フィールドオリエンテッド制御(FOC)アルゴリズムにおいて、クラーク変換は三相変数を簡素化し、デカップリングを可能にするための中核的な座標変換ステップです。その機能は、三相静止座標系(abc座標系)の物理量(電流や電圧など)を二相静止座標系(αβ座標系)に変換し、その後のトルクと磁束の独立制御の基礎を築くことです。
PMSM用センサレスフィールドオリエンテッド制御(FOC)のコアロジックフレームワーク
(出典:Microchip)
1. クラーク変換の物理的背景と座標定義
クラーク変換は、FOCアルゴリズムの第一段階の前処理です。変数を三相静止座標系から二相静止座標系にマッピングすることで、次元削減とデカップリングを実現し、その後のパーク変換とトルク/磁束の非干渉制御の数学的基礎を提供します。以下の図は、3次元から2次元への単純化プロセスを示しています。
(出典:Microchip)
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左側:三相静止座標系(abc座標系)
これはモータの固定子の三相巻線(a、b、c相)に対応する座標系で、空間的に120°間隔で対称に分布しています(図中のa、b、c軸の成す角は120°)。実際の制御では、三相電流 ia、ib、ic はこの座標系で結合されます(三相平衡条件:ia + ib + ic = 0を満たすこと)。 -
右側 :二相静止座標系(αβ座標系)
これは仮想2次元座標系です。α軸はa相巻線の軸と一致し(静止したまま)、β軸はα軸に垂直です(α軸より90°進相)。両軸は空間で静止したままであり、モータのローターから独立しています。
2. 数学的原理と変換式
クラーク変換の核心は、変換の前後で電力保存を確保しながら、数式を通じて三相変数を二相座標系にマッピングすることです。
- 入力: 三相電流の任意の二相(例えば、 ia、ib)です。ic = -ia - ib はバランス条件から導出できるので、ic の検出は不要です。
- 出力: α軸の電流 iα(a相電流に直接対応)とβ軸の電流 iβ (a相電流とb相電流を合成した垂直成分)です。
3. FOCにおける核心的役割
クラーク変換の役割は2つのポイントに要約されます。
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次元削減とデカップリング: 複雑な三相変数(3つの結合量)を二次元変数(2つの独立量)に簡素化し、制御アルゴリズムの複雑さを大幅に軽減します。例えば、三相電流の動的変化を同時に扱う必要がなく、 iα と iβ のみを制御すれば良いことになります。
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次の変換の基盤構築: クラーク変換で得られた iα と iβ は、静止座標系の変数です。その後、パーク変換(回転座標系変換)により、さらにローターと同期して回転する id (磁束成分)と iq (トルク成分)に変換することができます。最終的には、トルクと磁束の独立制御が可能になります(DCモータのローター制御と界磁制御に似ています)。
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