短絡電流定格(SCCR)とは何でしょうか?


APDahlen Applications Engineer

Elmerは優秀なフォークリフトの運転手でした。彼は5年間無事故運転を続けていました。

ただし、今日までです。

製品の納品が遅れ、仕掛品が山積みになっていたため、材料は適切でない場所に保管されていました。Elmerが生産ラインの近くで資材を移動していたとき、彼は誤って10馬力の480V ACインダクションモータにつながる電気配線管を引っかけてしまいました。一瞬のうちに、フォークリフトは運転中のモータのジャンクションボックスから配線管を引き抜きました。これにより、三相すべてに短絡が発生しました。

図1に示すように、モータの制御盤から火花が噴き出しました。これは部品の故障ではありません。短絡電流定格(SCCR:Short Circuit Current Rating)を考慮しなかった設計ミスでした。

注: この記事では回路ブレーカを一般的な意味で使用しています。SCCR計算の技術的な明確化を図るには、「電流制限」や「瞬時トリップ」といった用語を考慮する必要があります。UL 508A規格を参照するか、UL検査官と協議して設計の検討を行うことをお勧めします。

図1: 2025年4月22日付のOpenAI ChatGPT 4oによって生成された制御盤の爆発のイラスト

産業用制御盤はどのように設計されているのでしょうか?

社内技術者のAliceとBobは、10年前に制御盤を設計しました。実はこれが彼らの最初の設計でした。今では、二人は自分たちが何をしていたのか全くわかっていなかったことを認めています。短絡電流定格(SCCR)の安全概念を理解することなく、施設内の他の制御盤をコピーしただけでした。

他の何千人もの技術者や制御盤の設計志望者と同じように、誰にでも初めての仕事はあります。公正を期すならば、彼らの制御盤は10年間完璧に動作していたので、彼らの仕事は上出来だったのです。しかし、彼らはうっかりシステムの奥深くに潜在的な脆弱性を潜ませてしまっていました。Elmerが不注意にもフォークリフトの爪の位置を間違えてSCCRテストをおこなってしまったことにより、致命的な欠陥が露呈しました。

短絡電流定格(SCCR)とは何でしょうか?

短絡電流定格(SCCR)には以下の2つの一般的な定義があります。

  • コンポーネントレベル: SCCRは、単一のデバイスが耐えられる最大故障電流です。これには、ヒューズ、回路ブレーカ、端子台、モータスターター、過負荷リレー、ワイヤ、変圧器、レセプタクル、およびその他の通電コンポーネントなど、電力経路内のすべてのコンポーネントが含まれます。

  • 制御盤レベル: SCCRは制御盤の最大故障電流です。制御盤に含まれるすべてのコンポーネントのうち、最弱リンク(コンポーネント)によって決定されます。

例として、Siemensの3RT20262BB40コンタクタを考えてみましょう(図2に三相可逆モータコントローラとして構成された一対のコンタクタが示されています)。データシートによると、このコンタクタは480V AC 15馬力のモータを駆動できます。21Aの接点は、モータの約14Aの全負荷電流を扱うことができます。冒頭のお話に関して、AliceとBobはコンタ クタを適切に選択していました。

しかし、コンタクタは回路ブレーカやヒューズで適切に保護されなければなりません。コンタクタ単体では、Elmerのフォークリフトが誘発する三相故障に耐える能力に限界があります。適切な上流の保護がなければ、工場の配電の全定格電流に耐えることはできません。

適切に設計された制御盤は爆発することはありません!

図2: 可逆モータコントローラとして構成された一対のSiemensの3RT20262BB40コンタクタの写真

技術的なヒント: SCCRについて考えるとき、最弱リンクという観点で考えるべきです。電力会社の変圧器から工場の配電センター、制御盤、すべての制御盤のコンポーネントを経由し て、最終的に個々の負荷にエネルギーが送られます。また、何らかの不具合が発生する可能性があることも認識しています。

480V ACの電力給電線が100kAの故障電流を供給できるのであれば、制御盤も同じ100kAの故障から自身を保護するように設計されていなければなりません。AliceとBobが間違ったのはここです。彼らは知らずに100kAの電源に接続された20kAの制御盤を設計してしまったのです。制御盤の内部が最弱リンクだったのです。

バーン!

制御盤のSCCRを大きくするにはどうすればよいでしょうか?

概念的には、変圧器、回路ブレーカ、およびヒューズの形で保護を設けるので、これは簡単な作業です。しかし実際には、ニーズを満たすのは難しいことです。

ある電圧で所定のSCCRになるように制御盤を設計しますが、個々のコンポーネントのSCCRは電圧に依存します。別の言い方をすると、SCCRは常に所定の電圧に対して定義されます。高電圧になるほどアークが長く強くなり、消弧がますます困難になる傾向があるため、これは驚くべきことではありません。このアークの消弧ができないために過剰な発熱につながり、AliceとBobが設計した制御盤が破壊されたことを思い出してください。

例えば、コンタクタの上流に、適合するSiemensのS0フレーム3RV20214BA20回路ブレーカを配置したとします。この回路ブレーカは、480V AC 10馬力のモータに適合します。しかし、SCCRには注意が必要です。データシートによると、このシステムは240V ACシステムで100kAの保護を提供しますが、500V ACシステムではわずか5kAです。必要とする100kAの制御盤には小さすぎます。100kA制御盤用の限流5kA未満のヒューズを見つけるのは難しいので、AliceとBobは窮地に追い込まれたようです。

代替案としては、まずRK5型遅延ヒューズを取り付け、対応する回路ブレーカとコンタクタのサイズを大きくするといった方法があります。Siemensの3RV20314SA10モータスタータープロテクタ(MSP)と3RT20351KB40コンタクタの定格は、500V ACシステムで最大12kA です。従来のUL 508Aの方法によると、LittlefuseのFLSR030.Tのような30AのRK5時間遅延ヒューズのピーク溶断電流は11kAであり、制御盤の定格が100kAであることを考えると十分なレベルです。MSPの定格は12kAであり、ヒューズが最弱リンクであることを思い出してください。

MSPとRK5ヒューズの両方が必要かどうかの判断はお任せします。また、必要に応じて適切なサーマルリレーやソリッドステート過負荷リレーおよび電源モニタを選択してください。

技術的なヒント: 代替案として、低電圧で動作するように制御盤を完全に再設計することが望ましい場合があります。通常、480V ACを208V ACの三相システムに変更する場合など、低電圧になるほどコンポーネントの選択肢が増えます。

図3: Siemensの3RV20314SA10 MSP と3RT20351KB40コンタクタの写真

技術的なヒント: このお話では、大電力電子システムに関連する安全基準について説明しています。本資料は慎重に作成されていますが、意図しない誤りや規格の誤った解釈が含まれている可能性があります。正式なガイダンスについては、DigiKeyの利用規約を参照してください。説明および事実の内容を改善するため、ご意見をお寄せいただければ幸いです。

おわりに

この物語は、産業制御SCCRに関連する複雑さを垣間見せてくれます。Elmerのフォークリフト事故は保護の必要性を示しています。一方、AliceとBobは制御盤の設計の反復的な性質を示しています。彼らの最初の決定は誤りであり、何度か設計を繰り返すことで洗練されていきました。

480V AC 10馬力のモータで100kA SCCRという彼らの最終的な解析に同意しますか? ご意見、ご感想を以下の欄にご記入ください。

ご健闘をお祈りします。

APDahlen

追伸:好奇心からですが、この物語のAliceやBobと同じような情熱、イニシアチブを持っている人、同じようなミスをしてしまった人はどれだけいますか?

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著者について

Aaron Dahlen氏、LCDR USCG(退役)は、DigiKeyでアプリケーションエンジニアを務めています。彼は、技術者およびエンジニアとしての27年間の軍役を通じて構築されたユニークなエレクトロニクスおよびオートメーションのベースを持っており、これは12年間教壇に立ったことによってさらに強化されました(経験と知識の融合)。ミネソタ州立大学Mankato校でMSEEの学位を取得したDahlen氏は、ABET認定EEプログラムで教鞭をとり、EETプログラムのプログラムコーディネーターを務め、軍の電子技術者にコンポーネントレベルの修理を教えてきました。彼はミネソタ州北部の自宅に戻り、このような記事のリサーチや執筆を楽しんでいます。




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