FETはゲート・ソース端子間の電圧でドレイン・ソース端子間の電流を制御する3端子の半導体デバイスです。この動作により、FETは電圧制御抵抗、アンプ、またはスイッチとして働き、アナログとデジタル両方のエレクトロニクス分野で応用することができます。
FETには様々な種類があり、その種類によって材料、構成、幾何学的配置のバリエーションがあります。Digi-Keyエレクトロニクスウェブサイト では、あらゆるタイプのシングルパッケージFETのほぼすべてが、「MOSFET - シングル」製品カテゴリに掲載されています。その他にシングルパッケージFETが含まれる可能性があるのは、「JFETs (Junction Field Effect)」と「MOSFET - RF」だけで、実用的な理由から、別のカテゴリに分類されています。このカテゴリの製品が必要な人は、属するカテゴリも知ってると思いますが、知らない場合はこのカテゴリは避けて、一般的な「MOSFET - シングル」製品カテゴリで検索してください。
この投稿を書いた時点で、Digi-Keyは「MOSFET - シングル」製品カテゴリに39,000以上の品番を保有しています。幸いなことに、Digi-Keyのパラメータによる検索はFETのすべてのタイプに共通の仕様でフィルタリングを行うことができます。このアプローチは、要求性能に応じたフィルタリングを行うことで、ユーザーを正しいFETの種類に導き、最終的にはアプリケーションに最適なFETに誘導することができます。
NチャンネルエンハンスメントモードMOSFET(NMOS)
エンハンスメントモードMOSFET(金属酸化膜半導体FET)は最も広く使われているタイプのFETです。そのため、ここではまず、従来のNチャンネルエンハンスメントモードMOSFETの基本構成と動作について説明します。後のPチャンネルおよびデプリーションモードデバイスのセクションでは、読者がNチャンネルエンハンスメントモードのセクションをすべてを読んで、ご理解いただいているという前提で進めます。
基本的な構造と動作
図1は、NチャンネルエンハンスメントモードMOSFETの断面図を示しています。ボディにP型基板を用い、その中に2つの高濃度にドープされたN型領域を形成しています。基板表面には、2つのN型領域の間にわたって、薄い電気絶縁性の酸化膜が形成されています。黒いバーで示した部分には、外部導体との接続を可能にする金属電極やポリシリコン層が追加されます。
図1: NチャンネルエンハンスメントモードMOSFETの断面図
ボディ接続を別にして、これらの金属接続点はすべてのFETに共通するゲート、ドレイン、ソースの接続点を表しています。
図2は、ゲート・ソース間に十分な正の電圧を印加すると、P型ボディにN型チャンネルが誘起されることを示しています。最初に導電チャンネルを形成するのに必要な電圧は閾値電圧と呼ばれていますが、このチャンネル内の自由電子密度は、正のゲート・ソース間電圧をさらに加えることで増加し続けます。
図2: NチャンネルエンハンスメントモードMOSFETの基本動作
誘起されたチャンネルによりドレイン・ソース間に電流が流れるようになります。チャンネルが強化(エンハンスメント)されると、自由電子密度がより高くなり、導電性がより高くなります。
電流はチャンネル内を両方向に流れることができますが、一般的にNチャンネルFETのアプリケーションではドレインからソースへ電流が流れます。 その理由は、固有ボディダイオードの説明のセクションで詳しく述べます。
電界効果
チャンネルの自由電子密度は、実際はゲート・ソース間電圧による電界によって制御されています。図3をご覧いただくと、この電界がイメージしやすいと思います。
図3: NチャンネルエンハンスメントモードMOSFETの酸化膜層への差分電荷の蓄積
金属被覆ゲートに正電荷が蓄積され、誘導されたNチャンネルに負電荷が蓄積される様子を示しています。これは平行平板コンデンサと考えることができます。ゲートとチャンネルが平行板、酸化膜が絶縁誘電体として機能します。その結果、酸化膜に生じる電界が、チャンネル内部の自由電子密度を制御し、チャンネルの導電性を制御する仕組みになっています。
他の種類のFETには、材料、構成、または幾何学的配置のバリエーションがありますが、チャンネルの導電性を電圧で制御する電界効果メカニズムはどのFETでも同じです。
ボディ・コネクション
観察力の鋭い方は図 2 と図 3 を見て、何か気づかれたかも知れません。どちらの場合もゲートのバイアス電圧はソースとボディを基準にしており、ソースとボディは結ばれているため、同電位に保たれています。
ボディがソースとつながることで、導電性のチャンネルを誘起することができます。MOSFETはボディに適切なバイアスをかけないと正しく動作しない場合があります。市販されているディスクリートFETのほとんどは、ボディとソースが内部で接続されており、そのことがFETが一般に3端子デバイスと言われる所以です。この接続は、実は図4のようなMOSFETを表わすための多くの回路記号の一部です。
図4: NチャンネルエンハンスメントモードMOSFETの回路記号
ボディがソースに直接接続されていないディスクリートFETは 稀です。 もし、設計者が使用できるようにボディ接続部を未接続にした場合は、図5の記号がより正確になります。
図5: NチャンネルエンハンスメントモードMOSFETの回路記号(ソースに接続されない外部ボディ接続)
また、他の稀なケースでは、ディスクリートFETのメーカーが、ソースに直接接続する以外の方法でバイアスをかけることにより、ボディをもう1つの技術的自由度として利用する場合があります。
モノリシック集積回路ではディスクリートFETとは異なり、一般的にデバイスの電源レールの1つに共通のボディ(バルク基板)が接続されています。また、回路図も、よりシンプルなFET記号を使用します。これにより、個別のFETを多数描かなければならない場合にも、回路図が乱雑になることを避けています。
固有ボディダイオードとBJT
ここでもまた、観察力の鋭い方は図 4 と図 5 を見て、何か気づかれたかも知れません。 図中の記号には、ボディからドレインとソースにつながるダイオードが記入されています。図4では、ボディ・ソース間ダイオードは、内部のボディ・ソース間の内部接続でショートしているため、表示されていません。
このダイオードはボディダイオードと呼ばれ、JFETを除くすべてのFETタイプに内在しているもので、適切な名称が付けられています。ボディダイオードがどこから出てくるかは、図6に示したとおりです。FET構造では、基板とドープ領域の間にPN接合が存在します。
図6: NチャンネルエンハンスメントモードMOSFETの断面図(固有ボディダイオードを記号で示した場合)
NチャンネルFETの場合、ボディダイオードの極性により、電流は通常ドレインからソースへ流れます。また、チャンネルが形成されていない場合でも、ソースとボディの接続が短絡されており、ボディとドレインのダイオードを介してソースからドレインに電流が流れます。このため、一般的なNチャンネル型FETでは、ソースからドレインへの電流の流れを遮断することができません。
特定のDC/DCコンバータなどの一部のアプリケーションでは、実質的に通常の回路動作にはボディダイオードが必要です。それに対して、特定の電源セレクタなど、双方向で電流を遮断する必要がある他の用途では、必要なFETの数が2倍になります。
また、2つの背中合わせのP-N接合は、FET内に固有のBJT(バイポーラ接合トランジスタ)を内在させることになります。しかし、ボディとソースが短絡している場合は、事実上存在しなくなります。
PチャンネルエンハンスメントモードMOSFET(PMOS)
ここまでのNチャンネルエンハンスメントモードMOSFETの説明を理解すれば、PチャンネルエンハンスメントモードMOSFETの理解も容易になります。次のように変更しても、基本的に説明は同じです。
- N型だった領域をP型にして、逆にP型だった領域をN型に変更します。
- 電圧とダイオードの極性を逆にします。
- 負電荷を正電荷に置き換え、逆に正電荷を負電荷に置き換えます。
- 電流は誘導されたチャンネルを両方向に流れることもありますが、PチャンネルFETのアプリケーションでは一般にソースからドレインに電流が流れます。
このような変更をふまえて、図7にシンプルなPチャンネルエンハンスメントモードMOSFETを示します。
図7: PチャンネルエンハンスメントモードMOSFETの断面図
図8は、ゲート・ソース間接続部に十分な負電圧を印加すると、N型ボディにP型チャンネルが誘起されることを示しています。最初に導電チャンネルを形成するのに必要な電圧は閾値電圧と呼ばれますが、このチャンネル内の自由正孔密度は、ゲート・ソース間電圧が負であればあるほど増加し続けます。
図8: PチャンネルエンハンスメントモードMOSFETの基本動作
図8は、閾値電圧が負の電圧値として与えられていることを前提としているので、導電性チャンネルを形成するためには、ゲート・ソース間電圧が閾値電圧と等しいか、またはそれよりも負(小さい)である必要があります。時には FETメーカーがこれと同じ規則を使うこともあります。 またある時は、閾値電圧は正の数値で示されることもありますが、エンハンスメントモードPチャンネルFETについては、絶対値と理解する必要があります。
誘起されたチャンネルは、ソース・ドレイン間に電流を流すことができます。チャンネルが強化されるにつれて、自由正孔密度がより高くなり、導電性がより高くなります。
チャンネルの導電性を制御する電界の仕組みは同じですが、極性が逆になります。そのことを図9に示します。
図9: PチャンネルエンハンスメントモードMOSFETの酸化膜層への差分電荷の蓄積
ボディとソースの内部接続が標準であることに変わりはありません。記号が少し違っていて、ボディの矢印とボディダイオードの向きが逆になっています。
図10: PチャンネルエンハンスメントモードMOSFETの回路記号
固有ボディダイオードとBJTはなお存在していますが、やはりBJTと、ソースとボディ間のボディダイオードは、ボディとソースの内部接続により事実上存在しなくなります。
図11: PチャンネルエンハンスメントモードMOSFETの断面図(ボディダイオードを記号で示した場合)
PチャンネルFETの場合、ボディダイオードの極性により、電流は通常ソースからドレインへ流れます。 チャンネルが誘起されていなくても、ドレイン・ボディ間ダイオードとボディ・ソース間の短絡接続を介して、ドレインからソースへ電流が流れます。このため、一般的なpチャンネルFETでは、ドレインからソースへの電流を遮断することができません。
デプリーションモードMOSFET
デプリーションモードMOSFETは、すでに述べたエンハンスメントモードMOSFETと物理的に大きな違いがあり、ドレイン領域とソース領域の間に物理的にチャンネルが埋め込まれています。つまり、デプリーションモードデバイスは、ゲート・ソース間電圧がゼロでも、ドレイン・ソース間に導電経路が存在することになります。このチャンネルは、エンハンスメントモードデバイスと同様にチャンネル導電率を高めることができますが、チャンネルに電荷キャリア空乏領域を誘導してチャンネル導電率を低下または除去することも可能です。
ここでは説明しませんが、JFETはその構造上、すべて本来はデプリーションモードデバイスであることは特筆すべきことです。
NチャンネルデプリーションモードMOSFET
図12にNチャンネルデプリーションモードMOSFETの基本構造を示します。
図12: NチャンネルデプリーションモードMOSFETの断面図
高濃度ドープ領域とNチャンネルに存在する負電荷キャリアは、ゲート・ソース間電圧がゼロの場合、デフォルトでドレイン・ソース間に完全な導電経路を提供しています。
負電荷キャリアの密度は、正のゲート・ソース間電圧を追加したNチャンネルエンハンスメントMOSFETと全く同じ方法で増加させることができます。前回と同様に、このチャンネルの強化が導電性の増加につながります。チャンネルの導電性を下げるためにはゲート電圧をソースに対して下げる必要があり、チャンネルが実質的に存在しなくなる閾値電圧は負の値です。この導電性の低下は、埋め込みチャンネルで電荷キャリアが枯渇した結果であり、ゲートに蓄積された負電荷が埋め込みチャンネルから自由電子をはじき出すためです。 図13は、ゲート・ソース電圧がゼロボルトを超えて閾値電圧未満まで前後に移動するときの、NチャンネルデプリーションモードMOSFETのエンハンスメントとデプリーションの両方をビジュアル化したものです。
図13: NチャンネルデプリーションモードMOSFETの基本動作
また、回路図記号もデプリーションモードデバイスを正しく示すように変更する必要があります。図14にNチャンネルデプリーションモードMOSFETの記号を示しています。エンハンスメントモード相当品との違いは、ドレインとソースを結ぶ実線がボディを横切っていることのみです。
図14: NチャンネルデプリーションモードMOSFETの回路記号
この実線は埋め込みチャンネルと考えることができ、図4のエンハンスメントモードデバイスでは分割されたドレイン、ボディ、ソースの線は注入されたチャンネルがないことを示します。
PチャンネルデプリーションモードMOSFET
ディスクリートデバイスとしては利用できないのですが、ここでは念のためPチャネルデプリーションモードMOSFETを取り上げます。図15にPチャネルデプリーションモードMOSFETの基本構造を示します。
図15: PチャンネルデプリーションモードMOSFETの断面図
高濃度ドープ領域とPチャンネルに存在する正電荷キャリアは、ゲート・ソース間電圧がゼロの場合、デフォルトでソース・ドレイン間に完全な導電経路を提供します。
正電荷キャリアの密度は、負のゲート・ソース間電圧を追加したPチャネルエンハンスメントMOSFETと全く同じ方法で増加させることができます。 前と同様に、このチャンネルの強化が導電性の増加につながります。チャンネルの導電性を下げるためにはゲート電圧をソースに対して上げる必要があり、チャンネルが実質的に存在しなくなる閾値電圧は正の値です。 この導電率の低下は、ゲートでの正電荷の蓄積により、埋め込みチャネルから自由正孔がはじき出され、埋め込みチャネルの電荷キャリアが枯渇した結果です。図16は、ゲート・ソース電圧がゼロボルト未満から閾値電圧を超えるまで前後に移動するときの、PチャネルデプリーションモードMOSFETのエンハンスメントとデプリーションの両方をビジュアル化したものです。
図16: PチャンネルデプリーションモードMOSFETの基本動作
また、回路図記号もデプリーションモードデバイスを正しく示すように変更する必要があります。図17にPチャンネルデプリーションモードMOSFETの記号を示します。
図17: PチャンネルデプリーションモードMOSFETの回路記号
MOSFETの動作概要まとめ
Nチャンネル エンハンスメント |
Pチャンネル エンハンスメント |
Nチャンネル デプリーション |
Pチャンネル デプリーション |
|
---|---|---|---|---|
記号 | ||||
一般的な使用方法における電流方向 | ドレインから ソース |
ソースから ドレイン |
ドレインから ソース |
ソースから ドレイン |
ゲート・ソース間が0Vの場合の導電チャンネルの存在 | 無 | 無 | 有 | 有 |
チャンネルの導電率の増加 | ゲート・ソース間電圧の上昇に伴う | ゲート・ソース間電圧の減少に伴う | ゲート・ソース間電圧の上昇に伴う | ゲート・ソース間電圧の減少に伴う |
ゲート・ソース間閾値電圧 | 正 | 負 | 負 | 正 |
導電チャンネルがカットオフになるゲート・ソース間電圧 | 閾値未満 | 閾値超過 | 閾値未満 | 閾値超過 |
注意:
- MOSFETの記号ではボディダイオードが省略されることが多いですが、それが描かれていない場合でも、ボディダイオードは常に存在します。
- ゲート・ソース間の閾値電圧はPチャンネルエンハンスメント素子やNチャンネルデプリーション素子でも正の値(大きさ)で示されるかもしれませんが、それらは実際には常に負の値であることを理解してください。Digi-Keyのパラメータデータでは、ゲート・ソース間閾値電圧はすべて正の値で記載されています。このことにより、メーカーのデータシートでどのような表記をしているかに関係なく、各メーカー間の比較が便利になります。
- 閾値電圧はまた、ゲート・ソース間ではなくソース・ゲート間の電圧として表すこともあります。これは測定の基準方向を変えることで電圧の正負を簡単に反転できます。デバイス本体の動作に違いはありません。
- ディスクリートデバイスとしては利用できないのですが、ここでは完全を期すためにPチャンネルデプリーションモードMOSFETを含めています。
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