インダクタの動作:方向性が問題にならない理由

インダクタは電気的に極性があるのか」という問い合わせが多く寄せられています。簡単にお答えすると「極性はありません。」ですが、インダクタを学ぶ方にとっては、ある種の混乱を招く概念があります。インダクタに定義された電気的極性はありませんが、インダクタのキックバックと呼ばれる現象のために、電流の方向は重要です。キックバックは、電圧をかけた後、電流が切断されたときにコイルの磁界が消失して非常に高い電圧(数千~数万ボルト)が発生する現象です。

インダクタを学ぶ際、多くの解析問題には極性記号が付きものですが、実際、部品に電気的極性があるわけではありません(少し前に部品の極性について書いた記事がありますので、参考にしてみてください:Component Polarityコンポーネントの極性)。解析の際に極性記号を使用するのは、少しでも理解しやすくするためです。なぜキックバックが発生するかを理解することが重要なので、私の知る限りでは、電磁気学はだいたい同じ時期に教わります。私の場合もそうでした。先生方は磁極を説明したり、解析で記号を扱う際に、極性という用語をよく使いますが、前もって十分に説明がなされていなかった場合、さらに誤解を招く可能性があります。この記事では、なぜインダクタが電気的に極性を持たないのか、その理由を説明します。

インダクタの向き

インダクタは、一般的に強磁性体あるいは高透磁率を持つ固体材料に巻かれたコイル状の導線で構成されています。実際には、電磁界は内部の巻線と電流の流れる方向で決まるある法則にしたがって発生します。それがどのようにして起こるのかを詳しく知りたい方は、この記事を読むことをお勧めします:電磁気学の基礎。磁界は、高電圧を発生させるのに必要なエネルギーを蓄えており、インダクタにかかる電圧が下がると磁界が崩れます(これは、多くの回路設計において重要であり、敏感な部品を損傷する可能性があります)。インダクタの内部の巻線は、反転させても常に同じになります。時計回りで上に向かっているコイルは、逆さにしても時計回りで上に向かっていることになります。コイルを上から下にたどっていくと反時計回りになります。繰り返しになりますが、コイルを上下逆にすると、上から下に向かって反時計回りになります。

インダクタの巻線の方向や向きにかかわらず、接続された回路上のインダクタに発生する電圧から生じる電流は常に逆方向に流れるため、磁界の極性はキックバックには関係ありませんこれが、個々のインダクタに電気的な極性がない理由です。問題は、目的とする回路の動作に応じて、正しい方向に電流を流すことです。ここではキックバックの様子をアニメーションでご覧いただけます。

kickback

ここでは、インダクタの解析に用いられる関連式を紹介します:

V_{L}=L\frac{dI}{dt}
I_{L}=\frac{1}{L}\int_{0}^{t}V_{L}d\tau+I_{0}

上の動画のインダクタの定格が10mHで、スイッチをしばらく押した後に離したとします。インダクタに流れる電流(直列に抵抗成分がある場合)が5mAだったとします。スイッチを開くと電流はすぐにゼロになるので、スイッチを開くのに1nsかかる(ゼロにはならない)と仮定して計算すると以下のようになります:

V_{L}=10mH*\frac{-5ma}{1ns}

電流の変化は-5mAで、結果は-50,000Vとなり、幅1mmのエアギャップを飛び越えて火花を発生させるのに十分な電圧となります。このようなインダクタの特殊な挙動は、有用であると同時に他の部品にとって非常に危険でもあります。降圧/昇圧コンバータは、電圧出力を増加させるために、多くの場合、インダクタを使用します(スパイクを制限する他の部品も使用します)。しかし、このような電圧は、トランジスタなどの敏感な半導体デバイスに永久的なダメージを与える可能性があるため、フライバックダイオードが必要となります。

コイルの方向識別マークの注意点

確かにすべてのインダクタが無極性ということではありません。メーカーによってはデータシートにマークや巻線の情報を記載しているところもあります。同じフォームファクタ(ラジアル端子およびアキシャル端子のスルーホール、SMTフットプリント、その他の設計)を使用する場合、メーカーが同じようにインダクタを巻くことは理にかなっていますが、すべてがそうなっているという保証はありません。多くのパッケージでは、「コイルの始点」が部品の表面にドットで示されており、データシートにもコイルの巻き方が示されている場合があります。簡単な例として、その両方がデータシートに記載されている部品があります:LPS3015-104MRC2457-LPS3015-104MRC-ND データシートの2ページ目に、コイルが巻かれている方向と、コイルの始点を示すドットが記載されています。これは「電気的極性」を示唆するものではありませんが、少しでも詳しい情報を提供しようとメーカーが掲載しています。



PaulHutch Trusted Contributor

非常に素晴らしい記事をありがとうございます。アニメーションがいいです。

ずっと前に同じことを考えたことがありましたが、私の記憶が正しければ、コイルの開始/終了マークに注意を払う必要があるのは、発電機やモータ、電磁石などでコイルを直列または並列に接続するときだけだと思います。




オリジナル・ソース(英語)