシリーズのみですが、RILIM、コンデンサSS(CSS)、およびEN(イネーブル信号)用抵抗などのサポート部品は、対応する接続ピンのできるだけ近くに配置し、部品の反対側をGNDに接続するためのトレース長は最短にしてください。基板上のスイッチング信号とカップリングしないようにトレースを配置する必要があります。また、電流制限設定やソフトスタートタイミングに対する寄生成分の影響を最小にするため、RILIMとCSSコンポーネントのトレース長を可能な限り短くする必要があります。
LS2406ERQ23については、USB Type-Cケーブルの短絡保護やFRS部品に関するレイアウト上の留意点をデータシートでご確認ください。
まとめ
ユーザーとデバイスの両方を保護し、適用される規格を満たすために、設計者にはOVP、OCP、ULVO、OTP、および逆電流ブロッキングなどのさまざまな機能を備えた統合型保護eFuseレギュレータをお勧めします。プログラム可能な保護閾値とリセット機能により、eFuseは柔軟な設計を可能にしています。また、効率を最大化する低オン抵抗スイッチと、突入電流を最小化するソフトスタート機能を備えています。一部のモデルでは、USB Type-CのACアダプタで使用するための認証FRSおよびRCBを搭載しています。
おすすめ記事
関連製品ハイライト
保護IC eFuseレギュレータ
リテルヒューズの保護IC eFuseレギュレータは、過電流、過電圧、低電圧、過熱、逆電流に対する保護機能を備えています。
著者について
Jeff Shepard
JJeffは、パワーエレクトロニクス、電子部品、その他の技術トピックについて30年以上にわたり執筆活動を続けています。彼は当初、EETimes誌のシニアエディタとしてパワーエレクトロニクスについて執筆を始めました。その後、パワーエレクトロニクスの設計雑誌であるPowertechniquesを立ち上げ、その後、世界的なパワーエレクトロニクスの研究グループ兼出版社であるDarnell Groupを設立しました。Darnell Groupは、数々の活動のひとつとしてPowerPulse.netを立ち上げましたが、これはパワーエレクトロニクスを専門とするグローバルなエンジニアリングコミュニティで、毎日のニュースを提供しました。また彼は、教育出版社Prentice HallのReston部門から発行されたスイッチング電源の教科書『Power Supplies』の著者でもあります。
Jeffはまた、後にComputer Products社に買収された高出力スイッチング電源メーカーであるJeta Power Systems社を共同創設しました。発明家でもあり、熱エネルギーハーベスティングと光学メタマテリアル分野で17の米国特許を取得しています。このように彼は、パワーエレクトロニクスの世界的トレンドに関する業界の情報源であり、頻繁に講演を行っています。また、カリフォルニア大学で定量的手法と数学の修士号を取得しています。
出版者について
Digi-Keyの北米担当編集者