熱管理の例(パート1)

このページの目的は、エレクトロニクス用途で一般的な基本的熱解析計算を行い、そのプロセスに関連する情報を製品文献から見つけるプロセスを説明することです。

例として、図1で示すモデルのように、TO-220パッケージのトランジスタIRL3713を、サーマルインターフェースパッドBER183-NDを介してヒートシンクHS278-NDに取り付けたと仮定します。

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図1. 検討対象のサーマルアセンブリのモデル

エレクトロニクス設計において、通常、電子デバイス、そのデバイスが使用される環境、および設計上になんらかの制約があります。これらのうち1つ以上は未知であることが多く、熱解析のポイントはその空白を埋めるか、関連する決定を行うことです。

いずれにせよ、典型的な方法は、物理的なアセンブリを電気回路としてモデル化し、システムが定常状態の熱平衡状態にある-言い換えれば、システム内のすべての温度が安定し、顕著な変化がないと仮定することです。その仮定は概して正確とは言えず、物事を単純化しており、慎重さを欠いた結果を生む傾向があります。

このプロセスは次のように簡単に要約できます。図2では、システムの構成を示す断面図が対応するサーマルモデル回路と並んで示されています。

  1. ノードと抵抗の描画: 各コンポーネントの活性領域、関係する各機械的表面、および廃熱が最終的に放出される環境は、電気回路のノードとして指定されます。抵抗は、物理的な接続に対応してノード間に描かれます。
  2. グランド基準の選択: 回路/システムのどの点を基準として測定したいかを決めます。図2の回路図では絶対零度が基準として使用されています(回路にそのノードが追加されていることに注意)が、周囲環境を基準点として使用することも一般的です- これに関しては最後のほうで詳しく説明します。
  3. 電圧源の追加: 定義された温度差を持つノード間に電圧源を描画します。この例では、周囲温度と絶対零度の差は、部屋のサーモスタットが設定されている値であれば何でも「定義されている」とみなされます。
  4. 電流源の追加: 熱放散は、グランドと、放散を行う構造(通常は半導体ジャンクション) を表す回路内のノードとの間を接続する電流源としてモデル化されます。
  5. コンポーネント値の設定: 測定データ、設計上の制約条件、またはメーカーの特性値を用いて、実際の使用条件を表すように必要に応じて各コンポーネントに値を割り当てます。
  6. 未知の温度を求める: こうして開発された回路が解析され、各ノードの「電圧」がそのノードの予測温度に対応します。



    図2. 解析対象のアセンブリの断面図と対応するサーマルモデル

図3. IRL3713データシートからの関連部分の抜粋。このデータシートでは、4つの異なるサーマル抵抗に関する情報を提供しています。各数値の意味を理解すること(そして正しい数値を使用すること)の重要性は、最大の数値が最小の数値のほぼ140倍であること、同じ記号の2つの数値の間に約50%の差があることから明らかと思われます。

ノードと抵抗を描く: ここでの目的は、直接的または間接的に温度が問題となるシステム内の物理的な点を特定することです。半導体デバイスの典型的なケースでは、パッケージ内に埋め込まれたデバイスの実際の機能部分(一般に「ジャンクション」と呼ばれる)の温度が重要な関心事項です-デバイスの挙動に影響を与えるのがこの温度です。この温度は通常、パッケージの外側の温度とは異なり、取り付けられているヒートシンクの表面とも異なり、さらに周囲の大気の温度とも異なります。

図示の3つの抵抗モデルは、ヒートシンクを追加して使用される多くのスルーホールおよびシャーシ実装部品にごく一般的に使用されており、パワートランジスタとソリッドステートリレーがその2つの例です。面実装部品の評価プロセスでは、より単純なモデルがしばしば使用されます。

コンポーネント値の設定: これは、暗中模索のように見える部分であり、実のところ、多くの場合、経験則に基づく推測を伴います。このモデルには3つの抵抗があり、問題の電子デバイス、取り付けられるヒートシンク、そしてどのような熱インターフェース材料を選択するかという3つの異なる項目を表しています。 各熱抵抗に関する情報は、一般に、対応するデータシートに記載されており、多くの場合、熱抵抗を示す記号Rϴで表され、添え字の追加文字は、特定の熱抵抗が参照されていることを示しています。通常、個別のヒートシンクとともに使用されるコンポーネントは、一般的にRϴJCjunction-to- case(ジャンクション-ケース))として熱抵抗の数値が記載されています。これはデバイスの内部アクティブ領域と、ヒートシンクが取り付けられるように設計されているパッケージの外側の点との間の熱抵抗になります。

もう1 つの一般的な表現はRϴJAです。 junction-to- ambient(ジャンクション-周囲環境)の熱抵抗を表します。これは通常、ヒートシンクが追加されていない、単に空間にぶら下がっている部品に適用され、デバイスの内部と外界の間のトータルの熱抵抗を表しています。これらの数字はいくつかの理由から、しっかりと懐疑的な目で見るべきです。

  • 面実装部品の場合、仕様は、特定のサイズ、特定の部品のフットプリント、試験中に特定の向きの基板に実装されたデバイスを測定した結果に基づいていることが多く、実際のアプリケーション条件が再現される可能性は低いです。
  • 与えられた数値にまとめられる自然対流熱伝達プロセスは、アプリケーション変数の影響を非常に受けやすい傾向があります。

あまり一般的ではありませんが、役立つ情報に、RϴJSとして表される、j unction-to- s older-point(ジャンクション-はんだ付け点)の熱抵抗があります。これは、RϴJCの数値に類似していますが、デバイスの機能的な内部と、ヒートシンクとして機能する回路基板にはんだ付けされる点との間の熱抵抗を表しています。RϴJSとRϴJC の数値はどちらも比較的予測可能で一貫性のある要素(デバイスの製造材料とその組み立て方法)に基づいているため、これらの数値はさまざまなデバイスを比較するのに最も役立ち、実験観察と一致する計算結果が得られる可能性が最も高くなります。

インターフェース抵抗:

図4は、この例で選択したサーマルインターフェースパッドのデータシートからの抜粋で、TO-220パッケージに適合するようにカットされたBergquistのSil-Pad 900S素材で構成されています。このパッドの熱特性は3つの異なる方法で評価されています。

熱伝導率(W/m*K): ASTM D5470試験法に基づくバルク材料の熱性能を表します。この数値を使用するには、対象の材料サンプルの厚さと界面の面積の両方を知る必要があります。

熱インピーダンス(°C*in2/W): この一連の数値は、接触面積の関数としての材料の熱抵抗(「抵抗」と「インピーダンス」は、熱モデルを取り扱う場合では同じ意味で使用されることがあります)を特徴付けるもので、印加されるクランプ圧力の値を変化させた場合の表です。(クランプ力とクランプ圧の違いに注意してください。)これは反転した形式で表される熱伝導率の数値と似ていますが、この数値を使用するためには、インターフェースの面積とクランプ圧力だけがわかっていればいいのです- 材料の厚さと、さまざまなクランプ圧力の下での厚みの変動が考慮されます。これらの数値は、この特定のインターフェース材料を任意の接触領域に使用する場合に注目すべきものです。適用されたクランプ圧力に基づいて熱インピーダンスを調べ、インターフェースの面積で割ると、熱抵抗の数値が得られます。

TO-220熱性能(°C/W):この一連の数値は、TO-220テストパッケージを使用して測定された熱抵抗の特徴を示しています。注目すべきは、クランプ圧によって接触面積はそれほど変化しないにもかかわらず、TO-220の熱性能と熱インピーダンスの値の比率は変化するということです。この食い違いは、採用した試験方法の違いに起因するもので、この種の問題における設計計算を検証するための実証試験の必要性を示しています。

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図4. BER183-NDデータシートからの抜粋

このサンプルの部品はTO-220パッケージなので、TO-220熱性能データを使用します。選択した取り付け機構によって加えられるクランプ圧の量を理解することが必要です。スプリング式クランプ機構の場合、これはメーカー提供のデータから得られる場合と得られない場合があります。ネジ式ファスナーを使用する場合は、組み立て時に取り付けボルトに規定されたトルク量に基づいてユーザーが決定します。この例では、50PSIの取り付け圧力のデータを使用します。TO-220パッケージの公称寸法に基づくと、これは約12ポンド(53ニュートン)のクランプ力に相当し、不合理ではありません。このような状況下では、この例のトランジスタとヒートシンク間の機械的インターフェースの熱抵抗は、約2.9°C/Wと推定されます。

ヒートシンクの熱抵抗:
ヒートシンクのメーカーが製品に2つの異なる特性曲線を提供するのは珍しいことではなく、大まかに言うと、それぞれファンなしアプリケーションとファン搭載アプリケーションに相当する自然対流と強制対流での挙動を説明するためです。また、複数の製品が同じチャートで特徴付けられることも珍しくないため、関心のある情報を特定するのが少し難しくなることもあります。

図5に示すカタログの抜粋では、5つの製品が4つの異なる曲線を用いて特性評価されています。この例では製品530614が選ばれているため、破線が対応する曲線であり、実線曲線に付けられた矢印は、どの軸ラベルのセット(上と右軸、あるいは下と左軸)が同様の形状の曲線に適用されるかを示しています。それを考慮すると、2つの異なる情報セットが与えられていることがわかります。つまり、風速の関数としての熱抵抗と、消費電力の結果としての温度上昇です。

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図 5. HS278-ND(Aavid品番:530614B00000G)製品カタログより抜粋
(矢印/ハイライトを追加)

明言はされていませんが、前者は強制的な気流が存在する状況で使用され、後者はヒートシンクによって加熱された空気の浮力だけがヒートシンクの表面を横切って空気の移動を引き起こす力となる自然対流に適用されるということです。

モデルに組み込むためのRϴsink-ambient値を計算するという点では、強制空冷の場合、ヒートシンクを横切る空気の流速に対応するポイントで、製品選択によって決定された適切な曲線から、グラフの右側の目盛りでその値を読み取ります。風速を500フィート/分(2.5m/秒)とすると、このヒートシンクの熱抵抗は7°C/W弱と推定されます。

何らかの理由で強制空気に不具合が生じたり、そもそも強制空気が供給されなかったりした場合、ヒートシンクを通してどれだけの熱パワーが移動しているのかを知る必要があります。これが、ここでのモデルにおけるPThermalの値です。このような場合、下と左の目盛りが適切な曲線とともに使用されます。このチャートは熱抵抗(単位は°C/W)ではなく、取り付け面の温度上昇を示し、単位は単に°Cであることに注意してください。値を検索するために、モデル内のPThermalの値は既知でなければならないので、ここでメーカーは、熱モデル内のPThermal*Rϴsink-ambientの結果を提供しています。必要であれば、熱抵抗値を求めるには、温度上昇を熱放散値で割るだけですみます。例えば、自然対流で4ワットの放熱が必要な場合、ヒートシンクの取り付け面の温度は周囲に対して約80°C上昇することになります。80°C/4W=20°C/Wです。これは、500フィート/分の強制気流で達成される7°C/Wの約3倍です。

熱電力の入力の計算:

デバイスが動作する際に発生する熱電力の量を計算することは、(固定抵抗器に直流電圧を印加する場合のように)単純な作業から、高周波スイッチング回路に使用されるトランジスタの場合のように、かなり複雑なものまであります。これもまた、別の記事で取り上げた方がよい話題です。この例では、4ワットの電力がトランジスタで消費されていると仮定します。

未知の温度を求める:

熱モデル内のさまざまなコンポーネントの値が確定すれば、オームの法則などの基本的な回路解析の概念を用いて、システム内のさまざまなノードの温度を予測することができます。この例では、最終的に重要なのはトランジスタの内部温度です。これは、すべての熱抵抗を合計し、熱消費電力数を掛け合わせ、その結果を周囲温度に加えれば簡単に求めることができます。

この例で使用した状況では、ヒートシンクを横切る500FPMの気流(この数値はデバイスの定格動作範囲内であり、快適な数値です)を設定した場合、トランジスタの内部は約66°Cに留まると予想されます。もし気流を作り出す装置が故障し、システムが自然対流動作モードに戻った場合、ジャンクション温度は120°C近くになると予想されます。かなり高温になりますが、それでも部品の定格動作範囲内であり、定格最大値に達するまでには少し余裕があります。熱的な観点からは、この例で提案されている動作条件は極めて合理的に見えるでしょう。

このモデルには基本的に2つの部分があることに注意してください。1つはシステム自体(Rϴ値の合計にPThermalを乗算)を表し、もう1つ(TAmbient)はシステムが動作している環境を表します。環境は様々であるため、モデルの接地基準として周囲環境の温度を割り当て、ΔTJ-Aと表されるデバイスの内部(ジャンクション部)温度と周囲環境との温度差を求めるのが一般的です。これは、熱計算の結果を表現する方法として、より扱いやすく一般化されたもので、1つの数値のみで広い意味を表現するように伝える必要があるためです。「周囲温度が25°Cのとき、トランジスタの温度は66°Cになる」と言うより、「トランジスタは周囲環境より41°C高くなる」と言う方が簡単です。

結論として、計算結果を物理的な試験で検証することの重要性は、繰り返し言及する必要があります。特に、開発中のモデルと対象システムとの一致に関しては、エラーや不正確さが発生する可能性が十分にあります。ヒートシンクを横切る気流の速度や、加えられるクランプ圧力の量などの要因は、正確に測定したり予測したりすることが難しく、これらの入力の誤差が計算結果に重大な影響を及ぼす可能性があります。


図6. サーマル回路モデルとサンプル値、および結果として得られるジャンクション温度の計算結果を示す

図7. 同じモデルを簡略化し、周囲環境との温度差を計算したもの



オリジナル・ソース(English)