InfineonのレーダSDKのインストールと入門

レーダSDKについて

Infineonのレーダソフトウェア開発キット(SDK:Software Development Kit)は、XENSIVポートフォリオのレーダセンサを扱うための必須ツールです。その中心は、C/C++ライブラリで、デバイスの設定と制御、出力データの取得と収集、およびさまざまな信号処理アルゴリズム(移動目標指示、レンジドップラマップ、デジタルビームフォーマなど)のような基本機能を実装しています。また、動き検知、物体検知、物体追跡など、より高度なアルゴリズムも使われています。

より高レベル言語で作業したい方のために、PythonとMatlabのラッパーもSDKの一部として提供されています。これらの追加の抽象化レイヤは、C/C++ライブラリの最も基本的な機能(デバイス設定やデータ取得など)へのアクセスを可能にし、科学計算環境におけるより複雑なレーダ処理アルゴリズムの開発を容易にします。なお、各サポート言語には、詳細なドキュメントと一緒にいくつかのアプリケーション例が含まれています。

残念ながら、このリソースはInfineonのウェブサイトでダウンロードできるシンプルな.zipアーカイブとしては提供されていません。代わりに、レーダ開発キット(RDK:Radar Development Kit)と呼ばれるソフトウェアのコレクションにバンドルされています。したがって、レーダSDKにアクセスするには、まずRDKをダウンロードしてインストールする必要があります。これはちょっと厄介なプロセスで、インストールが完了した後でも、SDKがどこにあるのか、あるいはSDKをどのように使用するのかがまったく明確ではありません。以下のセクションでは、1)インストールの手順を説明し、2)SDKを使い始めるために必要なリソースを紹介することで、この混乱を軽減しようと試みます。

InfineonのRDKには、以下のソフトウェアコンポーネントが含まれています。

  • レーダSDK
  • レーダフュージョンGUI
  • ifxdaqデータ収集ツール

この短いチュートリアルでは、レーダSDKについてのみ触れていますが、お客様の開発目的によっては他のツールも同様に有益であることがお分かりになるかもしれません。ぜひチェックしてみてください。

サポートされているセンサ

クイックリファレンスとして、RDKがサポートするXENSIVセンサと開発ボードの概要を以下に示します。

インストール

以下の手順では、Windowsが動作するマシンにRDKの最新バージョン(バージョン3.6.5)をインストールする方法を説明します。手順に進む前に、オペレーティングシステムについて簡単に説明します。レーダSDKはWindows、Linux、およびmacOSに対応していますが、ステップ1では、RDKのインストールオプションがWindowsのみであることにお気づきでしょう。これは、レーダフュージョンGUIがWindowsでのみ利用可能であるため、RDK全体がLinuxやmacOSと互換性がないためと思われます。したがって、レーダSDKをLinuxやmacOSで使用したい場合は、まずWindowsマシンにインストールし、次にSDKファイル(下記ステップ5参照)をお使いの環境にコピーするのが最もシンプルな方法です。

  1. RDKのダウンロードページへのリンクをクリックしてください。そこには2つのインストールオプションがあります。Launcher経由でインストール、もしくはダウンロードです。Infineon Developer Center Launcherが既にインストールされている場合は、Install via Launcherオプションを使用すると、パッケージのインストール、更新、削除を管理できるので便利です。Infineonの他のツールやソフトウェアもInstall via Launcherから利用できるため、Infineon製品を使用する機会が多い方には非常に便利なユーティリティです。このチュートリアルでは、ダウンロードオプションを使用し、手動でインストールを行います。

  2. ダウンロードリンクをクリックし、ダウンロードが完了したら.exeファイルを開きます(図1参照)。なお、ダウンロードを開始するには、Infineonアカウントにログインする必要があります。

図1: ダウンロードページからRDKインストーラをダウンロードし、 起動させます。

  1. インストーラを実行すると、すぐに図2のウィンドウが表示され、インストールモードを選択するよう促されます。この2つのオプションの唯一の違いは、インストーラが選択するデフォルトのインストー ルディレクトリです。Install for me onlyを選択した場合、推奨されるインストール先ディレクトリは C:\Users\<user_name>\Infineon\です。Install for all usersモードを選択した場合、C:\Infineon\が推奨されるインストール先ディレクトリになります。お使いのシステムに最適なオプションを選択してください。

図2: インストーラによるインストールモードの選択プロンプト

  1. 使用許諾契約書に同意してNextをクリックすると、quickインストール(図3に示すデフォルトのインストール設定をすべて適用)か、customインストールか、のいずれかを選択できます。お好みのインストールディレクトリを選択し、作成するショートカットを決定し、レーダフュージョンGUIをインストールするかどうかを決定できるので、customインストールパスを選択することをお勧めします。選択が完了したら、Installをクリックします。
  1. 最後に、インストール先に進み、図4に示す<RDK_installation_directory>\assets\software\ディレクトリに移動します。そこには、radar_sdk.zipアーカイブにパッケージされたレーダSDKファイルがあります。このファイルを任意の場所で解凍し(同じディレクトリに解凍することを推奨)、レーダソリューションの開発を進めてください!

レーダSDKの探索

この時点で、RDKとレーダSDKを構成するファイルが直感的に分かりにくい構成になっていることにお気づきでしょう。すべての場所がどこにあるかを把握するまでは、ディレクトリ構造を何度も探索して、ようやく探しているものにたどり着くことになります。このセクションでは、最初に確認すべき最も重要なファイルやディレクトリを紹介することで、ツールに慣れてきた人の試行錯誤を軽減します。

以下のパスでは、 <RDK_installation_directory>を上記のセクションで選択したインストールディレクトリ(図3参照)に置き換え、<SDK_extraction_directory>をステップ5で選択した解凍したディレクトリに置き換えてください。

<RDK_installation_directory>/index.html

最初に開くファイルでは、RDKとその各ソフトウェアコンポーネントについて簡潔に説明しています。索引ページに記載されている概要をお読みになった後は、必ずページ上部の各リンクをご覧ください。そこには以下のような有用な情報が記載されています。

  • 時間の経過とともにどのような変更が加えられたか(どのような機能がどこに追加されたか、どのようなバグが修正されたか、どのような問題がまだ残っているか)を概説したRDKのリリース履歴
  • C/C++ライブラリとPythonおよびMatlabラッパーの使い方を説明したクイックスタートガイド
  • 提供されているアプリケーション例の概要と、それらに互換性のあるセンサ
  • センサのデータシート、評価キットのユーザーマニュアル、ボード設計ファイルなどのハードウェアドキュメントへのリンク
  • Radar Fusion GUIとifxdaq記録ツールもRDKの一部であるため、それらに関する紹介情報

<SDK_extraction_directory>/radar_sdk/doc/documentation.html

レーダSDKに関するInfineonの優れたドキュメントは、このファイルを開くことで見ることができます。このドキュメントはいくつかのセクションに分かれており、まず、FMCWレーダの動作原理を十分に理解していない人のために、FMCWレーダの入門から始まります。次に、レーダパラメータを変更することが設計指標(最大距離、距離分解能、最高速度、速度分解能など)にどのように影響するかを理解したら、C/C++ライブラリを使用して、選択したXENSIVデバイスの設定とテストを開始できます。ライブラリの構築と C/C++アプリケーションでの使用の詳細な手順については、該当するセクションを参照してください。もちろん、SDKのAPIはDoxygenコメントによって徹底的に文書化されています。

また、もう少し抽象度を上げたい方のために、PythonとMatlabの両方のラッパーを使い始めるための詳細な手順も提供されています。これらの言語を使用すると、センサデータの取得や操作がより簡単になるため、アプリケーション開発に最適です。これらのラッパーを使用する場合、SDKをソースコードからビルドする必要はありません。

アプリケーションの開発は、追加セクションによりサポートされており、そこではレーダの時間領域データの出力形式、SDKによりサポートされるアルゴリズム、および評価用に提供されるアプリケーション例が説明されています。

<SDK_extraction_directory>/radar_sdk/examples/

このディレクトリには C、Python、Matlab用のアプリケーション例があります。これらを実行するために必要なすべての情報については、SDKのドキュメントを参照してください。

<SDK_extraction_directory>/radar_sdk/sdk/

このディレクトリには、実際のSDKライブラリとラッパーがあります。時として、ある関数が何をするのか、あるいはあるアルゴリズムがどのように動作するのかを完全に理解するために、ソースコードを掘り下げる必要があることに気づくかもしれません。ここから掘り下げが始まります!

まとめ

InfineonのXENSIVレーダセンサを使用する際は、レーダSDKパッケージが必須です。残念ながら、このツールをインストールして使い始めるのは、必要以上に複雑です。特にLinuxやmacOSユーザーにとっては、現在公式にサポートされているインストールオプションがないためです。しかしながら、Infineonはドキュメンテーションのページを盛り込んでいるので、RDKをインストールし、SDKを検索して解凍すれば、今後の開発過程で優れたリファレンスとなります。もちろん、レーダSDKを使い始めて何かご質問がある方は、この投稿に返信することも歓迎します。




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