著者 Bill Giovino
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2019-01-22
組み込みシステムの設計者、特にモノのインターネット(IoT)アプリケーションの設計者にとって、対象エリア内の人の存在を検出するタスクがますます増大しています。アプリケーションは、セキュリティ、照明、一般的なビルオートメーションなどさまざまですが、コスト効率と信頼性の高い検出という課題は共通しています。
この記事では、信頼性の高い人体検知の重要性と、カメラや単純な温度センサなどの一般的な人体検知センサは最適な検知方法ではないという理由について説明します。その後、スマート温度センサを紹介し、それらをマイクロコントローラと組み合わせて使用することで、信頼性の高い人体検知の問題にコスト効率よく簡単に対処する方法について説明します。
センサの故障は高くつく
存在検知システムにおける検出の失敗または誤った結果の影響は、単に不便なだけというものから高価につくものまで多岐にわたります。たとえば、照明の場合、検出できないということは、分かりやすく言うと誰かが手動で照明をオンにする必要があることを意味します。しかし誤検知により高額な光熱費が発生する可能性があり、また、同じことがビルオートメーションにも当てはまります。現在では空調制御システム(HVAC)においても、人の存在検出はIoTを使用してリモートで最適化できるようになってきています。セキュリティ上、誤検知でも誤警報につながり、地元の警察が出動となると費用がかかる可能性があります。また、正しく検出できないと、物的損失や人身傷害が発生する可能性があります。
そのそれぞれの状況において、1人または複数の人を高い信頼性で検知する必要があります。カメラはインテリジェントなソフトウェアと併用すると効果的ですが、ライブまたは動画を保存する必要がない場合は不要かも知れませんし、そのソフトウェアの信頼性に完全に依存してしまうことになります。また、動画では容易に人体を人間であると認識でき、カメラからよく見える位置にいて、箱や部屋の壁によって不明瞭になっていないことが前提となります。
単純な温度センサは人体の熱の存在を検知できますが、動きを検知したり人数を識別したりする機能がありません。
スマートなシンプルさによる信頼性
信頼性とコストの適切なバランスを実現するソリューションは、Omron Electronics Componentsのスマート温度センサのD6Tシリーズです。センサの温度検出範囲内で人の存在を検知するように特別に設計された各D6Tは、シリコンレンズの背後に1、8または16個のサーモパイルセンサチップを備え、出力を処理するカスタムASICを備えています(図1)。
図1:OmronのD6Tシリーズの温度センサは切手よりも小さく、赤外線を
摂氏 (°C)温度のマトリックスに自動的に変換します。
(画像出典:Omron)
レンズはデバイスの検知範囲内の赤外線を収集し、サーモパイルセンサに焦点を合わせます。赤外線の強度は、その範囲内の物体の表面温度に対応します。サーモパイルは赤外線放射の強度を抵抗として測定し、ボード上のカスタムASICに供給されます。ASICは抵抗を温度(°C)に変換し、I2Cシリアルインターフェースを介してマイクロコントローラに送信します。 検知可能な温度範囲は-40°C~+85°Cです。
簡易検知
D6T製品ラインで最もシンプルなセンサはD6T-1A-01です。 レンズの後ろに単一のサーモパイルセンサがあり、単一の温度を出力します。 シリコンレンズの視野角(FOV)はX方向とY方向の両方向において58.0°です。視野角は、その範囲内の人を識別するために重要です。 D6T-1A-01の場合、人が 58.0°のX方向および Y方向の視野角を完全に満たした場合、単一のサーモパイルセンサの読み取り値は人の放射表面温度になります。 ただし、人が視野角を完全に満たしていない場合、単一のサーモパイルセンサの温度測定値は、人の赤外線放射と背景放射の組み合わせになります (図 2)。
図2:単一のD6Tサーモパイルセンサの視野角内では、人が近ければ近いほど、
視野角の多くを人が占めるため、温度検知の精度が高くなります。
(画像出典:Omron)
より焦点を絞った検知領域を実現するためには、OmronのD6T-1A-02があります。このセンサにも単一のサーモパイルセンサが搭載されていますが、シリコンレンズの視野角 は26.5°と狭くなっています。
室内での高度な検知
より高度な存在検知要件に対応するためにはD6T-44L-06微小電気機械システム(MEMS)温度センサがあります。この温度センサには、4x4マトリックスに16個のサーモパイルセンサが搭載されています。これにより、D6Tは人の存在を検知するだけでなく、複数の人の位置と動きも検知できるようになります(図3)。このセンサの視野角はX方向44.2°、Y方向45.7°で、車載アプリケーション向けにAEC-Q100認定を受けていることは注目に値します。
図3:OmronのD6T-44L-06温度センサは、4x4温度センサマトリックスにより室内の
複数の人を検知できます。この例では、温度分布検知結果は、表面温度を色で表し、
最も温度の高いものは赤、以下オレンジ、黄、深緑、緑、シアン、と続き、最も温度
の低いものは青で検出されます。(画像出典:Omron)
D6T-44L-06が部屋の中にいる2人の人を検出する典型的な例として、図3の1枚目の写真は部屋に誰もいない状態を示しており、涼しげな青緑色で表現されています。2枚目の写真では、部屋の中に2人の人が並んでいます。よく見ると、個々のセンサが検知した表面温度は、下段におおまかに表され、センサの面積をどれだけ人の体が占めているかに比例しています。人の放射熱により床が温まり、黄色で表示されています。
3番目の写真は、その人達が立ち上がって右に歩いて部屋から出た後の温度を示しています。以前に彼らがその位置に居たことと、フレームの左から右への移動の結果として、表面温度がまだいくらか残っていることに注意してください。
3つの状況すべてにおいて、特に2人が部屋から移動するような最後の写真では、現在および過去の表面温度の測定値に基づいて位置、場所、動きを区別するのはファームウェア開発者の仕事です。最初の写真のように最初は部屋に誰もいなくて、3番目の写真がもし右側から1人部屋に入って来た場合だったら、3番目の写真の温度分布検知結果は大きく異なるでしょう。
検知範囲を狭める
より狭い検知範囲用には、 D6T-8L-09があります。このセンサは1 x 8のMEMS温度センサマトリクスを採用しています(図4)。このセンサのX方向の視野角は54.5°と広く、Y方向の視野角は5.5°と狭くなっています。
図4:OmronのD6T-8L-09は、スキャンアプリケーションに適した5.5 °の狭い
Y方向の視野角を持つ1 x 8温度センサマトリックスを使用しています。
(画像出典:Omron)
D6T-8L-09を使用すると、廊下を移動する人をスキャンするシステムを開発できます。これは、廊下の端にあるドアの入り口の直前に配置する場合に特に有効です。水平方向であればどの方向でも動きを検知できます。このデバイスは、はしごでの垂直方向の動きを検知するために使用したり、角度を付けて階段での動きを検知したりすることもできます。
D6Tシリーズを使用する設計者にとって、図4の中央の図に示すように、すべてのD6Tデバイスが同じコネクタインターフェースを共有していることはとても安心です。また、互換性のあるマイクロコントローラと通信するためにI2Cインターフェースも使用されます。開発を容易にするために、OmronはD6T MEMSセンサに安全に接続するD6T-HARNESS-02ケーブルを提供しています。
センサを最大限に活用するには、シリコンレンズを覆うカバーによって赤外線放射に対するセンサの感度が低下しないことが重要です。カバーが必要な場合その材質は輻射熱を透過できるものでなければなりません。 高密度ポリエチレン(HDPE)などの材料ではこれが可能ですが、材料は可能な限り薄い必要があります。
マイクロコントローラシステムでのD6Tの使用
自己完結型の組み込みアプリケーションの場合、特にアプリケーションがセキュリティ目的の場合、D6Tシステムはそのタスク専用のマイクロコントローラに接続する必要があります。STMicroelectronicsのSTM32L073VZマイクロコントローラは、D6Tアプリケーションの数値処理を実行するのに十分な性能を備えています(図5)。これは、メモリ保護ユニット(MPU)を備えたArm® Cortex®-M0+コアに基づいています。このコアは32kHz~32MHzの間のクロックで動作し、192Kバイトのフラッシュ、20KバイトのSRAM、および6KバイトのEEPROMによってサポートされます。 マイクロコントローラは1.65~3.6 Vの電圧レールで動作し、0.29µAを消費します。 専用のDMAチャンネルを備えたI2Cインターフェース、USB 2.0、LCDドライバなど、複数のシリアルインターフェースを備えています。
図5:Arm Cortex-M0ベースのSTM32L073VZマイクロコントローラは、
自己完結型の組み込みプレゼンスセンシング(存在検知)システムを
開発する際に、D6Tスマート温度センサによく適合します。
(画像出典:STMicroelectronics)
STM32L073VZの多くの機能は、プレゼンスセンシングアプリケーションにおいてD6Tを補完します。例えば、6Kバイトの内蔵EEPROMを使用して、D6Tシステムの場所に応じて変化する可能性のあるカスタムルーム識別情報を保存できます。USB 2.0インターフェースは、ログに記録された検知イベントのタイムスタンプや識別された人数など、過去の侵入に関する情報をPCにダウンロードするために使用できます。この情報は20KバイトのRAMまたはEEPROMに保存でき、192Kバイトのフラッシュメモリは識別アルゴリズムを保存するのに十分です。
LCDドライバ周辺機器は、検知イベントのカウント数を表示できる外部LCDディスプレイに接続できます。マイクロコントローラの24チャネル静電容量センシング周辺機器は、静電容量キーパッド上の指の存在を検知して、システムを設定したり、セキュリティ システムの静電容量タッチセンサに接続したりできます。 2つの12ビットDAコンバータ(DAC)が利用可能で、スピーカに接続して合成音声または可聴アラームを提供できます。プロセッサの12ビットADコンバータ(ADC)は、温度センサに接続して、D6Tの感度に影響を与える可能性のある周囲温度を検知できます。照明自動化アプリケーションの場合、ADCは光センサに接続して、照明が正常に点灯したかどうかを検知できます。
セキュリティアプリケーションを構築する場合、STM32L073VZ上のコードメモリはマイクロコントローラの内部ファイアウォールで保護できます。ファイアウォールは、デバッガが接続されている場合でも、外部インターフェースによる内部メモリが読み取られないように保護します。
STM32L073VZを使用してD6T内の値を読み取るには、I2Cインターフェース経由でレジスタを読み取る必要があります。D6T-1Aデバイスには単一の温度センサを読み取るための 1つのレジスタ(P0)があり、D6T-8Lデバイスには8つのレジスタ(P0~P7)があり、またD6T-44Lには16 のレジスタ(P0~P15)があります。
D6Tからのデータ読み込み
I2Cインターフェースを使用してD6Tから温度データを読み取ることは、比較的簡単なタスクです。マイクロコントローラがD6Tからデータを読み取るたびに、出力フォーマットは同じで変わることはありません。最初に内部基準温度の値が送信され、次にすべての温度センサの値が送信され、最後にCRC-8パケットのチェックサムが送信されます。D6Tセンサには何も設定したり書き込んだりする必要はありません。D6T ASICは、250msごとに新しいセンサの読み取り値を取得するように配線されており、I2Cバス経由で1秒あたり4回センサの読み取り値を取得できます。I2Cインターフェースは最大100kHzの速度をサポートします。
温度は16ビットの符号付きデータとして読み取られ、その値は温度(°C)の10倍を表すため、温度の読み取り値が0x01D7の場合、それは471、つまり47.1°Cに変換されます。レジスタに0xFF06が表示されている場合、それは-250、つまり-25.0°Cに変換されます。
Omronでは、D6Tセンサファミリから温度値を読み出すためのI2Cライブラリ関数を提供しています。D6T-1A-01、D6T-1A-02、およびD6T-8L-09はI2Cのクロックストレッチをサポートしていないため、I2Cマスタクロックが追いつかない場合にスローダウンすることができないことに注意してください。これが必要な場合は、マイコンのファームウェアで対応する必要があります。
実践的な検知テクニック
エリア内の人を検知する場合、開発者はまずそのエリアに人がいない状態でサンプルの測定値を取得して周囲環境の表面温度を決定し、次にそのエリアに存在する人の測定値を取得する必要があります。STM32L073VZのADCを温度センサに接続すると、周囲温度を検知アルゴリズムに組み込むことができます。
部屋の状況はそれぞれ異なるため、存在検知の一般的なガイドラインを示すことは困難です。ただし、検出方法の1つは、1つまたは複数のサーモパイルセンサの温度の急激な上昇を探すことです。図3の例に見られるように、人がそのエリアを離れると、より高い残留表面温度が床や家具に残る可能性があります。2人以上の人の検知は1人の検知に比べて複雑ですが、基本的な検知手法が温度上昇の選別であればそれほど難しくはありません。
開発中にシステムを校正する場合、検知する温度上昇をファームウェアの変数とし、最終的にSTM32L073VZのEEPROMに格納することで、システムの感度を微調整することができます。校正は、さまざまな室温、空調や温度のさまざまな設定、およびTシャツや冬用ジャケットを着用した状態で行う必要があります。
まとめ
存在検知は組み込みシステムやIoTシステムにとってますます重要な機能となっており、コスト、シンプルさ、有効性の適切なバランスを保ちながら効果的に実行する必要があります。オムロンのD6Tシリーズのスマート表面温度センサはこのバランスに対処し、設計者がエリア内の複数の人の存在を検知するシステムのプロトタイプを迅速に作製して開発できるようにします。柔軟な周辺機器セットを備えたSTM32L073Vマイクロコントローラと組み合わせることで、シンプルで信頼性が高く、容易にカスタマイズできる検知システムを開発できます。
著者について
Bill Giovino
Bill Giovino氏は、Syracuse大学で電気工学の理学士の学位を取得したエレクトロニクスエンジニアであり、設計エンジニアからフィールドアプリケーションエンジニア、そしてテクノロジマーケティングへと転身を遂げた数少ない人物の 1 人です。
同氏は25年以上にわたり、STMicroelectronics、Intel、Maxim Integrated などの多くの企業の技術者や、技術者でない聴衆の前で新しいテクノロジを語り、推進することに喜びを感じてきました。STMicroelectronics在職中には先頭に立ち、マイクロコントローラ業界における同社の初期の成功の一端を担いました。Infineonでは、米国自動車分野で同社初のマイクロコントローラ「デザインウィン」へと導き、また、自身の会社CPU Technologiesのマーケティングコンサルタントとしては、業績不振の製品を抱える多くの企業を成功へと導いてきました。
同氏は、最初に完全なTCP/IPスタックをマイクロコントローラに搭載するなど、IoTの早期採用者でした。同氏は、「教育を通じた販売」というメッセージと、オンラインで製品を宣伝する際に必要な、明確でわかりやすく書かれたコミュニケーションを重視しています。 同氏は人気のある LinkedIn Semiconductor Sales & Marketing Group のモデレーターであり、B2Eについては豊富な知識を持っています。
出版者について
DigiKeyの北米担当編集者