はじめに
演算増幅器、またはオペアンプは、多くのエレクトロニクス設計の基本的な構成要素の1つです。驚くほど用途が広く、ほとんどあらゆるアプリケーションで使われているのを目にすることができます。小信号を増幅するだけでなく高度なアナログ信号処理まで幅広い範囲の用途に対応します。以下、本稿ではオペアンプの説明に使われる基本パラメータを要約し、主にDigi-Keyのウェブサイトに掲載されている内容に焦点を当てて、説明します。
画像の出典: Wikimedia Commons / CC-BY-SA-3.0 / GFDL
理想モデル
現実のオペアンプの仕様を見る前に、基準を確立するために理想オペアンプについて理解することは大切です。理想モデルは設計における計算を簡単にするために存在しますが、現実には存在しません。理想オペアンプの特性のいくつかを次にしめします。
- 無限大の利得
- 無限大の入力インピーダンス
- 無限大の帯域幅 - オペアンプの利得が周波数に影響されない
- 無限大のスルーレート - オペアンプの出力が必要に応じて早く応答できる
- ゼロ入力バイアス電流 - 入力端子に電流が流れない
- ゼロ入力オフセット電圧 - 入力が同じ信号のとき、オペアンプの出力はゼロ
これらのパラメータを念頭に置いて、以下の現実的なパラメータを見てみましょう。
仕様
多くのICと同様に、オペアンプには留意すべき広い範囲の仕様があります。以下のリストはオペアンプファミリ用のDigi-Keyのフィルタに使われるパラメータを分類したものです。
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アンプタイプ
- たいていのオペアンプは汎用のカテゴリに入りますが、他のカテゴリも多くあり、そちらに分類されるオペアンプもあります。
- オーディオ - このオペアンプではオーディオ用にローノイズと低歪みが最適化されています。このカテゴリのオペアンプはパワー出力段を備えていません。
- バッファ - このオペアンプはアナログバッファとして使うように構成されており、通常は利得が1です。通常、入力が1端子しかなく、一般のオペアンプとして使うことはできません。
- CMOS - 従来のバイポーラプロセスの代わりにCMOSプロセス技術がオペアンプに使われています。CMOSオペアンプは一般に、バイポーラデバイスよりも高い入力インピーダンスを持ち、消費電力が低くなります。
- 電流帰還 - 電圧よりむしろ電流に比例する出力のオペアンプです。この種のオペアンプは一般に早いスルーレートと周波数に依存しない利得を持ちます。
- 電流検知 - 抵抗にかかる小さな電圧降下を測定するために使用されるオペアンプで、出力電圧は抵抗に流れる電流に比例します。
- 差動 - オペアンプは技術面から見るとすべて差動増幅器ですが、しばしば単一信号を増幅するのに使われています。差動増幅器は2信号の差分を増幅するように設計されています。
- 計器- この増幅器は、たいてい3つの別々の増幅器でできています。典型的には、入力はバッファアンプを通り、その後、差動増幅器に入力されます。これらの増幅器は高精度、高インピーダンス、そして高オープンループゲインです。
- 絶縁 - 光アイソレータが内蔵されたオペアンプは、入力と出力が電気的に絶縁されています。
- JFET - JFETプロセスで作られたオペアンプです。バイポーラプロセスよりも高い入力インピーダンスを持ち低い入力バイアス電流になります。
- リミッタ- 内部で出力電圧をクランプすることができる増幅器です。
- 対数 - 基準値に対する入力の対数に比例した出力の増幅器です。
- パワー - 一般的なオペアンプよりも大きい電流を供給できる出力段を備えたオペアンプです。
- プログラマブルゲイン - デジタル的にプログラム可能な可変ゲインのオペアンプ。これは選択ピンまたはSPIのようなシリアルインターフェースにより設定することができます。
- サンプルアンドホールド - 通常はADコンバータと共に使われ、この増幅器はAD変換が完了するまでの十分な間、出力電圧を保持します。
- トランスコンダクタンス - 電圧を入力して電流出力を生成する増幅器です。
- トランスインピーダンス- 電流を入力して電圧出力を生成する増幅器です。
- 可変ゲイン- プログラマブルゲインと同様ですが、ゲインはデジタル的に制御されるかアナログ電圧で制御されます。
- 電圧フィードバック - 電流フィードバックアンプと規定されていなければ、あらゆるオペアンプはすべて電圧フィードバックです。このことはどのような汎用オペアンプの検索にも含まれます。
- ゼロドリフト - このオペアンプは温度に対して低オフセット電圧・低オフセットドリフトです。
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回路の数
- 1つのパッケージに含まれるオペアンプの個数は単純です。普通1個、2個、4個のいずれかです。
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出力タイプ
オペアンプは普通、データシートにVOLとVOHで指定される範囲をスイングできる単一出力を持ちます。この出力範囲は特に、VSSからVDDの範囲よりも狭いのが普通で、±12Vが供給されるオペアンプでは出力の振幅は±10Vしかありません。
- -(特定せず) - 特別な出力タイプでないオペアンプはDigi-Keyのフィルタではダッシュをつけた値で示されます。これは多くのオペアンプをカバーしていますので、これに該当するオペアンプは、どんな検索をしてもほとんどがその検索結果に含まれます。
- 差動 -オペアンプは正負両方の出力を持ちます。
- レールツーレール - このオペアンプの出力電圧振幅は、従来のオペアンプよりも電源レールに近づくことができます。一般的にミリボルトの範囲内で近づきます。
- オープンドレイン - このオペアンプの出力ピンはトランジスタのドレインにつながっています。従って、オペアンプは電流を吸い込むのみです。
- プッシュプル- このオペアンプの出力段はプッシュプル構成のペアトランジスタを使用しており、一方のトランジスタは電流をはき出し、もう一方のトランジスタは電流を吸い込みます。
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スルーレート
- スルーレートはオペアンプの出力がどれだけ早く応答できるかを測定したものです。値は単位時間における電圧の変化で定義され、一般的にはV/μSで表されます。
- スルーレートが不適当であれば、下図に示すような出力波形で歪みを発生させます。この歪みを避けるため、動作周波数は次の不等式を満たさなければなりません。
画像の出典: Yves-Laurent Allaert / Wikimedia Commons / CC-BY-SA-3.0 / GFDL
- 赤色の方形波は期待される出力ですが、緑色の波形が実際の歪んだ出力です。
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ゲイン帯域幅積
- ゲイン帯域幅積(GBP、GB積)はオペアンプの周波数応答を示します。動作周波数がカットオフ周波数を超えて増加するにつれ、オペアンプのオープンループゲインは一定の割合で直線的に減衰します。ゲインが1に達する周波数がGBPです。
画像の出典:Wikimedia Commons
- 図に示すように、フィードバックをかけた全体のゲインが減少するにつれてアンプ全体の帯域幅が拡大します。
- 例:GBPが1MHzのオペアンプは、帯域幅が1MHzのときゲインが1、または10kHzのときゲインが100です。
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-3dB帯域幅
- -3dBポイントはオペアンプの帯域幅を示す別の方法です。それはゲインがロールオフを始めるオペアンプの周波数応答のポイントに対応します。
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入力バイアス電流
- 実際のオペアンプは有限の入力インピーダンスであるため、入力端子でわずかな電流が引き込まれ、入力バイアス電流と呼ばれます。
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入力オフセット電圧
- 入力オフセット電圧は出力をゼロにするのに必要な入力端子間の電圧です。より小さい値がより精度の良いオペアンプになります。
- 例:理想オペアンプでV+ = 5V、V- = 5Vのとき出力はVout = Av(V+ - V-) = 0Vになります。ここで Avはアンプのゲインです。しかしながら、オペアンプのオフセット電圧が10mVの場合、出力がゼロになる条件はV+ = 5.01V、V- = 5Vとなります。
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電源電流
- 電源電流は負荷に何も接続されないときオペアンプに流れる電流です。また静止電流としても知られています。
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出力電流
- オペアンプの出力端子から流すことのできる最大電流です。
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電源電圧(シングル/デュアル)
- オペアンプが機能するのに必要な電圧の範囲
- 単一電源のオペアンプはグランドと正電源レールのみ必要
- 2電源のオペアンプは正負の電源、例えば±15Vが必要
- 最近の多くのオペアンプは単一電源でも2電源でも使用可
ここではもちろん、オペアンプの仕様をすべてリストに挙げているわけではありません。他の仕様、例えば全高調波歪み、同相信号除去比(CMRR)、さらに特定のアプリケーションで重要な多くの仕様があります。残念ながらDigi-Keyではウェブサイトでこれらのフィルタリングが利用できるわけではありません。しかしながら、メーカーではこれらの仕様を含むパラメータによる検索ができます。
詳細について知りたい方は、TIのexcellent white paperをご覧ください。そこではオペアンプの仕様を徹底的に分析しています。
一般的な回路
オペアンプは通常、安定性を維持するため負帰還をかけた閉ループ構成で使用されます。この場合、オペアンプの出力は2つの入力端子の電位が等しくなるように制御されます。以下の例はすべて負帰還を使用しています。
画像の出典:Wikimedia Commons
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正帰還の場合、オペアンプの出力は電源レールまでスイングするか、あるいはそれにきわめて近い動作になります。これは2値の出力を必要とするときには役に立ちます。しかしながら、このような使い方の場合は通常、オペアンプよりも専用のコンパレータが好まれます。
もちろん、オペアンプの回路はもっとたくさんあります。上記のリストは最も一般的なトポロジの一部をカバーしているにすぎません。さらに多くの例を知りたい方には、別のオペアンプ回路に関するTIのgreat application note があります。
結論
オペアンプはアナログシステムの一般的なコンポーネントで、幅広い用途があります。単に信号を増幅するだけでなく、基準電圧を生成したりフィルタを実現するなど、アプリケーションはさまざまです。この記事ではオペアンプの仕様の基礎と、最も一般的なオペアンプの回路について述べました。