シンプルなDINレールで産業システムのモジュール性、柔軟性、利便性を解決

著者 Bill Schweber
DigiKeyの北米担当編集者の提供
2019-09-19

エンジニアは、大型で複数の測定器を使用する試験設備に、標準的な19インチラック筐体をしばしば使用しますが、この構成は多くの場合、産業や研究所の状況には適していません。その代わりに、サイズ、フォームファクタ、および相互接続が非常に異なるユニットを扱うことができる構成が必要です。片側(前面)から完全かつ簡単にアクセスでき、高温で埃の多い環境に対し十分な冷却とフィルタリングを可能にし、整然と整理されたラベル付きのケーブル配置をサポートし、必要に応じて物理的な保護とユーザーの安全を提供できることが必要です。

これらの要件を満たし、産業設備の多様なニーズにより適した代替案が、DINレール取り付けシステムの規格です。これは、アプリケーションで必要とされるさまざまな配列、フォームファクタ、およびサイズの電子ユニットを取り付け、アクセスし、保護するために、たいへん広く使われている配置です。基本的な電源から高度なセンサインターフェースや、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)まで幅広いモジュールをサポートしており、数百のベンダーから数千ものDIN互換製品が使用可能です。産業用やその他の設備において、設置、接続、アクセスが柔軟で簡単なように設計されています。

この記事では、この世界的なメートル法ベースの取り付けシステムを取り上げ、サンプルソリューションを用いて、設計者がその特性と汎用性をどのように活用できるかを紹介します。

DINレールの基礎

実際、「DINレール」とは何でしょうか?これは、電源だけでなく、他の多くの機能に使用できる電子モジュール用の取り付けレールです。いくつか挙げると、回路ブレーカ、プログラマブルロジックコントローラ、比例積分微分(PID)制御機、ループ送信機および受信機、モータドライブ、リレー、計量ユニットなどで、すべてDINレールへの取り付け機能を備えています(図1)。

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図1:DINレールは、電源、トランスデューサI/O、通信インターフェースなど、
少ない点数から多い点数まで、多様なモジュールサイズおよび機能に対応して
おり、整然と整理されたラベル付きのケーブル配置と着脱に適しています。
(画像提供:VPEL)

「DIN」という略語は、ドイツのDIN(Deutsches Institut für Normung:ドイツ規格協会)が発行した仕様に由来しており、その後、ヨーロッパ規格(EN)や国際規格(IEC)として採用されています。DINレール標準規格は1950年代後半に始まり、北米電機工業会(NEMA)でも同じ標準規格が採用されました。

DINレールは、冷間圧延炭素鋼板、アルミニウム、またはポリカーボネートで作られ、必要に応じて耐食性向上のためにさまざまなメッキや仕上げが施されます。また、材質によって短絡電流や故障電流の定格が異なるため、設定によっては考慮が必要です。

DINレールは、オープン規格の取り付け方法として広く使用されています。数百のベンダーが数千のDINレール製品を提供しているため、ユーザーは単一のベンダーやグループに縛られたりすることはありません。

標準的なDINレール構成は3種類あり、最も広く使用されているのは、幅35mmのIEC/EN 60715バージョンで、一般に「トップハット(断面形状が帽子)」レールプロファイルと呼ばれます(図2)。米国では TS35 レールとも呼ばれますが、DINの名称の方がよく使用されます。「トップハット」バージョンの前身は非対称Gプロファイルで、一般に、より重く高出力のコンポーネントを保持するために使用されます。 また、Cプロファイルもあります。

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図2:EN 60715 7.5mm DINレールの基本プロファイルを
左側に示します。「トップハット」レールの詳細な
寸法と標準のパネル取り付け穴を右側に示します。
(画像提供: Wikipedia(左)、elektrotools.de(右))

当初はDIN EN 50022として制定され、その後、IEC/EN 60715として標準化されたこの規格では、深さ7.5mmと15mmの両バージョンが規定されています。レールがサポートするモジュールは、用途に応じてユーザーが好きな配置や構成で並べて取り付けられます。ユーザーは制約を受けることなく、電源を左、右、または中央に配置して負荷に電力を供給することができ、状況に応じて最適な方法を選択できます。

DINレールは、1mや2mなど標準の長さが用意されており、また、カスタムカットにより任意の長さにすることもできるため、独自のプロジェクトに便利です。この規格はまた、パネルへの取り付けを容易にするための一定間隔の取付孔(パーフォレーションと呼ばれます)についても定義していますが、必須ではありません。例えば、Altech Corporationは、深さ15mmのCA601/S「トップハット」レールを提供しています(図3)。レールは亜鉛メッキ鋼、ステンレス鋼、アルミニウム製で、長さは1mと2mのほか、特注の長さも使用可能です。

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図3: Altech CorporationのCA601/S DINレールは、さまざまな
長さと材質のオプションが用意されています。
(画像提供:Altech Corporation)

レールとそのモジュールは通常、物理的な堅牢性と安全性を確保するため、ラックや機器キャビネットに取り付けられます。しかし、視認性や物理的アクセスなど、特定のアプリケーションで合理的な場合には、壁やその他の水平面に取り付けることもできます。ベンダーは、DINレールの使用を容易にするさまざまな相互接続端子ブロック、ブラケット、クリップ、その他アイテムも提供しています。また、パーフォレーションが必要でない場合は、パーフォレーションなしのオプションも可能です。

DINレールは単なる取り付けレールであり、相互接続バスではないことに注意してください。ただし、レールはシャーシのグランド接続を提供する場合があります。レールを介して取り付けられたさまざまなユニットは、個別のケーブルで相互接続されます。これは、標準的な「プラグインカード」を装着するバックプレーンバスに比べて利便性が低く、手間がかかるように思えるかもしれませんが、実際には多くの産業用アプリケーションでメリットがあります。

これは、さまざまなモジュールに供給できる電圧、電流、タイプ(ACまたはDC)、または総電力量を制限したり定義したりするバスがないためです。さらに言えば、組み込みシステムでよく知られた利点をもつバスは、信号速度とタイプの2つの「極端」な例を挙げると、Ethernetデータパスと一緒に何十ものアナログの4~20mAループを持つことがあるように、必要とされる高度で多様なデータチャンネルのタイプと数を規制します。

DINレールは、幅広い電圧/電流定格と、それに対応するサイズや定格電力が異なる電源装置にとって特に有益です。サプライベンダー、設計者、ユーザーなど、すべての関係者に柔軟性と可能性を提供します。一部の電源やその他のモジュール(PLCなど)はDINレール専用に設計されていますが、多くはシンプルで低コストの取り付けキットを追加することで、レール式と非レール式の両方のアプリケーションに対応できます。

これは、同じユニットを複数の最終製品のフォームファクタで提供できるため、サプライベンダーやモジュールベンダーにとって利点となります。そうすることで、製造し、在庫しておく必要がある個別のユニットの数が減り、修理と交換のサプライチェーンが簡素化され、修理とアップグレードの時間が短縮されます。

DINレールは、保持するモジュールのI/Oケーブル配線を定義するものではありません。しかし、PLC、センサ/アクチュエータインターフェースやループ、その他の相互接続モジュールなどのDINレールデバイスでは、一般に入力が上部に、出力が下部に配置されています。繰り返しますが、DINレールは単なる取り付けレールなので、一般的な配置が実用的でなかったり、あるいは望ましくない特殊な状況にも対応できます。

利用可能なモジュール:幅広い品揃え

すべてのプロジェクトには電源があり、ACおよびDCの入力に対し、低、中、高にわたるさまざまな電力レベルのACおよびDC電圧の出力をカバーするDINレール電源を利用することができます。たとえば、Delta ElectronicsDRC-5V10W1AZは、基本的な単一出力の完全密閉型AC/DCコンバータで、91 x 56 x 18mmのパッケージから5Vで最大1.5A、合計7.5Wを供給します(図4)。

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図4:Delta ElectronicsのDRC-5V10W1AZは、二重
絶縁型低電力AC/DC DINレールパワーコンバータで、
91 x 56 x 18mmのパッケージから7.5Wを供給します。
(画像提供:Delta Electronics)

このユニバーサル入力電源は、90~264V ACの電圧範囲で動作し、クラスIIの二重絶縁を採用しているため、アース接続は不要です。このユニットは、入力電圧範囲全体にわたってディレーティングなしで最大 55°C までフルパワーを供給します。115V ACの入力で効率は78%以上、過電圧、過電流、過熱保護を含む保護機能も充実しています。

PLCは産業用およびプロセス制御で広く使用されているため、さまざまな種類でDIN取り付け可能なユニットが市販されています。OMRON Automation and SafetyZEN-10C1DR-D-V2シリーズは、興味深いアプローチの1つです。基本的な少数のPLCで、コアプロセッサとユーザーインターフェースを維持しながら、モジュール式の追加でチャンネル数を増やすことができます(図5)。

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図5:PLCはDINレールシステムで一般的なモジュールです。OmronのZEN-10C1DR-D-V2
シリーズユニットは、プロセッサ、トランスデューサI/O、およびLCDユーザーインター
フェースを備えたベースユニットとしてスタートします。コアユニットと並べて取り
付け、拡張するモジュールを介して、I/Oポイントを10ポイント単位で拡張できます。
(画像提供:OMRON Automation and Safety)

基本ユニットは70 × 90mmのコンパクトなボディに収められており、Omronはグラフィック表示のLCD画面と8つの操作ボタンを組み込むことで、プログラミングを容易にしました。この24Vユニットは、6入力6出力に加え、リレー、タイマ、カウンタ、タイムスイッチ機能を備えています。幅35mmの拡張モジュールが使用可能で、基本ユニットに取り付けてI/O数を10点単位で44点まで増やすことができます。その他の拡張モジュールは、RS-485など追加の通信インターフェースをサポートしています。

電力と消費の問題

DINレールを使用する場合、特にキャビネットやその他の筐体で使用する場合は、熱の問題を評価する必要があります。DINレール規格は、最大電力レベルや(もしあれば)複数の電源の物理的配置を定義していないため、全ての熱負荷と熱源の分布の両方を注視することが重要です。

前者は、発生する最大熱量(ワット)がその値を超えることができないため、電源の定格を見るだけで簡単に確認できます。次に、周囲温度を解析に織り込みます。しかし、DINレール上にさまざまなモジュールが無制限に配置されているため、放熱量の大きいモジュール(通常は電源ですが、必ずしもそうとは限りません)が熱に敏感なモジュールに隣接している可能性があるため、熱フロアプラン(発熱を考慮したモジュールの配置)もチェックする必要があります。

工学処理は主にトレードオフと標準に関するものであり、すべてのアプリケーションに「完璧」なソリューションやフォーマットはありません。DINレールのアプローチはその柔軟性にもかかわらず、電源などのより大型で重いユニットの使用に対する「普遍的な」解決策ではありません。実際には、DINレールは、十分な強制空冷またはアクティブ冷却(小型冷却ファンなど)が利用できない限り、密閉されたラック幅の筐体内で最大約1000Wの放熱に適しています。より大型の電源を使用する場合、その重量とサイズの関係で「オフレール」に取り付けられることがありますが、比較的高い電力定格に対応するレール互換の電源も数多くあります。

また、電源や他のモジュールに、電圧や電流などのパラメータ、電源が正常か過負荷か、などの各種ステータスや異常状態を示すインジケータ、あるいはI/Oステータスやアラームなどのユーザーによる複数の読み取りが必要な場合、DINレールやその電源は適切な選択ではないかもしれません。これは、DINモジュールは幅よりも奥行きを多く使用して狭くなる傾向があるため、ユーザー読み取り用フロントパネルのスペースが制限されるためです。

より多くのインジケータや表示器を備えたモジュールも使用可能ですが、一般には幅が広く、レールの占有面積が大きくなります。幸いなことに、DINレールの柔軟性とバス非依存性(自由なレール設置)により、2本(またはそれ以上)のレールを使用し、一方を他方の下に取り付け、必要に応じてケーブルで接続するだけで、この問題を簡単に解決することができます。

まとめ

DINレール取り付けシステム規格は、産業用システムおよび産業用システムモジュールの設計者、ベンダー、購入者に柔軟性と使いやすさを提供します。基本的な電源から高度なセンサインターフェース、PLCまで幅広いモジュールをサポートしており、数百のベンダーから数千ものDIN互換製品が入手可能です。.

参考資料

  1. Hackaday:「The DIN Rail and How it Got That Way
  2. International Electrotechnical Commission:「IEC 60715:2017: Dimensions of low-voltage switchgear and controlgear - Standardized mounting on rails for mechanical support of switchgear, controlgear and accessories
  3. ATMCO LLC:「 Model LB-100 DIN Rail Cutter



著者について



Bill Schweber

Bill Schweber氏はエレクトロニクスエンジニアで、電子通信システムに関する3冊の教科書のほか、何百もの技術記事、オピニオンコラム、製品機能を執筆しています。これまでに、EE Timesの複数のトピック特集サイトの技術ウェブサイトマネージャーや、EDNのエグゼクティブエディターとアナログエディターの両方を務めました。

Analog Devices, Inc.(アナログおよびミックスドシグナルICの大手ベンダー)においては、マーケティングコミュニケーション(広報)を担当し、その結果、技術的なPR機能の両面に携わり、会社の製品、ストーリー、メッセージをメディアに紹介し、またその受け手としても活躍してきました。

Analog Devicesでマーケティングコミュニケーションの業務に就く前は、同社の著名な技術ジャーナルの副編集長を務め、製品マーケティンググループやアプリケーションエンジニアリンググループにも在籍しました。これらの役職に就く前は、同氏はInstron Corp.に勤務し、材料試験機制御のためのアナログおよび電源回路の設計とシステム統合を実践的に行っていました。

同氏は、BSEE(コロンビア大学の電気工学学士号)およびMSEE(マサチューセッツ工科大学の電気工学修士号)の学位を取得し、プロフェッショナルエンジニアとして登録されており、アドバンスト級のアマチュア無線免許を持っています。同氏はまた、MOSFETの基礎、ADCの選択、LEDの駆動など、さまざまなエンジニアリング トピックに関するオンラインコースを企画、制作、提供しています。

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