三相電源システム
電気工学上、三相電源システムとは、周期の3分の1だけ時間的にずれた交流電圧を伝える少なくとも3本の導体を持つものです(各相は同じ周波数と電圧振幅に設定されていますが、位相は120°シフトしており、電気サイクル中に一定の電力を伝達することができます)。下の図1は、三相システムの瞬時電圧の典型的な波形を1サイクルの時間領域で表したものです。
図1. 三相システムの時間領域波形
回路の接続では、これらは相と呼ばれ、通常、A、B、CまたはL1、L2、L3と表記されます。三相システムには、デルタ(∆)結線とスター(Y)結線(地域によってはワイ結線とも呼ばれる)があります。図2は、デルタ結線(∆)とスター結線(Y)の典型的な回路接続を示しています。
図2. デルタ型(左図)とスター型(右図)三相システムの回路接続
三相電源ラインフィルタ
3相フィルタは、周波数コンバータ、モータードライブ、工作機械などのアプリケーションにおいて、電磁波の影響を受けやすい領域内の不要なEMI(電磁干渉)ノイズを低減することができます。動作周波数の範囲は約47~400Hzです。機器の電源投入口に設置することで、このフィルタはラインノイズが機器に侵入するのを防ぎます。ただし、EMIフィルタは、機器から発生するノイズが電力線を出たり入ったりするのを防ぐこともできます。
CISPR 32(EN 55032)やFCC Emissions Limitなどの規制では、電力線に戻ることが許される最大許容ノイズレベル(単位:dB)が規定されています。三相EMIフィルタの設計には、入力電流、線間電圧、サイズ制限、必要な挿入損失などの一般的な要件があります。これに加えて、三相フィルタの構成は設計において重要な役割を果たします。
CISPR 32(EN 55032)放射エミッション限度:
CISPR 32によると、クラスAの工業環境では10メートル、クラスBの住宅環境では3メートルの距離で測定した場合、30~230MHzで40dBuV/m、230~1000MHzで47dBuV/mとなっています。これは、例えば100MHzでの電界強度が1mあたり100マイクロボルトのレベルに相当します。
FCC放射エミッション限度:
CFR47のPart15によると、30~88MHzでは100uV/m、88~216MHzでは150uV/m、216~960MHzでは200uV/m、960MHz以上では500uV/mと制限されています。これにより、以下のような3メートルの限界値と、それぞれのソースパワーの概算が得られます。
図3. 様々な周波数範囲における最大許容ノイズレベル、CISPR(dBuV/m)およびFCC(uV/M)のエミッション限度
スター型フィルタ(Yあるいはワイ):
スターフィルタは、スイッチモードの電力変換装置など、中性点(ニュートラル)接続を必要とする用途によく使用されます。スター型は、3本の各相が1つの中性点に接続されたスターまたは「Y」の構成を採用しています。三相スターシステムでは、1本の中性線(N)が必要で合計4本の配線となります(3相4線式)。そのため、Delta ElectronicsのTYシリーズPower Line Wye Filterのように、ライン-ニュートラル(単相)とライン-ライン(2/3相)の両方の接続が可能です。
図4. 20TYS9 DeltaのTYシリーズ
図5. 20TYS9の応用回路図(Delta Electronics提供)
デルタ型フィルタ(Δ):
三相デルタフィルタは、三相デルタ電源に接続された機器の電磁干渉を低減するために設計されています。デルタ型は、三相が三角形のように接続されており、一つの巻き線の終端と別の巻き線の始端が接続され、閉回路を形成しています。デルタ型の構成では、伝送に必要な電線は3本だけです(3相、3線)。Schaffner EMCのFN3026シリーズパワーラインデルタフィルタのように、一貫して電力を供給する3つの単相回路があるため、電力負荷はどの瞬間も同じです。
図6. FN3026HP-20-71Schaffner EMC FN302シリーズ
図7. FN3026HP-20-71の応用回路図(Schaffner EMC提供)
以下は、2つのシステムフィルタを比較するための2つの製品を例にとっています。
違い/品番 | DeltaのTYシリーズ | Schaffner EMCのFN3026シリーズ |
---|---|---|
フィルタ形式 | 三相(スター) | 三相(デルタ) |
定格電流 | 10~20A | 10~50A |
構成 | 1段1 | 1段1 |
AC定格電圧 | 440V | 300VAC(位相~グランド/中性点)、520VAC(相間) |
承認機関 | cURus, ENEC、SEMKO | CSA,、ENEC、UL |
取り付けタイプ | シャーシマウント | シャーシマウント |
終端スタイル | クイックコネクト | ターミナルブロック |
表1. TYシリーズとFN3026シリーズのフィルタ比較
段1 とは、フィルタ内の回路の繰り返し(直列に並べる)数を意味します。1段のフィルタは回路が1つです。その回路を繰り返すと2段のフィルタになる、という具合です。段数を増やすことで、フィルタの性能を向上させることができますが、フィルタのパッケージ(サイズ)を最適化する必要があります。また、カットオフ周波数の低減にも効果があります。
スター型構成とデルタ型構成の利点:
スター型
- ニュートラル接続を必要とするシステムに適した設計となっている
- ライン・ツー・ライン(高電圧)またはライン・ツー・ニュートラル(低電圧)の負荷を実現可能な設計
- 同じ電圧サポートに対して個別の絶縁を簡単に実装できる
デルタ型
- 送電用としては、3本の電線で済むためスター型よりも低コスト(ニュートラルラインを省略・接地できる場合)
- 起動トルクが大きい
- スター型よりも大きい定格電流が得られる
- スター型と同じ形状でより優れた性能を実現できる
こちらもご覧ください:3相電源をAC/DCコンバータで使用する場合の注意点