はじめに
ロバストな電子システムには、信頼性とユーザーの利便性を高めるため、複数の電源が組み込まれていることがよくあります。デバイスへの電源供給に異なる電源を使用する場合、それらを絶縁し、潜在的な損傷を防ぐためのスイッチングメカニズムを実装することが不可欠です。一般的な方法の1つは、電源経路に複数のダイオードを使用することです。しかし、より効率的で汎用性の高いソリューションは、この目的に理想ダイオードを利用することです。この記事では、理想ダイオードの利点と、理想ダイオードがどのように電源管理を改善するのかについて説明します。
この記事では、2つのタイプの理想ダイオードを紹介します。1つは、入力レールの選択が電圧レベルに依存しないもので、もう1つは、より高い電圧が常にシステムに電力を供給する、より単純なものです。
複数の電圧源を管理する課題
多くのアプリケーションは、複数の電圧源を使用して動作することが可能となっています。例えば、バッテリ駆動のデバイスには、主電源の代替としてプラグイン電源を接続するオプションが含まれていることがよくあります。さらに、一般的にUSBケーブルで接続されるAC/DCウォールマウントアダプタは、主電源を補うためによく使用されます。
複数の電源を持つことは、ユーザーの利便性を高めるだけでなく、エネルギー源の冗長性によるロバスト性の向上も可能にします。しかし、異なる電圧源を統合することで、回路設計が複雑になります(労力がかかります)。潜在的な損傷につながる可能性があるので、あるエネルギー源が別のエネルギー源に逆流しないようにしなければなりません。
Figure 1は、電源経路にダイオードを組み込むことで、未使用の電圧源を保護する基本的な方法を示しています。これは確実に機能しますが、重要な欠点があります。このような構成では、電圧が最も高い電源が常に負荷に供給されます。
さらに、ダイオードは電力経路に150mVから450mVの電圧降下をもたらし、特に低電圧で高い電力損失を発生させます。このようなエネルギー損失の増大は、効率が優先されるバッテリ駆動機器にとって特に問題となります。
先に述べた欠点を克服するために、理想ダイオードが効果的な解決策となります。理想ダイオードという用語は、ダイオードの代わりにスイッチ(通常はMOSFET)を使用する部品を指します。
スイッチがオンの状態では、スイッチに流れる実際の電流とMOSFETのオン抵抗(RDS(ON))によって決まる電圧降下は大幅に低くなります。
Figure 2は、理想ダイオードとして2つのLT4422デバイスを利用した回路を示しています。これらの集積回路は、電源経路の抵抗がわずか50mΩと低いため、電圧降下が低くなっています。さらに、ICの消費電流はわずか10μAであり、全体的なエネルギー損失は最小限に抑えられています。どの電圧源がどの時点で負荷に電力を供給しているかのインジケータとして、LEDを追加することができます。
その結果、Figure 2の設計はFigure 1の回路の改良版として機能し、LEDインジケータなどの拡張機能とともに、より低い消費電力を提供します。
しかし、Figure 2の回路で1つの特徴は変わりません。電圧の高い方の電圧源がデバイスに電力を供給し続けます。理想ダイオードLT4422にはイネーブル端子((SHDN)̅)がありますが、入力電圧が出力電圧を超えるとMOSFET内部のボディダイオードが導通します。
これを防ぐために、LT4422の派生品としてLT4423があり、これは電源経路に2つのMOSFETを背中合わせに使用しています。これらは、もう一方のMOSFETが同時にオンしなければ、それぞれのボディダイオードが電流を流さないように配置されています。
Figure 3は、電源電圧を自由に選択して負荷に電力を供給し、その動作が電圧レベルに依存しない回路設計を示しています。
しかし、MOSFETを2個内蔵する必要があるため、スイッチオン時の電力経路の抵抗は50mΩ(LT4422)から200mΩ(LT4423)に増加します。
さらに、MOSFETを2個搭載したバージョン(LT4423)には、サーマルシャットダウン機能が内蔵されています。標準的なダイオードとは異なり、この理想ダイオードは、部品温度が160°C(代表値)を超えると自動的にオフになり、システムの信頼性を高めます。
理想ダイオードは、デバイスに対してさまざまな電源供給オプションを可能にするだけでなく、実装された冗長性によってより高いロバスト性を実現します。さらに、理想ダイオードは、LEDによる供給状態の表示や、過熱が発生した場合の保護シャットダウンなどの機能を提供します。
電源切替方式の比較
方法 | 長所 | 短所 |
---|---|---|
従来型ダイオード(ショットキーまたは標準ダイオード) | - シンプルで低コストの方法 | - 固定の電圧降下(150~450mV) |
- 電流の逆流防止 | - 大きな電力損失 | |
- 常に最も高い電圧源を使用 | ||
理想ダイオード(LT4422 - シングルMOSFET) | - 従来のダイオードより低い電力損失 | - 依然として電圧レベル優先 |
- 効率的な電源選択 | - 限られた保護機能 | |
- 電圧降下が小さい | ||
理想ダイオード(LT4423 - デュアルMOSFET) | - 独立した電源選択 | - より高い抵抗(LT4422の50mΩに対して200mΩ) |
- サーマルシャットダウン機能内蔵(160°C) | - より複雑な設計 | |
- 従来のダイオードに比べて導通損失が低い | - コストがやや高い | |
- システムのロバスト性の向上 |
まとめ
理想ダイオードは、複数の電源があるシステムの電力効率を向上させるために、通常のダイオードの代替品として有用です。電力損失の低減に加え、このような理想ダイオードは、追加機能とともに柔軟性も提供します。理想ダイオードは使いやすく、設計も簡単です。これは、LT4422やLT4423のような高集積度のデバイスを使用する場合に特に当てはまります。
適用品番
EVAL-LT4422-AZ
505-EVAL-LT4422-AZ-ND
505-EVAL-LT4422-AZ
505-EVAL-LT4423-AZ-ND
EVAL-LT4423-AZ
505-EVAL-LT4423-AZ