aamado Verified Supplier Rep
副題:パワーMOSFETのスイッチング時間間隔の推定手法
1. はじめに
設計エンジニアは、特にアプリケーションの高速スイッチングや高性能化に伴い、最新の電子システムにおける電力効率の最適化という課題に直面しています。車載用制御ユニット、産業用モータ駆動、あるいは民生用電子機器のいずれにおいても、スイッチング時の過剰な電力消費は、熱ストレスの増大、信頼性の低下、およびエネルギーコストの上昇につながります。
これらのシステムにおける電力損失の最も重要な要因の1つは、MOSFETのスイッチング損失です。これは、誘導負荷を含む回路で特に重要になります。高速スイッチング機能と制御の容易さからMOSFETが広く使用されているにもかかわらず、異なる部品のスイッチング損失を正確に見積もり、比較することは依然として複雑な課題です。
ここでは、動的な電力損失を理解するために不可欠なスイッチング時間の計算に重点を置いています。MCCは、スイッチングアプリケーション向けに最適化されたさまざまなパワーMOSFETを提供しています(表1を参照)。本シリーズの以下のセクションで紹介する計算とシミュレーションの例では、これらの部品の1つを参考として使用します。
表1:スイッチング用途MCCのパワーMOSFET製品群

2. パワーMOSFET
パワーMOSFETは電圧制御のユニポーラデバイスで、動作に必要な入力(ゲート、G)電流はわずかです(非ラッチング時)。MOSFETは、図1に見られるように、ゲート(G)~ ソース(S)間に必要な電圧VGSが維持されれば、ドレイン(D)~ ソース(S)間に電流を流し続けます。

図1.パワーMOSFETの端子構成図
電流の流れに寄与するのは多数キャリアのみであるため、MOSFETのスイッチング速度は高速です(実用的なアプリケーションでは数百kHzを超えます)。
2.1. MOSFETの動作モード
MOSFETがドレイン電流を流すためには、ドレインとソースの間にチャンネルを作る必要があります。これは、ゲート~ソース間電圧がデバイスの閾値電圧 (V_{th})を超えたときに発生します。v_{GS}>V_{th} の場合、デバイスは、図3に示すように、ドレイン~ソース間電圧 (v_{DS}) の値によって、三極管領域(抵抗一定)か飽和領域のいずれかになります。

図2.i_D - v_{DS} 特性に基づくMOSFETの動作領域
MOSFETがスイッチとして使用される場合は、三極管領域とカットオフ領域のみが使用されますが、制御電流源として使用される場合は、MOSFETは飽和領域で動作する必要があります。
2.2. MOSFETの寄生容量
寄生容量は、MOSFETのスイッチング動作に影響を与える重要なパラメータです。これらの容量は、デバイスの3つの端子間にあります。すなわちゲート~ソース間容量 (C_{GS})、ゲート~ドレイン間容量 (C_{GD})、およびドレイン~ソース間容量 (C_{DS}) です(図3参照)。

図3. MOSFETの寄生容量
これらの静電容量の値は非線形で、デバイスの構造、形状、とりわけバイアス電圧の関数になっています。MOSFETの寄生容量は、デバイスのデータシートに測定が容易な代表的なパラメータ C_{iss}、C_{oss} 、C_{rss} で示されます(図4)。この関係は図3の下部の方程式に示されています。

図4.データシートにおけるMOSFETの代表的な静電容量プロット
3. スイッチング時間の計算(ターンオンおよびターンオフ)
半導体デバイスのターンオンとターンオフのプロセスは不連続な事象ではなく、i_{DS}=I_{DS_{MAX}} (オン状態)と i_{DS}\approx0 (オフ状態)の間には遅延時間が発生します。よく知られているMOSFETのスイッチング特性に基づき、これらの時間は3つの異なる時間間隔に分けられます。これは、図に示されているターンオンおよびターンオフの動作からも確認できます。それぞれ図5のa)およびb)です。本稿では、以下の計算方法についてご説明します。
-
t_{10_{ON}} (ターンオン遅延時間)とは、 V_{GS} が V_{th} に達するまでに要する時間
-
t_{21_{ON}} (ターンオン立ち上がり時間)とは、ドレイン電流が i_{DS}\approx0 から i_{DS}=I_{DS_{MAX}} に達するまでの時間
-
t_{32_{ON}} (ターンオンプラトー時間)とは、ドレイン~ソース間電圧 V_{DS} が最大値 V_{DS}=V_{DS_{MAX}} からオン状態になるまでの時間です。この間、 V_{GS} はプラトー値 V_{gp_{ON}} のままであることに注意してください(ミラー効果による)。
-
t_{10_{OFF}} (ターンオフ遅延時間)とは、 V_{GS} が最大値からプラトー値 V_{gp_{OFF}} になるまでの時間
-
t_{21_{OFF}} (ターンオフプラトー時間)とは、V_{DS} がオン状態の電圧から V_{DS_{MAX}} に戻るまでの時間
-
t_{32_{OFF}} (ターンオフ立ち下がり時間)とは、ドレイン電流が I_{DS_{MAX}} からゼロに戻るまでの時間

a)

b)
図5.a)MOSFETのターンオン波形と b)MOSFETのターンオフ波形
前述したように、このアプリケーションノートでは、誘導負荷下の単純なLSD(ローサイド駆動)パワーエレクトロニクス回路を考えます。負荷インダクタンス (L_0) は、それを流れる電流を値 I_0 (図6では電流源でモデル化)で一定と見なすのに十分な大きさであると仮定します。また、MOSFETがオフ状態の間の負荷電流を還流するために使用される無損失フライバックダイオード D (図6参照)も含まれています。

図6.誘導負荷を持つLSD回路
3.1. ターンオン遷移( t_{{10}_{ON}} 、t_{{21}_{ON}} および t_{{32}_{ON}} )
3.1.1. ターンオン遅延
まず、デバイスがオフで、負荷電流 I_0 が D に流れ、v_{GS}=V_{GG}=0 であるとします。電圧は v_{DS}=V_{DD} 、電流は i_G=i_D=0 です。t=t_0 で電圧 V_{GG} が印加されます。(図5 a)。 V_{GG} の急激な電圧の変化により、C_{GS} と C_{GD} から R_G を介して電荷を移動し始めます。

図7.v_{GS}<V_{th} 、i_D=0 での t_{{10}_{ON}} 時のMOSFET
t_0≦ t<t_1 の間(t_{{10}_{ON}} ) は、V_{DS} の値に関係なく i_D=0 となり、v_{GS}<V_{th} でMOSFETはカットオフ領域となります。
この間隔は C_{GS} と C_{GD} の電圧をそれぞれゼロから V_{th} 、V_{DD} から V_{DD}-V_{th} にするのに必要な遅延ターンオン時間を表します。 t_{{10}_{ON}} の式はゲート電流が次式で与えられることを考慮して求めることができます。
ここで、
t_{10_{ON}} の間、時間とともに変化する電圧は v_{GS} のみ( v_{DS}=V_{DD}、一定 )であることを考えると、式は次のように書き換えることができます。
一方、 i_G\ =\left(V_{GG}-v_{GS}\right) / {R_G} ですから、式は次のようになります。
したがって、 v_{GS}、t>t_0、および v_{GS}\left(t_0\right)=0 の微分方程式を解くと次のようになります。
ここで、 \tau は次式で定義されます。
この結果は、v_{GS}<V_{th} かつ i_D=0 である限り有効です。t_{{10}_{ON}} を解きます。
3.1.2. 立ち上がり時間
t_1≦ t<t_2 (t_{{21}_{ON}}時) では v_{GS}>V_{th} の条件が成立し、MOSFETは導通を開始し、 i_D\neq0 です。このターンオン電流の初期段階は、トランスコンダクタンス方程式で与えられます。

図8. 微小変化に対する入力伝達特性
v_{GS}<V_{plateau} である限り、 v_{GS} の方程式は t_{{10}_{ON}} のときと変わらないので、

図9. t_{{21}_{ON}} 時のMOSFET( v_{GS}>V_{th} 、i_D<I_0 )
t=t_2 に達するとき i_D は最大値 I_0 に達します。i_D\left(t_2\right)=I_0 と仮定すると t_2-t_0 の時間間隔は、以前に求めた i_D\left(t\right) の方程式から解くことができ、その結果は以下のようになります。
図5 a)より、t=t_2 のとき、v_{GS} も一定であり、そのオン状態プラトー電圧 V_{gp-ON} に等しい(S. Liu他)とすると、次のように記述できます。
簡単な計算により、
そして最後に、以前に得られた t_{10_{ON}} を用いて、t_{21_{ON}} を得ることができます。
3.1.3. ターンオンプラトー
t_2≦t<t_3\ (t_{{32}_{ON}}時) の間、{i_D=I}_0 となり、C_{DS} は {v_{DS}=V}_{DD} から v_{DS}=I_0R_{DSon} まで放電します。ここで R_{DSon} はMOSFETのオン抵抗です。
t_{32_{ON}} 期間中の v_{GS} が一定であるため、ゲート電流全体が C_{GD} を流れます。
そして、
v_{GS}=V_{gp-ON} 、v_{DS}\left(t_2\right)=V_{DD} 、および時間間隔 ∆t=t_{{32}_{ON}} であることを考慮すると、
時間間隔 t_{{32}_{ON}} は、t=t_3 においてドレイン~ソース間電圧がそのオン抵抗によって決定される最小値に達すると仮定して決定されます。

図10.v_{GS}>V_{th} 、i_D=I_0 の条件下における t_{{32}_{ON}} 期間中のMOSFETの状態
これにより、時間 t_{{32}_{ON}} が得られます。
3.2. ターンオフ遷移( t_{{10}_{OFF}} 、t_{{21}_{OFF}} および t_{{32}_{OFF}} )
ターンオフの遷移タイミングについても、前節で行ったものと同様の解析を行うことができます。スペースの都合上、以下に結果のみを示しますが、ご要望があれば計算プロセスを提供します。
3.2.1. ターンオフ遅延
v_{GS} が最大値からプラトー値 V_{gp-OFF} になるまでの時間です。
3.2.2. ターンオフプラトー
v_{DS} がオン状態の電圧から V_{DS_MAX} に戻るのにかかる時間、この場合はそれぞれの電圧は I_0r_{DS\left(on\right)} と V_{DD} となります。
3.2.3. 立ち下がり時間
ドレイン電流が I_{{DS}_{MAX}} からゼロに戻るまでの時間です。
4. まとめとシリーズ展望
このアプリケーションノートでは、誘導負荷を持つローサイドドライバ構成のパワーMOSFETのスイッチング時間、ターンオンおよびターンオフ遷移の計算方法について紹介しました。これらの計算は、スイッチング損失を見積もり、デバイスの性能を比較するための基礎となります。
このシリーズの今後のノートでは、この基礎の上に、データシートの主要パラメータの抽出、完全な消費電力計算の実行、実際のMCCのMOSFET品番への手法の適用といったプロセスを通じて、エンジニアにご説明していきます。各ノートは、消費電力が問題となる設計において十分な情報に基づいた部品選択を行うための実用的な洞察とツールを提供するよう設計されています。
このシリーズではアプリケーション例として終始一貫誘導負荷付きLSD回路を使用することで、複数のベンダーのものであれ、単一の製品ラインのものであれ、異なるMOSFET間のスイッチング損失の比較を簡素化することを目的としています。
アプリケーションノート:[MOSFETの電力損失計算の手引き - パート1:パワーMOSFETのスイッチング時間間隔を推定するアプローチ]も忘れずにご覧ください。([Application Note Quick Guide for Power Losses Calculation in MOSFETs - Part 1 MCC semi micro commercial components.pdf](Application Note: Quick Guide for Power Losses Calculation in MOSFETs - Part 1))をウェブサイトでご覧いただけます。
5.参考文献
-
Liu, S., Song, S., Xie, N., Chen, H., Wu, X., & Zhao, M. (2021). Miller Plateau Corrected with Displacement Currents and Its Use in Analyzing the Switching Process and Switching Loss. Electronics, 10(16), 2013. https://doi.org/10.3390/electronics10162013
-
How to Reduce Power Consumption in a Circuit. (2020, December 18th). https://resources.pcb.cadence.com/blog/2020-how-to-reduce-power-consumption-in-a-circuit?utm_source=chatgpt.com
-
Elsevier. (n. d.). Power efficient. Science Direct. https://www.sciencedirect.com/topics/computer-science/power-efficient?utm_source=chatgpt.com
-
Baliga, B. J. (2010). Advanced Power MOSFET Concepts. Springer Science & Business Media.