状況によります。
この質問には非常に多くの要因が含まれるため、明確な答えを出すことはできません。しかし、アーマチュア(可動鉄片)がソレノイドコアに物理的に接触する際のインダクタンスの変化、接点のフライトタイム、接点バウンス、電圧の影響など、リレーの動作とその原理に関して習得すべき興味深い学びがいくつかあります。このようなリレーの力学の知識を持っていれば、リレーのデータシートをより良く解釈し、次の設計を改善することができます。
テスト回路
この質問に答えるため、図1に示す実験回路と図2に示す回路図を用いて実験を行います。実験回路には、代表的な産業用リレーとソケット、回路図に示すリレードライバ、そしてドライバのオンとオフを制御するArduino Nano Everyが含まれます。信号の記録には、Digilent Analog Discovery 3、プローブアダプタ、10Xプローブを使用します。
図1: リレーの作動時間(リレーが閉じる時間)を測定するためのテスト用実験回路
リレードライバは冗長な設計に見えるかもしれません。しかし、Q2ハイサイドドライバ(電流吐き出し構成)は、リレーコイル電流をグランドに向けて流すために必要です。これにより、小さな値のシャント抵抗(R5)を取り付けることができます。この抵抗がグランドの位置にあれば、リレーのコイル電流を、既知の抵抗にかかる小さな電圧降下として簡単に測定できます。
そのほかの回路は、レベルシフト用トランジスタQ1と、ノーマリクローズ(N.C.)接点とノーマリオープン(N.O.)接点用のインジケータLEDによる、リレーの状態検出手段で構成されています。
リレーコイルの両端に接続されたD1フライバックダイオードも忘れないでください。このダイオードは、リレーが非アクティブ時(リレーが開くとき)にトランジスタQ2を保護するために必要です。このダイオードはリレーのアクティブ時(リレーが閉じるとき)には何の影響も及ぼしませんが、リレーが開くときには大きな影響を及ぼすことをご理解ください。おそらく将来、リレーを開くのに要する時間に関する質問に答えることができるでしょう。
図2: ハイサイドPNPリレードライバ(Q2)と電流シャント抵抗(R5)を備えた回路図
実験結果
実験結果を図3に示します。3つのグラフがあります。
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上のグラフ:オレンジ色の線(CH 1)は、リレーのアクティブ時(リレーが閉じるとき)に、Q2のコレクタで測定した電圧です。青色の線(CH 2)は、R5シャント抵抗の両端で測定したリレー電流です。
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中間のグラフ:青色の線(CH 2)は、リレーのノーマリクローズ接点で測定した電圧です。
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下のグラフ:青色の線(CH 2)は、リレーのノーマリオープン接点で測定した電圧です。
技術的なヒント: Digital Analog Discovery 3は、2チャンネルのオシロスコープとして動作します。10Xプローブを装備すると、最大±250V DCの信号を測定できます。図3の合成図は、4チャンネルオシロスコープを使用すれば、1つの画面で表示できたはずです。
図3: リレーがアクティブ化(リレーが閉じる)時の、コイル電流、ノーマリクローズ接点、ノーマリオープン接点の波形
図3のデータから、以下のことが分かります。
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アーマチュア(コモン接点)は、最初の4.7msでN.C.接点から離れることが観測さ れます。
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4.7msから7.6msの間に2.9msのフライトタイムがあります。この「フライトタイム」において、コモン接点はN.C.接点にもN.O.接点にも接続されていません。
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N.O.接点との最初の接触は7.6msで起こります。
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接点は7.6msから8.8msまで1.2ms間ばたつきます。
これらの接点変化に加えて、リレー電流には微妙なディップ(窪み)があります。これはアーマチュア(可動鉄片)が動いている間に起こります。おそらく、アーマチュアがコイルの金属コアと物理的に接触することで、リレーのインダクタンスが変化するためだと考えられます。コイルインダクタンスの急激な変化は、リレー電流のなだらかな傾斜を乱します。アーマチュアがコイルに対して所定の位置に保持されている場合には、この乱れは生じないことに注意してください。
リレーが閉じるときの動作時間の高速化
リレーが閉じるときの動作時間の高速化には、ステッピングモータドライブのいくつかのコツを応用することができます。どのようにしてインダクタに電流を流すのか、と同じ問題です。インダクタの時定数 (\tau) が次のように定義されていることを思い出してください。
\tau = \dfrac{L}{R}
インダクタは、リレーのコイルであれ、ステッピングモータのコイルであれ、固定インダクタンスを持っています。また、固定抵抗も持っています。しかし、L/nRシステム(nはコイル抵抗の乗数)を実装することで、時定数を下げるために外部抵抗を追加することを妨げるものは何もありません。例えば、直列抵抗を2倍にすることができます。このL/2Rシステムは時定数を2 分の1に減らします。同様に、L/4Rシステムは時定数を4分の1に減らします。
この外部抵抗による代償は、追加電圧と無駄な電力です。私たちが使用した24V DCリレーでは、L/2Rで48V DC、L/4Rで96V DCを必要とします。リレー電力は2倍と4倍に増加します。
一旦立ち止まって、リレー用のL/4Rシステムが常軌を逸した領域に足を踏み入れていることを認識しましょう。一方、96V DCのPWMドライバの可能性があります。これは、PWMの最初のパルスのあとローレベルを「維持」することにより、応答性の良い磁界の構築を可能にします。
とはいえ、L/2Rシステムでどのように状況が改善されるかを見てみます。この実験では、図2の回路図に示すようにR4を追加します。また、電源電圧を48V DCに上げます。その結果を図4に示します。
図4: L/2R環境で動作させた場合の、リレーがアクティブ(リレーをを閉じた状態)化時の波形
図3と図4の定常電流が同じであることに注目してください。電圧は2倍になりましたが、R4直列抵抗はコイル抵抗とほぼ同じです。その結果、これらは同じ抵抗値による電圧分割器を形成しています。
図4に示された結果は、図3から明らかに改善されています。最も大きな変化は、N.C.接点の動作時間です。4.7msから2.4msに変わっています。これは、L/2R計算で示唆された2倍のスピードアップによるものです。フライトタイムはわずかに短縮され、バウンス時間はわずかですが改善されています。これは、インダクタンス(磁界へのエネルギー蓄積)がリレーのアクティブ時(リレーが閉じるとき)の制限要因であることを示唆しています。スプリングの張力と接点間のバウンスの物理特性は比較的一貫しています。
もう一度、リレーコイルの電流のディップに注目してください。これは金属アーマチュアの「吸引」プレートがリレーのコイルに近接することによるインダクタンスの変化によるものです。
まとめ
これは楽しい小さな実験でした!
インダクタンスとリレーの動作について勉強になりましたか?
より重要なのは、リレーのデータシートを読む力がつくことです。
ご意見、ご感想をお待ちしております。
ご健闘をお祈りします。
APDahlen
追伸:この記事の続きの「リレーが開くまでどのくらい時間がかかりますか?」が掲載さています。