ゼロオーム抵抗は何のために使われるのですか?
Bill Schweber著
2020-06-18
タグ エンジニアリング 汎用 受動部品
「ゼロオーム抵抗器」という用語になじみのない方には、この用語が新人の回路設計者やナイーブな回路設計者をからかう冗談のように聞こえるかもれません。なにしろ、彼らは常に設計を簡素化し、部品表(BOM)を削減するという絶え間ないプレッシャーにさらされているからです。しかし、ゼロオーム抵抗は冗談ではまったくありません。その証拠に、この原稿を書いている時点で、Digi-Keyには1つのバージョンで15万個の在庫があることを考えてみてください。明らかに、それらは使われているのです。
抵抗がゼロなら、使用しない方がコストとボードのスペースを節約できて良いのに、なぜ必要なのでしょうか?設計にどんなメリットがあるのでしょうか。
この一見「役に立たない」部品が意味を持つ理由は、少なくとも3つあります。2つは設計、テスト、製造に関連するもので、3つ目は・・・まあ、これらとはあまり関係がないと言っておきましょう。
1:プリント基板のレイアウト
まず、今でも通用する古い理由から始めましょう。50年ほど前、「プリント回路基板」またはPCボードと呼ばれる新しいものが登場した当初、私たちの標準的なFR4ガラスエポキシ両面基板は存在しませんでした。 その代わり、初期の基板はフェノール紙をプレスしたもので、片面だけに銅が使われていました。真空管ソケット、ディスクリートトランジスタ、受動素子、トランス、コネクタなど、大型のものが多いので、手作業で部品を挿入していたのです。
片面だけのプリントパターンで基板の配線を行うには相当な技術が必要であり、不可能な場合もありました。解決策として、2つのプリントパターン間の接続を可能にするため、「ブリッジオーバー」部分にワイヤジャンパを追加しました。機械による挿入が主流になると、基本的なワイヤジャンパは、同じ機能を果たすために、ディスクリートで標準的な形状のゼロオーム抵抗に置き換えられました。
片面フェノール基板とそのジャンパは今でも使われています。コーヒーメーカーや電子レンジなどの最新家電でも、トランスなどの大型部品を搭載する場合は片面フェノール基板を使用し、トポロジ問題を解決するためにジャンパを使用しています(図1)。
2:回路と基板の柔軟性
ゼロオーム抵抗は、最新の多層FR-4基板設計においても、その役割を担っています。レイアウトの配線が複雑で、一部のパスの接続が完了しない場合があります。その解決策は、ゼロオーム抵抗を介して、その重要な場所に数セントで余分な層を「購入」することです。
これらの抵抗器はまた、回路の相互接続や操作の再構成を容易にすることもできます。 また、基板のサブサーキット間の電気的な分離を可能にし、デバッグやテストの際に、極小のSMTゼロオーム抵抗であっても、細く薄いPCBの配線を切断して修復するよりも簡単にはんだ除去やはんだ付けができます。また、すべての構成で必要とされるわけではない余分なフィルタ段や、テストや校正サイクルのために停止させなければならない回路機能をショートさせるために使用することもできます。
もう1つの用途は、この抵抗器を使用することで、基板に実装し、はんだ付けした後でも、1枚の基板をさまざまな構成にカスタマイズすることができます。 最も単純なケースとして、ダンピング回路やスナバ回路にゼロオームまたは10オーム(Ω)が必要な信号経路を考えてみましょう。正しい値は製品が駆動する負荷の詳細によって決定されます。0Ωや10Ωの抵抗を1つだけ入れることができるように基板をレイアウトし、適切な値をその組み立て用のBOMに記載したり、手で挿入してはんだ付けすることができます。あるいは、ゼロオームの抵抗と10Ωの抵抗を並列に配置し、10Ωが正しい値であればゼロオームの抵抗を取り除くといった回路やプリント基板を設計することも可能です。
抵抗器付きと抵抗器無しの2枚の基板を作るという別の方法もあります。しかし、基板を1枚にして、必要に応じてゼロオーム抵抗を抜き差しするほうが、安上がりでスマート、かつ在庫管理もしやすいのです。
3: 回路図を覆う薄いヴェール
最後に、ゼロオーム抵抗には、回路を複雑にして機能を隠蔽し、設計をトレースしてリバースエンジニアリングしようとする人を混乱させるという、あまり知られていない理由もあります。これは、ほとんどがアナログ回路の単純な片面基板という初期の頃は一般的でしたが、電源機能などの低密度領域では今でも行われています。この方法で回路図を作成する場合、まず回路図をトレースし、その後に各構成部品とその役割を確認することになります。ゼロオーム抵抗がいくつかあると、この2番目のステップがより複雑になります(これは、NOPを使ってプログラムやループのタイミングを調整するという、ソフトウェアの「ダーティ」なトリックに多少似ています)。
ゼロオーム、複数のパッケージ
ゼロオーム抵抗は、シングルでもアレイでも入手できます。例えば、NTE Electronics, Inc のSR1-0805-000 は、標準的な0603 1.5 x 0.8mm(0.06 x 0.03インチ)表面実装技術(SMT)パッケージのシングル構成のチップ抵抗器です(図2)。
図2: NTE ElectronicsのSR1-0805-000は0603パッケージのゼロオーム抵抗で、他のSMTチップ部品と外観が同じで、取り扱いも同じです。(画像出典:NTE Electronics)
隣接した複数のゼロオーム抵抗が必要な場合、0804パッケージに4本の抵抗が入ったPanasonicのEXB-28VR000Xアレイが利用できます(図3)。
図3:PanasonicのEXB-28VR000Xは、0804標準パッケージの4抵抗のゼロオームアレイです。(画像出典:Digi-Key Electronics、Panasonicの資料を使用)
興味深いことに、ゼロオーム抵抗器の仕様には、2つの珍しい属性があります。第一は、公差の指定がないことです。この数は通常、抵抗器の公称値のプラスマイナス数パーセントとして表されます。これは、ゼロオームでは意味がありません。第二に、これらのジャンパには最大電力定格がありますが、ここでのRは0オームであるため、I2Rで定義される消費電力は不要と思われるかも知れません。しかし、ゼロオームの抵抗でも完璧ではありません。ほとんどの場合、50ミリオーム(mΩ)などの実際の最大抵抗値を記載しており、最大定格電流を規定しています(表1)。
表1:ゼロオームの抵抗でも完璧ではありません。ほとんどの場合、50ミリオーム(mΩ)などの実際の最大抵抗値を記載しており、最大定格電流を規定しています(表出典:Panasonic)
結論
ゼロオーム抵抗器は、一見すると不要で、役立たずな部品にみえる良い例です。 しかし、その存在を知り、回路やレイアウトの問題を非常に低コストで、しかも複雑な作業は一切不要、あったとしても極わずかで解決できることを理解している設計者にとっては、非常に有用なものです。これらの理由から、ベンダーはさまざまな構成で提供しています。
推薦図書:
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ダイレクトプラグインタイプの圧接コネクタを使用したアセンブリの簡素化と部品点数の削減
筆者について
Bill Schweberはエレクトロニクスエンジニアで、電子通信システムに関する3冊の教科書のほか、何百もの技術記事、意見コラム、製品紹介を執筆しています。 過去には、EE Timesの複数のトピック別サイトの技術系Webサイト・マネージャーや、EDNのエグゼクティブ・エディターとアナログ・エディターの両方を務めたこともあります。
Analog Devices, Inc.(アナログ・ミックスドシグナルICの大手ベンダー)では、マーケティングコミュニケーション(広報)を担当していました。そのため、彼は技術広報の発信者として会社の製品、ストーリー、メッセージをメディアに発信する一方、その受け手としても活躍しています。
Analog Devices, Inc.でマーケティングコミュニケーションを担当する前は、同社の定評ある技術誌の副編集長を務め、製品マーケティングやアプリケーションエンジニアリングのグループにも在籍しました。それ以前は、Instron Corp.で材料試験機制御用のアナログおよび電源回路設計とシステム統合を実践的に行っていました。
彼はマサチューセッツ工科大学(MSEE)とコロンビア大学(BSEE)を卒業しており、登録技術士で、アマチュア無線上級資格を取得しています。Billはまた、MOSFETの基礎、ADCの選択、LEDの駆動など、さまざまなエンジニアリングトピックスに関するオンラインコースを企画、執筆、発表しています。