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副題:データシートのパラメータを用いたスイッチング時間間隔の推定手法
1. はじめに
本シリーズのパート1では、MOSFETのターンオンおよびターンオフのスイッチング時間を算出するための式を導出しました。これらの時間間隔は、ハードスイッチングアプリケーションにおけるスイッチング電力損失計算の基礎となります。
これらの式を適用すると、追加の指針が必要であることが明らかになります。計算に使用されるいくつかのパラメータ、特にゲートプラトー電圧および寄生容量は、動作電圧および電流条件に大きく依存します。これらのパラメータは、想定される使用条件において必ずしも直接利用できるとは限りません。
本アプリケーションノートでは、一般的に入手可能なデータシート情報を用いて、これらのパラメータを推定する実用的な手法を示します。プラトー電圧の近似、逆伝達容量の抽出、および出力容量のモデリングに関する手法を説明します。これらの手法により、詳細なSPICEモデルが利用できない場合でも、異なるサプライヤ間でMOSFETのスイッチング動作を一貫した条件で比較することが可能となります。
本パート2で説明する手法は、コンポーネントレベルでの比較および初期段階のデバイス選定を目的としています。アプリケーションレベルの損失モデリングやワーストケース解析を目的とする場合は、検証済みのSPICEモデルを用いた時間領域シミュレーションが依然として推奨される手法です。
1.1 オン/オフ時間間隔
本シリーズのパート1で述べたように、ターンオン遷移の時間間隔は以下のとおりです。
また、ターンオフ遷移の時間間隔は以下のように求められました。
ここで \tau=R_{G}(C_{GS}+C_{GD}) とし、時間間隔は図1に示すように定義され、以下のパラメータ定義が適用されます。
- R_G:ゲート抵抗(内部および外部)
- C_{GS}:寄生ゲート~ソース容量
- C_{GD}:寄生ゲート~ドレイン容量
- R_{DS_{(ON)}}:MOSFETが完全にオン状態のときのドレイン~ソース間抵抗
- V_{th}:閾値電圧
- V_{gp-ON}:オン遷移時のプラトー電圧
- V_{gp-OFF}:オフ遷移時のプラトー電圧
- V_{GG}:ゲート外部電源のDC電圧値
- V_{DD}:ドレイン外部電源のDC電圧値
- I_0:ドレイン負荷のDC電流
式(1)~(6)は、図2に示すような誘導性負荷と理想的なフリーホイールダイオードを備えたローサイドドライバのサンプル回路から導出されたものです。
図1. MOSFETのターンオン波形(上)とターンオフ波形(下)
図2. ローサイドドライバのサンプル回路
2. パラメータの近似
2.1 オン/オフ段のプラトー電圧
式(2)~(4)および(6)から明らかなように、ゲートプラトー電圧は非常に重要なパラメータです。しかし、どの電圧を用いるべきかを判断するのはしばしば困難です。
データシートには、ドレイン電圧と電流の特定の条件下におけるプラトー電圧が示されています。この値は、データシートのゲートチャージ特性から抽出して、計算に使用できます(図3)。
図3. パワーMOSFETデータシートからの代表的なゲートチャージ特性
しかしながら、プラトー電圧の測定条件は標準化されていないため、周囲の条件を考慮した近似値を求めることが合理的です。
文献[1]によれば、プラトー電圧はデバイスがターンオフ時とターンオン時で異なる場合があり、以下の式で定義されます。
ここで g_m は、伝達特性の線形領域の傾きから得られるトランスコンダクタンスです(図4)。
式(7)および式(8)は、オン状態およびオフ状態のプラトー電圧を導出するための1つの方法であり、これらの計算式により、データシートのプラトー電圧を、2つあるいはそれ以上のパワーMOSFET品番間でのパラメータ比較に適した基準条件に近づけることができます。
図4. パワーMOSFETのデータシートからの代表的な伝達特性曲線
2.2 逆伝達容量( C_{rss} )
本シリーズのパート1で述べたように、逆伝達容量( C_{rss} )は C_{GD} に等しく、これは式(3)および式(5)における主要なパラメータであることがわかっています。 C_{GD} は、データシートの動的特性表に記載されているゲート~ドレイン電荷( Q_{GD} )を用いて求めることができ、以下の式を適用できます。
この方法を用いる場合、 Q_{GD} はゼロ以外の特定の V_{GS} 値で得られること、および C_{GD} は非線形容量であり、 V_{GS} および V_{DS} のバイアス値に依存することに留意する必要があります。 (図5)。
図5. パワーMOSFETのデータシートからのゲート~ドレイン電荷の例
この容量を求める別の手法として、同じ測定条件を用いる標準的な方法(文献[3])から値を得ることで、部品比較の信頼性を高めることができます。図6の C_{rss} 特性プロットは、 V_{DS} のバイアス電圧を掃引し、小信号の高周波擾乱 v_{ds} を加えた結果得られたものです(つまり、図6の容量は小信号容量です)。この測定中は V_{GS}=0V とするのが業界標準であることに留意してください。
図6. データシートからのMOSFET小信号容量特性の例
このグラフから、所望の V_{DS} 電圧における C_{rss}=C_{GD} の値を読み取り、時間間隔の計算に使用することができます。これは有効な方法の1つであり、比較目的には十分です。
別の方法として、所望の V_{DS} における非線形容量の電荷に関連する等価線形容量値を求める方法があります。これを行うには、C_{rss} 容量特性のすべての点を抽出し、文献[2]の方法を用いて端子電圧に対する非線形電荷曲線をシミュレーションする必要があります。そして、式(9)を適用して C_{GD} を求めます。これら2つの方法を用いることで、比較対象のすべてのMOSFETについて、同じ V_{DS} および V_{GS} バイアス条件を使用する C_{GD} 値を求めることができます。
この最後のシミュレーションステップは、解析の目的が単に部品性能を比較することだけであれば、不要な追加ステップとみなすことができます。しかし、このシミュレーションを行うことで、図7に示すように、非線形容量をより詳細に解析することが可能になります。
図7. 非線形コンデンサの充電曲線( C_d :V_x における小信号容量、
C_t : V_x における等価線形容量)
2.3 出力容量( C_{oss} )
C_{GD} が定義されれば、C_{DS} についても同様のアプローチを取ることができます。 C_{rss} と同様に、出力容量 C_{oss} は図6のグラフで定義されています。確立された方法で測定を行うことで、サプライヤ間の条件を類似させ、比較可能にするという同じ利点が得られます。
C_{DS} 値は、次式の差分により求められます。
ここで、前述のとおり、C_{oss} は、小信号非線形容量特性図(図5)から直接読み取るか、この特性からデータポイントを抽出してドレイン~ソース間電圧に対する非線形電荷曲線[2]をシミュレートし、以下の式を用いて求めることができます。
2.4 ゲート閾値電圧( V_{th} )
本アプリケーションノートでは、データシートに記載されている代表的な閾値電圧を使用します。詳細な計算方法は文献に見当たりませんでした。
さらに、ベンダー各社は通常、このパラメータの測定に同じ条件(すなわち、 V_{DS}=V_{GS}、I_D=250 \mu A )を使用しているため、比較が容易になります(図8)。
図8. 代表的なゲート閾値を示すデータシートの表
3. 計算例
3.1 サンプル回路
図2のローサイドドライバ回路における動作条件として、V_{GG}=10V、V_{DD}=75V、I_0=15A、R_{g_{ext}}=10 \Omega という値を用いて、計算例を示します。
この計算では、MCCのパワーMOSFET MCAC15N15Y と、電気特性が近い競合他社のMOSFET 2個を使用します。表1および表2は、この解析に関連するこれらの部品パラメータを示しています。
表1:計算に関連する MCAC15N15Y の電気的パラメータ
| パラメータ | シンボル | MCAC15N15Y | 条件 |
|---|---|---|---|
| ドレイン~ソース 最大電圧 |
V_{DS} | 150V | V_{GS}=0V、I_D=250\mu A |
| ゲート閾値電圧 | V_{GS{(th)}} | 2V~4V | V_{DS}=V_{GS}、I_D=250\mu A |
| ドレイン~ソース オン抵抗 |
R_{DS_{(on)}} | 52mΩ(typ) 70mΩ(max) |
V_{GS}=10V、I_D=15A |
| 内部ゲート抵抗 | R_{gint} | 1Ω | f=1 MHz、オープンドレイン |
| ゲート~ドレイン 電荷 | Q_{GD} | 4nC | V_{DS}=75V、V_{GS}=10V、I_D=15A |
| プラトー電圧 | V_p | 4.9V | V_{DS}=75V、I_D=15A |
| 入力容量 | C_{iss}=C_{GS}+C_{GD} | 749.9pF | V_{DS}=30V、V_{GS}=0V、f=1 MHz |
| 出力容量 | C_{iss}=C_{DS}+C_{GD} | 301.1pF | V_{DS}=30V、V_{GS}=0V、f=1 MHz |
| 逆伝達容量 | C_{rss}=C_{GD} | 27.3pF | V_{DS}=30V、V_{GS}=0V、f=1 MHz |
表2:計算に関連する競合品の電気的パラメータ
| シンボル | 競合品A | 条件 | 競合品B | 条件 |
|---|---|---|---|---|
| V_{DS} | 200V | V_{GS}=0V、I_D=250\mu A | 150V | V_{GS}=0V、I_D=250\mu A |
| V_{GS(th)} | 2V~4V | V_{DS}=V_{GS}、I_D=1mA | 2V~4V | V_{DS}=V_{GS}、I_D=35 \mu A |
| r_{DS_{(on)}} | 86mΩ (typ) 102mΩ (max) | V_{GS}=10V、I_D=12A | 42mΩ(typ)52mΩ (max) | V_{GS}=10V、I_D=18A |
| R_{gint} | 1.1Ω | f=1 MHz | 2.1Ω | f=1 MHz |
| Q_{GD} | 10.1nC | V_{DS}=100V、V_{GS}=10V、I_D=12A | 1.5nC | V_{DS}=75V、V_{GS}=10V、I_D=9A |
| V_p | 4.5V | V_{DS}=100V、I_D=12A | 5.2V | V_{DS}=75V、I_D=9A |
| C_{iss}=C_{GS}+C_{GD} | 1568pF | V_{DS}=30V、V_{GS}=0V、f=1 MHz | 670pF | V_{DS}=75V、V_{GS}=0V、f=1 MHz |
| C_{oss}=C_{DS}+C_{GD} | 170pF | V_{DS}=30V、V_{GS}=0V、f=1 MHz | 80pF | V_{DS}=75V、V_{GS}=0V、f=1 MHz |
| C_{rss}=C_{GD} | 55pF | V_{DS}=30V、V_{GS}=0V、f=1 MHz | 3.4pF | V_{DS}=75V、V_{GS}=0V、f=1 MHz |
3.2. サンプル回路のLTspiceシミュレーション
MCAC15N15Y および競合製品のSPICEモデルを用いたシミュレーションを実施しました。シミュレーション結果から算出した時間間隔 t_{ON}=t_{{21}_{ON}}+t_{{32}_{ON}} および t_{OFF}=t_{{21}_{OFF}}+t_{{32}_{OFF}} を、本解析における基準値として使用します。結果は表3に示されています。図9は、最大ドレイン電流の5%に達する点( 0.05\ast I_0=0.75A )から、最大ドレイン電圧の5%に達する点( 0.05\ast V_{DD}=3.75V )までのシミュレーションにより取得した t_{ON} の測定結果を示しています。t_{OFF} の測定には、同様の測定点を用いていますが、電流よりも先に電圧が変化する同じポイントを使用しました(図10)。
表3:シミュレーション測定から得られたオン時間とオフ時間
| MCAC15N15Y | 競合品A | 競合品B | \Delta MCC - A | \Delta MCC - B | |
|---|---|---|---|---|---|
| t_{ON}=t_{{21}_{ON}}+t_{{32}_{ON}} | 8.68ns | 18.40ns | 5.46ns | -9.72ns | 3.22ns |
| t_{OFF}=t_{{21}_{OFF}}+t_{{32}_{OFF}} | 12.43ns | 23.00ns | 5.91ns | -10.57ns | 6.52ns |
図9. シミュレーションによる MCAC15N15Y のターンオン時間
( I_0 は緑、V_{DS} は濃い青、V_{GG} は薄い青で表示)
図10. シミュレーションによる MCAC15N15Y のターンオフ時間
( I_0 は緑、V_{DS} は濃い青、V_{GG} は薄い青で表示)
3.3. データシートの値を用いた計算
表1および表2に示すデータシートの値を用いて計算を行い、結果を表4に示します。
表4:データシートの値を用いた計算結果
| MCAC15N15Y | 競合品A | 競合品B | \Delta MCC - A | \Delta MCC - B | |
|---|---|---|---|---|---|
| t_{{10}_{ON}} | 2.94ns | 6.26ns | 2.91ns | ||
| t_{{21}_{ON}} | 2.61ns | 4.24ns | 3.08ns | ||
| t_{{32}_{ON}} | 4.37ns | 8.26ns | 2.02ns | ||
| t_{ON}=t_{{21}_{ON}}+t_{{32}_{ON}} | 6.98ns | 12.49ns | 5.1ns | -5.51ns | 1.88ns |
| t_{{10}_{OFF}} | 5.89ns | 14.02ns | 5.33ns | ||
| t_{{21}_{OFF}} | 4.55ns | 10.09ns | 1.87ns | ||
| t_{{32}_{OFF}} | 4.05ns | 7.12ns | 4.48ns | ||
| t_{OFF}=t_{{21}_{OFF}}+t_{{32}_{OFF}} | 8.60ns | 17.21ns | 6.35ns | -8.61ns | 2.25ns |
3.4. プラトー電圧を用いた計算
セクション2.1で説明したプラトー電圧のモデリング手法を用いて、表5に示す結果を得ました。
表5:プラトー電圧モデルを用いた計算結果(2.1節)
| MCAC15N15Y | 競合品A | 競合品 | \Delta MCC - A | \Delta MCC - B | |
|---|---|---|---|---|---|
| t_{{10}_{ON}} | 2.94ns | 6.33ns | 2.91ns | ||
| t_{{21}_{ON}} | 1.22ns | 1.35ns | 1.80ns | ||
| t_{{32}_{ON}} | 3.69ns | 7.00ns | 1.73ns | ||
| t_{ON}=t_{{21}_{ON}}+t_{{32}_{ON}} | 4.91ns | 8.35ns | 3.52ns | -3.44ns | 1.39ns |
| t_{{10}_{OFF}} | 8.60ns | 18.78ns | 8.99ns | ||
| t_{{21}_{OFF}} | 6.32ns | 13.23ns | 2.92ns | ||
| t_{{32}_{OFF}} | 1.33ns | 2.36ns | 0.82ns | ||
| t_{OFF}=t_{{21}_{OFF}}+t_{{32}_{OFF}} | 7.65ns | 15.59ns | 3.75ns | -7.94ns | 3.90ns |
4. まとめ
異なるベンダー間のパワーMOSFET、あるいは同一ベンダーで異なる品番間のパワーMOSFETのスイッチング性能を比較することは常に課題となります。測定条件はMOSFETのパラメータに影響を与え、結果として性能予測にも影響を及ぼします。
しかし、本アプリケーションノートでは、比較を行う際にデータシートの値を用いるか、プラトー電圧の追加モデリング手法を用いるかにかかわらず、良好な結果が得られることを示しています。どちらの方法も、一方の部品が他方の部品に対してどの程度遅いか、あるいは速いかについて良好な近似が得られます。
両方の手法を用いてコンポーネント間の差分比較を行うことで、同じ条件下で両方の部品を使用した場合のスイッチング性能を的確に把握できます。特に、ここで紹介するプラトー電圧のモデリング手法を用いることで、すべての比較を同じ基準点に合わせることができます。これは、プラトー電圧の仕様が全く異なる条件下で取得されている場合に特に有効です。.
また、当社のウェブサイトでは、本アプリケーションノート「MOSFETの電力損失計算ガイド – パート2」と、その第1部「MOSFETの電力損失計算ガイド - パート1」もご覧いただけます。この回路の電力損失計算全体を解説するパート3は近日公開予定です。
参考文献
[1]:Liu, S., Song, S., Xie, N., Chen, H., Wu, X., & Zhao, M. (2021). Miller Plateau Corrected with Displacement Currents and Its Use in Analyzing the Switching Process and Switching Loss. Electronics 2021 , 10
[2]:Ben-Yaakov, S. & Zeltser, I. (2017). On SPICE simulation of voltage dependent capacitors. IEEE Transactions in Power Electronics
[3]:JEDEC SOLID STATE TECHNOLOGY ASSOCIATION (1985). JESD24 JEDEC Standard for Power MOSFETs










