費用対効果の高いGNSSモジュールを使用して、 追跡アプリケーションの迅速なデータ取得と高精度を実現

DigiKeyの北米担当編集者の提供
2018-12-19

追跡に全地球航法衛星システム(GNSS)を使用するアプリケーションは現在、米国のGPS、ロシアのGLONASS、欧州のGalileo、中国のBeiDouなど、いくつかの全地球測位衛星コンステレーションを使用できます。複数のシステムを使用することで、カバレッジの向上、データ取得の高速化、および位置精度の向上が保証されますが、装置コストがかさみ、開発時間が長くなります。

資産追跡などのGPSアプリケーションの成長に伴い、チップベンダーは、こうしたコストと開発期間の問題に取り組むようになり、低コストのモジュール型GNSSソリューションの開発につながりました。これらの第1世代モジュールにより、経験の浅い設計者でも、GPSの追加をコスト効率よく、簡単に始められるようになりました。しかし、機能面での妥協は避けられませんでした。実装が複雑すぎることに変わりはなく、評価キットはほとんどありませんでした。

現在、新世代のGNSSモジュールが登場し、以前のモジュールの弱点を最小限のコスト負担で解決しています。これらのデバイスは、データ取得速度と精度が向上しており、設計の複雑さを軽減し、ソリューションのサイズを縮小するために、より高いレベルの統合が行われています。また、開発者がプロトタイプを構築し、テストし、設定するのをより簡単にする評価プラットフォームも用意されています。

この記事では、この第2世代のデバイスの主な機能強化について説明し、最新のGNSSモジュール評価ボードを使用して、あるデザインのプロトタイプを作製する方法を紹介します。

GNSSモジュールの進化

GNSSシステムをゼロから設計するのは複雑な仕事です。この困難が、合理的な性能、コンパクトな寸法、および低消費電力を備えた、1台あたり50ドル以下の安価なモジュール型ソリューションの出現を後押ししています。

しかし、第1世代のモジュール型GNSSソリューションには、価格を低く抑え、商業化を加速させるために、以下のような欠点がありました。

  • 低い受信感度: 感度が十分でないと、レシーバが位置を確定するのに必要な(最低)3つの衛星からの電波を拾う時間が長くなります。初期のモジュールは受信感度が低かったため、初回測位時間(TTFF)は少なくとも1分、多くの場合はそれ以上かかっていました。最後に使用してからレシーバを動かしておらず、オンボードメモリに以前の位置情報が残っているようなウォームスタートでも、30秒以上かかることがありました。
  • メモリ割り当ての制限: メモリ容量が少ないため、エフェメリスデータ(衛星コンステレーションの現在および将来の軌道位置に関する情報)の保存に制限がありました。GNSSモジュールが長期間衛星信号を失った場合、保存されているエフェメリス情報は古くなり、再取得には数分かかります。
  • 低い位置精度: 位置精度は主に衛星時計との時刻同期によって決まります。1ナノ秒の同期誤差により、30cmの位置誤差が発生します。初期のモジュールのタイミングの精度は±15mしか得られませんでした。
  • アシストGNSSと拡張GNSSが無い: 初期のGNSSモジュールは、GNSS信号を既知の位置の基地局からの信号に参照させることで位置精度を補助するシステムを利用することができませんでした。
  • 最小限の統合: フラッシュメモリ、水晶振動子、電源管理などの重要なコンポーネントは、第1世代のモジュールには含まれておらず、設計を複雑にし、ソリューションのサイズを大きくしていました。
  • 評価キットの少なさ: エンジニアは、提案されたデザインをテストする前に、ハードウェアのプロトタイプを自作せざるを得ない状況でした。
  • ファームウェア: 初期のモジュールは、ファームウェアの再構成やアップグレードのための規定がほとんど、あるいはまったくない状態で供給されたため、フィールドにあるユニットのソフトウェアが急速に陳腐化しました。

このような欠点に対処した新世代のGNSSモジュールが、現在市場に投入されつつあります。エンジニアは、特定のコンポーネントに決める前に、複数の高性能な統合モジュールから選択し、メーカーの関連評価キットを使ってコンセプトを試すことができます。

例えば、Maxim IntegratedMAX2771ETI+ GNSSレシーバは、5 x 5mmのパッケージで高度な集積度を実現しています。具体的には、デュアル入力、ローノイズアンプ(LNA)、ミキサ、フィルタ、プログラマブルゲインアンプ(PGA)、マルチビットA/Dコンバータ(ADC)、フラクショナルN周波数シンセサイザ、および水晶発振器を含む完全なレシーバチェーンを集積しています。

特に注目すべき点は、このデバイスは、オンチップのモノリシックデバイスを実装することにより、外付けの中間周波数(IF)フィルタを排除していることです。その結果、完全で低コストのGNSS RFレシーバソリューションを構成するために必要な外部コンポーネントはわずか数個というモジュールとなりました(図1)。

図1:MaximのMAX2771ETI+は、完全な低コストGNSS RFレシーバの主要要素を
統合し、必要な外部コンポーネントの数を制限(画像提供:Maxim Integrated)

アシストGNSSと位置精度の向上

この第2世代のGNSSモジュールは、衛星捕捉の高速化と位置精度の向上も実現しています。衛星位置の取得における改善の一部は、より多くのエフェメリス情報を保存するためのメモリ増加によるもので、長い信号消失期間の後、より迅速に衛星を再捕捉することができます。しかし、大容量のフラッシュメモリを搭載していても、正確なエフェメリスデータの有効期限はGPSで4時間、GLONASSで30分しかありません。

衛星から直接ではなく、別の有線または無線接続を介してモジュールが外部ソースからエフェメリス情報を取得する技術である「アシストGNSS」の使用により、さらなる改善がもたらされました。

例えば、モジュールのサプライヤであるu-bloxは、インターネットに接続されたホストマイクロプロセッサを介してエフェメリスデータにアクセスし、起動時にモジュールに供給するサービスを提供しています。このサービスはオフラインバージョンも利用でき、最大35日分の軌道データがダウンロードされ、ホストプロセッサやGNSSモジュールのフラッシュ メモリに保存されます。さらに、u-bloxは、過去のデータを使用して衛星の軌道位置を最大6日先まで予測する「AssistNow」技術を提供しています。

アシストGNSSのような技術は、コールドスタートTTFFを第1世代のGNSSモジュールの約60秒から、u-bloxのEVA-M8M-0 GNSSモジュールのような新しいモジュールの場合(GPSおよびGLONASSコンステレーション)は27秒に改善します。このソリューションは-148dBmのコールドスタート感度を提供し、アシストGNSSがない場合のTTFFのスピードアップに役立ちます。

衛星航法補強システム(SBAS)も、費用対効果の高いGNSSモジュールの位置精度を顕著に向上させるために使用されています。これらのシステムは、広域ディファレンシャルGPS(WADGPS)などの技術による追加的な地域または広域GNSS補強データでGNSSデータを補完します。WADGPSは、位置がわかっている固定基地局や、地表に対して一定の位置にある静止衛星からの情報を利用します。このような情報により、GNSSモジュールはタイミングと位置の誤差を補正し、位置精度を向上させることができます。例えば、EVA-M8M-0 GNSSモジュールは、SBASを使用して±2.5mの位置精度を提供することができます(図2)。

Image of second generation GNSS modules employ SBAS techniques

図2:SBAS技術を採用し位置精度を向上させた第2世代のGNSSモジュール。
SBASは静止衛星と固定基地局を使用し、太陽活動や電離層の影響による
GNSSタイミングの誤差を補正(画像提供:u-blox)

EVA-M8M-0は高度に統合された設計がされており、ほとんどのアプリケーションで外部GNSSアンテナを追加するだけで済みます。特筆すべきは、このモジュールにはマイクロプロセッサが内蔵されていることです。このモジュールには、内蔵RAMとROMに加え、必要に応じて追加データストレージ用の外部フラッシュメモリに接続するためのシリアルクワッドインターフェース(SQI)も搭載されています。また、タイミング精度をさらに向上させるために、外部水晶振動子を接続することもできます。

設定のためのGNSSモジュールとの通信は、古くから確立されている全米舶用電子機器協会(National Marine Electronics Association、NMEA)プロトコル、またはu-blox独自のUBXプロトコルを介して行われます。設定は、I/Oポートを介してレシーバに任意の「UBX-CFG-XXX」メッセージを送信することにより、通常動作中に変更することができます。適切な「saveMask」(「UBX-CFG-CFG/save」)と共に「UBX-CFG-CFG」メッセージを送信することで、設定を永続化できます。

第2世代GNSSモジュールを使った設計

GNSSモジュールを使った設計では、確立されたRF設計ガイドラインを遵守する必要があります。アンテナの選択、PCボードのレイアウト、水晶振動子の選択、および同調回路の設計は、受信感度や、TTFF、位置精度などの性能に大きな影響を与えます。

また、GNSSモジュールの中には組み込みマイクロプロセッサを搭載しているものもありますが、設定やアプリケーションの制御には別の外部コントローラが必要になることがよくあります。ほとんどのGNSSモジュールは、シリアルGPIO、I2Cポート、またはUARTを介して外部マイクロプロセッサと通信します。(DigiKeyの記事「Design Location Tracking Systems Quickly Using GNSS Modules(GNSSモジュールを使用した位置追跡システムの迅速な設計)」を参照)

あらゆるRFアプリケーションのハードウェア要件は細かいため、ハードウェアのプロトタイプを構築することなく、リストアップされたモジュールの性能テストができることは有用です。第2世代のモジュールには、設計者がそれを可能にする評価キットが用意されています。

例えばSTMicroelectronicsは、Teseo-LIV3F GNSSモジュール評価ボードを提供しています。このボードはTeseo-LIV3F GNSSモジュール用のスタンドアロン評価プラットフォームです。このモジュールは、組み込みARM®マイクロプロセッサをベースとしたGNSSコア、水晶振動子およびリアルタイムクロック(RTC)、電源管理、UARTおよびI2C接続、および16メガビット(Mbits)のフラッシュメモリを含む完全に統合されたデバイスです。これはすべて、9.7 × 10.1mmのパッケージに組み込まれています(図3)。オンボードフラッシュメモリにより、最大7日間のGNSSアシスト、ファームウェアの再設定、およびファームウェアのアップグレードが可能です。

Diagram of STMicroelectronics’ Teseo-LIV3F GNSS module

図3:高度に統合されたSTMicroelectronicsのTeseo-LIV3F GNSSモジュール
   特に、このモジュールにはArmマイクロプロセッサと16メガビットの
         フラッシュメモリが組み込まれている(画像提供:STMicroelectronics)

Teseo-LIV3F GNSSモジュールは、32秒のコールドスタートTTFN、-147dBmのコールドスタート感度、および位置精度を±1.5m以内に高めるSBASを備えています。

Teseo-LIV3F GNSSモジュール評価ボードの設定は、ボードの「UART 」入力に接続して行います。これは実際にはPCに簡単に接続できるUSB型のコネクタですが、評価ボードにはPCがモジュールと直接通信できるようにFTDIのUSB-UARTブリッジが内蔵されています。GNSSモジュールのUARTは標準COMポートとしてPCのアプリケーションソフトウェアに表示されますが、PCとGNSSモジュール間の実際のデータ転送はUSBインターフェースを介して行われます(図4)。

Diagram of STMicroelectronics evaluation board

図4:STMicroelectronicsの評価ボードは、USBコネクタを介して
         アプリケーションソフトウェアを実行するPCに接続して設定。
    USB信号はFTDIのブリッジを介してGNSSモジュールで使用
されるUART信号に変換(画像提供:STMicroelectronics)

設定用マイクロプロセッサは通常、GNSSモジュールとの通信にNMEAプロトコルを使用します。このプロトコルは、コマンド、ライトメッセージ、およびリードメッセージの3種類の入出力を定義しています。モジュールは各入出力に対してレスポンスを出力します。コマンドはモジュールの動作状態を変更するために使用され、ライトメッセージはモジュールの設定を変更し、リードメッセージは現在の設定を出力します。

入力はホストマイクロプロセッサからUARTまたはI2C RXラインでGNSSレシーバに送られ、出力はTXラインでレシーバから送られます。デフォルトでは、出力メッセージは1秒に1回の割合で送信されます。このプロトコルでは、標準と独自の両方の入出力が可能です(図5)。

Diagram of communication between the GNSS receiver and the host microprocessor

図5:GNSSレシーバとホストマイクロプロセッサ間の通信は、
UARTまたはI2C チャンネル経由でNMEAプロトコルを使用
(画像提供:STMicroelectronics)

NEMAプロトコルのメッセージ構造は単純です。例えば、

コマンドは「command-ID,[parameter1,parameter2,…,parameterN]<cr><lf>」

そして

メッセージは「message-ID,<data1,data2,…,dataN>*<checksum><cr><lf>」となります。

多くのモジュールメーカーは、コマンドやメッセージに独自の方式を採用しています。例えば、STMicroelectronicsのNMEAコマンドは、「$PSTM…という形式をとり、命令が同社独自の(「P」)フォーマットであることを示しています。

Teseo-LIV3F GNSSモジュール評価ボードを設定するには、PCベースのアプリケーションプログラムであるSTMicroelectronicsのTeseo Suite Lightをインストールします。プログラムの簡単なインターフェースに従って、デバイスを設定リストに追加し、ポート接続を有効にします。

例えば、UARTポートが有効になると、デバイスは動作を開始し、NMEAビューパネルを見て、GNSSモジュールから送信されるメッセージやコマンド、およびGNSSモジュールに受信されるメッセージやコマンドを確認することができます。

コマンドが実行されると、GNSSモジュールは事前に定義されたメッセージを返信し、コマンドは実行の最終確認としてホストに送り返されます。例えば、STMicroelectronicsのST-AGNSS技術の効果をテストするには、表1に示すNMEAコマンドを使用してレシーバを制御します。

image

表1:Teseo-LIV3F GNSSモジュールのアシストGNSS技術を制御するための
STMicroelectronics独自のコマンド(表提供:STMicroelectronics)

ST-AGNSSはアシストGNSSで、TTFFで衛星から実際のデータを取得するよりもはるかに短い時間でGNSS受信機にエフェメリスデータを提供します。

まとめ

モジュール型GNSS技術は、位置追跡技術をより幅広いアプリケーションに拡大しました。現在では、統合、ハードウェア、ファームウェア、アシストGNSS、および拡張測位が改善され、第2世代のデバイスは、高速な測位時間と強化された位置精度が重要なアプリケーションに拡張されています。新しいモジュールは、従来のモジュールのサイズ、コスト、および消費電力の利点を受け継ぎながら、評価ボードとPCベースのアプリケーションソフトウェアによってサポートされ、設計プロセスを大幅に簡素化しています。



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